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時はさかのぼり、ジェニファーが罪人用の馬車に乗せられ、国境線上で捨てられるときのこと。
国境線上と言ってもラインではなく、その幅は数十メートルに及ぶ。隣国との森に隣接しているところもあり、木が生い茂り地面も整備されていない。ところどころ岩肌がむき出しになっているところもある。
御者は枯れ木の杭が出ているところを目がけて、ジェニファーを投げ捨てた。幸い、木の杭に刺さることなく地面に着地したが、カラダ中のあちこちが痛い。
「ここで朽ち果てるがいいさ。ニセ聖女様」
御者は、さらに唾を吐き捨てようとしたが、なぜか急にめまいを催し、口がカラカラになっていく感じがする。口を開くことも、億劫になってきたので、そそくさと馬車に乗り込み、ブツブツと文句を思い浮かべながら王都へ戻っていった。
生まれて間もなく教会の前に捨てられ、聖女に覚醒するまでの間、ずいぶん教会で神官から理不尽な暴力を打ちひしがされ続けてきたので、こんなものぐらい大したことはないと思っていた。
だけど、王家の庇護の下、至れり尽くせりの王城で暮らす生活に慣れきってしまっていたカラダには、堪える。上半身を辛うじて起こすが、足首を捻ったみたいで起き上がれない。
治癒魔法をかけようにも、両手は後ろ手に括られたままで、本当にここで死ぬのかもしれないと思い、恐怖心が湧き上がってくる。
そんな時に、偶然、薪を拾いに来ていた騎士様に遭遇する。「大丈夫か?」と駆け寄ってくださり、縄を解いてくださる。
お姫様抱っこのまま、馬に乗せられ、どこかで治療してくださるつもりらしい。
「ただし、我が国アースレッドは、レッドと言われるぐらい、まあレッドたる由縁で草木も生えない超貧乏国であるから、満足な食事も提供できないがいいか?」
「わたくしは、バルサン国で聖女をしておりましたジェニファーでございます。公女ルフィ様が聖女様になられたと聞き、わたくしは捨てられてしまいました。どこにも行くあてがございません。お役に立てないかもしれませんが、宜しくお願いします」
せめてものお礼に、と思いジェニファーは聖なる力を道すがらに開放していく。ここの所、毎日、コックローチから、民衆から、ルフィ公女様から、お貴族様から責められ、嫌味を言われ、ほとんど寝ていなく寝不足になっていたものだから、馬の上でついウトウトしてしまう。
目が覚めると、もうすっかり夜の帳が落ちていた。なぜか部屋の外が騒がしい。
ジェニファーは、御礼のために聖なる力を解放し続けていたため、街道沿いやその周辺で作物が育ちすぎていたのだ。今まで聖なる力の「せ」の字の恩恵も受けていなかった植物にとって、それはまさに恵みの力であり、生きる活力となった。
わずかたった1時間で生育した植物を収穫しても、種から撒き、また1時間たてば、収穫できるまで成長する。
アースレッド国の民衆も王家の人々も、「これが聖女様の御力なのか」と収穫したばかりの作物を眺め、驚嘆に満ちた声を漏らしている。
アースレッドの気候は、季節を問わず、毎日、時雨がちで、陽もほとんど当たらない。それが聖女様が来られた時間帯、生まれて初めて夕陽を見たという者まで現れたのだ。
「明日、聖女様の御力を我が国全土に広めていただけるように、お願いをせねば。そのためにも美味しい食事を用意して、聖女様がお目覚めになるのを待とう」
-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
ジェニファーは、ベッドから起き上がり、そろりと床に足をつけてみる。まだズキンと痛みが残るが、誰かが包帯を巻いてくれたみたいで、少しは楽になったよう。
ジェニファーはこっそり包帯の上から治癒魔法をかけて、すっかり歩けるようになった。
部屋の外へ出てみると、騎士や女官たちは驚いた顔をしながら、わらわらとジェニファーの元へ寄ってくる。
「聖女様、お食事の前に湯浴みでもされますか?」
「はい」
そのまま大勢の手により、風呂場へ連れて行かれ、バルサン王が存命の時ぶりになろうか。丁寧に洗ってもらえた。
投げ捨てられた時にできた傷だろうか、膝に青あざができてしまっている。入浴後、治癒魔法でそれも治した。
ドレスは、バルサン国よりも控えめで質素ではあったが、装飾が少なく、ジェニファーには好みのタイプのドレスに着替えさせられ、食堂へ連れて行かれる。
食堂には、騎士様が待っておられて、ジェニファーの姿を見ると、椅子から立ち上がりエスコートしてくださる。
「申し遅れました。私はアースレッド国の第1王子で、名はスチュワート・アースレッドと申します。この度は、偶然にも我が国にお越しくださいまして、誠にありがとうございます。聖女様のおかげで、作物が見事に蘇りました」
「いいえ。わたくしのほうこそ、助けてくださりありがとう存じます。怪我の治療をしてくださり感謝申し上げます」
