捨てられた聖女様

青の雀

文字の大きさ
3 / 6

3.

しおりを挟む
 時はさかのぼり、ジェニファーが罪人用の馬車に乗せられ、国境線上で捨てられるときのこと。

 国境線上と言ってもラインではなく、その幅は数十メートルに及ぶ。隣国との森に隣接しているところもあり、木が生い茂り地面も整備されていない。ところどころ岩肌がむき出しになっているところもある。

 御者は枯れ木の杭が出ているところを目がけて、ジェニファーを投げ捨てた。幸い、木の杭に刺さることなく地面に着地したが、カラダ中のあちこちが痛い。

「ここで朽ち果てるがいいさ。ニセ聖女様」

 御者は、さらに唾を吐き捨てようとしたが、なぜか急にめまいを催し、口がカラカラになっていく感じがする。口を開くことも、億劫になってきたので、そそくさと馬車に乗り込み、ブツブツと文句を思い浮かべながら王都へ戻っていった。

 生まれて間もなく教会の前に捨てられ、聖女に覚醒するまでの間、ずいぶん教会で神官から理不尽な暴力を打ちひしがされ続けてきたので、こんなものぐらい大したことはないと思っていた。

 だけど、王家の庇護の下、至れり尽くせりの王城で暮らす生活に慣れきってしまっていたカラダには、堪える。上半身を辛うじて起こすが、足首を捻ったみたいで起き上がれない。

 治癒魔法をかけようにも、両手は後ろ手に括られたままで、本当にここで死ぬのかもしれないと思い、恐怖心が湧き上がってくる。

 そんな時に、偶然、薪を拾いに来ていた騎士様に遭遇する。「大丈夫か?」と駆け寄ってくださり、縄を解いてくださる。

 お姫様抱っこのまま、馬に乗せられ、どこかで治療してくださるつもりらしい。

「ただし、我が国アースレッドは、レッドと言われるぐらい、まあレッドたる由縁で草木も生えない超貧乏国であるから、満足な食事も提供できないがいいか?」

「わたくしは、バルサン国で聖女をしておりましたジェニファーでございます。公女ルフィ様が聖女様になられたと聞き、わたくしは捨てられてしまいました。どこにも行くあてがございません。お役に立てないかもしれませんが、宜しくお願いします」

 せめてものお礼に、と思いジェニファーは聖なる力を道すがらに開放していく。ここの所、毎日、コックローチから、民衆から、ルフィ公女様から、お貴族様から責められ、嫌味を言われ、ほとんど寝ていなく寝不足になっていたものだから、馬の上でついウトウトしてしまう。

 目が覚めると、もうすっかり夜の帳が落ちていた。なぜか部屋の外が騒がしい。

 ジェニファーは、御礼のために聖なる力を解放し続けていたため、街道沿いやその周辺で作物が育ちすぎていたのだ。今まで聖なる力の「せ」の字の恩恵も受けていなかった植物にとって、それはまさに恵みの力であり、生きる活力となった。

 わずかたった1時間で生育した植物を収穫しても、種から撒き、また1時間たてば、収穫できるまで成長する。

 アースレッド国の民衆も王家の人々も、「これが聖女様の御力なのか」と収穫したばかりの作物を眺め、驚嘆に満ちた声を漏らしている。

 アースレッドの気候は、季節を問わず、毎日、時雨がちで、陽もほとんど当たらない。それが聖女様が来られた時間帯、生まれて初めて夕陽を見たという者まで現れたのだ。

「明日、聖女様の御力を我が国全土に広めていただけるように、お願いをせねば。そのためにも美味しい食事を用意して、聖女様がお目覚めになるのを待とう」



-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-



 ジェニファーは、ベッドから起き上がり、そろりと床に足をつけてみる。まだズキンと痛みが残るが、誰かが包帯を巻いてくれたみたいで、少しは楽になったよう。

 ジェニファーはこっそり包帯の上から治癒魔法をかけて、すっかり歩けるようになった。

 部屋の外へ出てみると、騎士や女官たちは驚いた顔をしながら、わらわらとジェニファーの元へ寄ってくる。

「聖女様、お食事の前に湯浴みでもされますか?」

「はい」

 そのまま大勢の手により、風呂場へ連れて行かれ、バルサン王が存命の時ぶりになろうか。丁寧に洗ってもらえた。

 投げ捨てられた時にできた傷だろうか、膝に青あざができてしまっている。入浴後、治癒魔法でそれも治した。

 ドレスは、バルサン国よりも控えめで質素ではあったが、装飾が少なく、ジェニファーには好みのタイプのドレスに着替えさせられ、食堂へ連れて行かれる。

 食堂には、騎士様が待っておられて、ジェニファーの姿を見ると、椅子から立ち上がりエスコートしてくださる。

「申し遅れました。私はアースレッド国の第1王子で、名はスチュワート・アースレッドと申します。この度は、偶然にも我が国にお越しくださいまして、誠にありがとうございます。聖女様のおかげで、作物が見事に蘇りました」

