捨てられた聖女様

青の雀

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 捜索隊はジェニファーの行方を懸命に探索するも、結局見つからなかった。でも、今戻れば怒られる。見つかるまで戻ってくるなと言われているから。

 それで国境線上にテントを張り、しばらく滞在しながら少しずつ場所を移動して、さらに探し続けるつもりでいる。

 国境近くに来ても、バルサンからの冷気は衰えを見せず、寒気団が居座ったかのように雪が降り続ける。

 王都でも積雪が1メートルを超えるようになり、さすがに不要不急の外出は控えられている。

 公女ルフィは、自分を聖女呼びしていたことも、嘘のようになかったこととして、ふるまい。使用人からも反感を買っている。

 バルサンの民衆も、自分たちが追い出した聖女様の安否を気に掛けるも、新たな真の聖女様ルフィを求めて、大雪の中、王城へ押し寄せる。

 真の聖女様なら、この事態を何とかしてくださるはずだと信じて。

 それが肝心の公女ルフィ様は逃げ回って、一向に民衆の前に姿を現さない。

 ついに、一人の農夫が怒りに任せて、王城の門の前で、声を上げた!

「真の聖女様、どうか、私の畑の芋を返してください!アナタ様が真の聖女様とおっしゃるから、ジェニファー聖女様の祝福を遠ざけ、生卵を投げつけました。せめて、その責任を取ってください」

 勇気を持って、声を上げた農夫に、一瞬他の民衆はたじろぐが、すぐに追随して、

「そうだ!そうだ!俺は、聖女ジェニファー様に穀つぶしの税金ドロボーと言いながら、生ごみを投げつけました。それで神の怒りを買ったかもしれないと、今になって思っております。ですから、真の聖女様が神の怒りを鎮めてください!お願いします。このままでは秋どころか冬も越えられそうにありません。あなた様も聖女様なら、ジェニファー様以上の御力を我々に示してください」

 ルフィは、王城の自室の中で、民衆の声を聴きながら、

「そんなこと知らないわよ。ジェニファーを苛めたのはアナタたちなのだから、それをわたくしのせいにするなど、お門違いもいいところよ」

 将来、国母となる公女の発言には重みがある。ジェニファーを苛めた一番の首謀者がルフィであることは、誰もが知っている周知の事実だというのに、それを知らぬ存ぜぬで通そうとしているあさましさに、王城の使用人は顔をしかめている。

 そこへ国境線にいたジェニファーの捜索隊から知らせが入る。

 スワっ!ジェニファー聖女様が見つかったのかと、一同は喜色ばむが、数秒後に意気消沈してしまう。

 それはビバーブしている最中に野犬に襲われ、捜索隊は全滅したとの知らせだった。訓練を重ね、重装備をしている騎士さえも、野犬に食いちぎられ、全滅するとは、もはや聖女様の生存は致命的となったことを物語っている。

 誰も一言も発することができないまま、門の外の民衆はさらに増え続けている。

 事態を重く見たルフィの父、アイゼンハワー公爵が王城にやってきて、ルフィに民衆に対して説明するように諫言する。

「嫌よ。どうして、わたくしがあんな下賤の者たちに謝罪しなければならないの?」

「ジェニファー聖女様を追い出したのは、誰あろうとルフィの仕業だろ?身分のある者は、それなりの責任を問われる。だから、公女であるからには、きちんと民衆に説明してきなさい」

 そこまで、父に言われたら、従うしかない。従わなければ、この寒空に勘当され、追い出されてしまう。公爵という後ろ盾を失くした令嬢など、平民女よりも劣る。

 渋々、豪華なドレスに毛皮のケープを纏い、民衆の待つ門のところまで行くと、すでに積雪は2メートルを超えていた。

「わたくしは聖女様であるなどということは、一言も申しておりません」

 声を張り上げ言うも、民衆の怒号にかき消され、後ろの方まで聞こえない。

「なんだとぉ!この嘘つき女!お前が聖女様だというから、喜んでジェニファー様を排除したんだぞ。この落とし前をどうつけてくれる!」

「そうだ!そうだ!」

「おらの畑のカボチャを返してくんなせえ」

「俺の麦を返せ!」

「何よ!他人のせいにしないでくれる?アナタたちが勝手にあの貧民女を苛めて、国外に追いやったのではありませんか?わたくしは、何度も申し上げている通り、何も知らないし、何もやっていません。こうなったのは、すべてコックローチのせいなのです。恨むなら、コックローチを恨みなさい!」

「まだ、この期に及んで責任逃れするとは、それでもお貴族様か!やっちまえ」

「な、何よ。無礼は許しません」

 衛兵も圧倒的多数の民衆を前にして、なす術がなく、あっという間に門扉がこじ開けられ。壊されてしまう。

 そして王城になだれ込んだ一部の民衆が、ルフィを押さえつけ、豪華なドレスに宝石と毛皮をはぎ取る。

 これを他国に売りつければ、少しの食料にありつけるからだ。

 すかさず民衆のうちの誰かがスコップで、雪の穴を掘り、下着姿となったルフィをその穴の中に入れ、上から雪をかぶせる。

「た、たすけてー!おとう……さ……」

 そこまでで、ルフィの声は途絶える。雪で窒息した模様。

 そこに父アイゼンハワー公爵が来て、民衆に深々と頭を下げ、その場は収まった。娘ルフィが殺されても、誰が犯人かと突き止めないということが評価され、みんなそれぞれのところへ帰って行く。

 アイゼンハワー公爵は、ルフィの遺体を掘り起こすことなく、「当家にはそのような娘はいない」で押し通すことになった。

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