「いいえ。わたくしのほうこそ、助けてくださりありがとう存じます。怪我の治療をしてくださり感謝申し上げます」

 お互いがお互い同士、頭を下げ合う光景に、使用人たちは笑いをこらえている。

「できれば、我が国に長く逗留してくださることを願っています。今宵は久しぶりにまともな食事にありつけることができました。これもひとえに聖女様のおかげでございます。さっささ。料理が冷めないうちに聖女様もどうぞ」

 長い挨拶の果てに、ようやく食事にありつける。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄?から大公様に見初められて~誤解だと今更いっても知りません!~

琴葉悠
恋愛
ストーリャ国の王子エピカ・ストーリャの婚約者ペルラ・ジェンマは彼が大嫌いだった。 自由が欲しい、妃教育はもううんざり、笑顔を取り繕うのも嫌! しかし周囲が婚約破棄を許してくれない中、ペルラは、エピカが見知らぬ女性と一緒に夜会の別室に入るのを見かけた。 「婚約破棄」の文字が浮かび、別室に飛び込み、エピカをただせば言葉を濁す。 ペルラは思いの丈をぶちまけ、夜会から飛び出すとそこで運命の出会いをする──

虐げられたアンネマリーは逆転勝利する ~ 罪には罰を

柚屋志宇
恋愛
侯爵令嬢だったアンネマリーは、母の死後、後妻の命令で屋根裏部屋に押し込められ使用人より酷い生活をすることになった。 みすぼらしくなったアンネマリーは頼りにしていた婚約者クリストフに婚約破棄を宣言され、義妹イルザに婚約者までも奪われて絶望する。 虐げられ何もかも奪われたアンネマリーだが屋敷を脱出して立場を逆転させる。 ※小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。

婚約破棄されたので、もう誰の役にも立たないことにしました 〜静かな公爵家で、何もしない私の本当の人生が始まります〜

ふわふわ
恋愛
王太子の婚約者として、 完璧であることを求められ続けてきた令嬢エリシア。 だがある日、彼女は一方的に婚約を破棄される。 理由は簡単だった。 「君は役に立ちすぎた」から。 すべてを失ったはずの彼女が身を寄せたのは、 “静かな公爵”と呼ばれるアルトゥール・クロイツの屋敷。 そこで待っていたのは―― 期待も、役割も、努力の強要もない日々だった。 前に出なくていい。 誰かのために壊れなくていい。 何もしなくても、ここにいていい。 「第二の人生……いえ、これからが本当の人生です」 婚約破棄ざまぁのその先で描かれる、 何者にもならなくていいヒロインの再生と、 放っておく優しさに満ちた静かな溺愛。 これは、 “役に立たなくなった”令嬢が、 ようやく自分として生き始める物語。

機械仕掛けの夜想曲

恋愛
名ピアニストである伯爵令嬢フローリア・ベルクレイン。素晴らしい演奏技術を持つ彼女だが、完璧すぎる旋律故に「機械仕掛けの演奏」と陰口を叩かれていた。さらにそのことで婚約解消をされ、妹に乗り換えられてしまう。妹にもそれをなじられ、心が折れてしまったフローリアは「少し休みたい」とピアノを弾くことをやめてしまう。 そして、ある夜、アルベルト・シュタインヴァルトが突如来訪。「人命を救うために、フローリア嬢のピアノの演奏技術が必要だ」と告げる。それにフローリアがとった行動は……。 ※他のサイトにも重複投稿してます。

【完結】ずっとやっていれば良いわ。※暗い復讐、注意。

BBやっこ
恋愛
幼い頃は、誰かに守られたかった。 後妻の連れ子。家も食事も教育も与えられたけど。 新しい兄は最悪だった。 事あるごとにちょっかいをかけ、物を壊し嫌がらせ。 それくらい社交界でよくあるとは、家であって良い事なのか? 本当に嫌。だけどもう我慢しなくて良い

魔女の祝福

あきづきみなと
恋愛
王子は婚約式に臨んで高揚していた。 長く婚約を結んでいた、鼻持ちならない公爵令嬢を婚約破棄で追い出して迎えた、可憐で愛らしい新しい婚約者を披露する、その喜びに満ち、輝ける将来を確信して。 予約投稿で5/12完結します

エデルガルトの幸せ

よーこ
恋愛
よくある婚約破棄もの。 学院の昼休みに幼い頃からの婚約者に呼び出され、婚約破棄を突きつけられたエデルガルト。 彼女が長年の婚約者から離れ、新しい恋をして幸せになるまでのお話。 全5話。

【完結】義妹に全て奪われた私。だけど公爵様と幸せを掴みます!

朝日みらい
恋愛
リリアナは美貌の義妹イザベラにすべてを奪われて育ち、公爵アルノーとの婚約さえも破棄される。 役立たずとされて嫁がされたのは、冷徹と噂される公爵アルノー。 アルノーは没落した家を立て直し、成功を収めた強者。 新しい生活で孤立を感じたリリアナだが、アルノーの態度に振り回されつつも、少しずつ彼の支えを感じ始め――

処理中です...