お互いがお互い同士、頭を下げ合う光景に、使用人たちは笑いをこらえている。
「できれば、我が国に長く逗留してくださることを願っています。今宵は久しぶりにまともな食事にありつけることができました。これもひとえに聖女様のおかげでございます。さっささ。料理が冷めないうちに聖女様もどうぞ」
長い挨拶の果てに、ようやく食事にありつける。
国境線上と言ってもラインではなく、その幅は数十メートルに及ぶ。隣国との森に隣接しているところもあり、木が生い茂り地面も整備されていない。ところどころ岩肌がむき出しになっているところもある。
御者は枯れ木の杭が出ているところを目がけて、ジェニファーを投げ捨てた。幸い、木の杭に刺さることなく地面に着地したが、カラダ中のあちこちが痛い。
「ここで朽ち果てるがいいさ。ニセ聖女様」
御者は、さらに唾を吐き捨てようとしたが、なぜか急にめまいを催し、口がカラカラになっていく感じがする。口を開くことも、億劫になってきたので、そそくさと馬車に乗り込み、ブツブツと文句を思い浮かべながら王都へ戻っていった。
生まれて間もなく教会の前に捨てられ、聖女に覚醒するまでの間、ずいぶん教会で神官から理不尽な暴力を打ちひしがされ続けてきたので、こんなものぐらい大したことはないと思っていた。
だけど、王家の庇護の下、至れり尽くせりの王城で暮らす生活に慣れきってしまっていたカラダには、堪える。上半身を辛うじて起こすが、足首を捻ったみたいで起き上がれない。
治癒魔法をかけようにも、両手は後ろ手に括られたままで、本当にここで死ぬのかもしれないと思い、恐怖心が湧き上がってくる。
そんな時に、偶然、薪を拾いに来ていた騎士様に遭遇する。「大丈夫か?」と駆け寄ってくださり、縄を解いてくださる。
お姫様抱っこのまま、馬に乗せられ、どこかで治療してくださるつもりらしい。
「ただし、我が国アースレッドは、レッドと言われるぐらい、まあレッドたる由縁で草木も生えない超貧乏国であるから、満足な食事も提供できないがいいか?」
「わたくしは、バルサン国で聖女をしておりましたジェニファーでございます。公女ルフィ様が聖女様になられたと聞き、わたくしは捨てられてしまいました。どこにも行くあてがございません。お役に立てないかもしれませんが、宜しくお願いします」
せめてものお礼に、と思いジェニファーは聖なる力を道すがらに開放していく。ここの所、毎日、コックローチから、民衆から、ルフィ公女様から、お貴族様から責められ、嫌味を言われ、ほとんど寝ていなく寝不足になっていたものだから、馬の上でついウトウトしてしまう。
目が覚めると、もうすっかり夜の帳が落ちていた。なぜか部屋の外が騒がしい。
ジェニファーは、御礼のために聖なる力を解放し続けていたため、街道沿いやその周辺で作物が育ちすぎていたのだ。今まで聖なる力の「せ」の字の恩恵も受けていなかった植物にとって、それはまさに恵みの力であり、生きる活力となった。
わずかたった1時間で生育した植物を収穫しても、種から撒き、また1時間たてば、収穫できるまで成長する。
アースレッド国の民衆も王家の人々も、「これが聖女様の御力なのか」と収穫したばかりの作物を眺め、驚嘆に満ちた声を漏らしている。
アースレッドの気候は、季節を問わず、毎日、時雨がちで、陽もほとんど当たらない。それが聖女様が来られた時間帯、生まれて初めて夕陽を見たという者まで現れたのだ。
「明日、聖女様の御力を我が国全土に広めていただけるように、お願いをせねば。そのためにも美味しい食事を用意して、聖女様がお目覚めになるのを待とう」
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ジェニファーは、ベッドから起き上がり、そろりと床に足をつけてみる。まだズキンと痛みが残るが、誰かが包帯を巻いてくれたみたいで、少しは楽になったよう。
ジェニファーはこっそり包帯の上から治癒魔法をかけて、すっかり歩けるようになった。
部屋の外へ出てみると、騎士や女官たちは驚いた顔をしながら、わらわらとジェニファーの元へ寄ってくる。
「聖女様、お食事の前に湯浴みでもされますか?」
「はい」
そのまま大勢の手により、風呂場へ連れて行かれ、バルサン王が存命の時ぶりになろうか。丁寧に洗ってもらえた。
投げ捨てられた時にできた傷だろうか、膝に青あざができてしまっている。入浴後、治癒魔法でそれも治した。
ドレスは、バルサン国よりも控えめで質素ではあったが、装飾が少なく、ジェニファーには好みのタイプのドレスに着替えさせられ、食堂へ連れて行かれる。
食堂には、騎士様が待っておられて、ジェニファーの姿を見ると、椅子から立ち上がりエスコートしてくださる。
「申し遅れました。私はアースレッド国の第1王子で、名はスチュワート・アースレッドと申します。この度は、偶然にも我が国にお越しくださいまして、誠にありがとうございます。聖女様のおかげで、作物が見事に蘇りました」
「いいえ。わたくしのほうこそ、助けてくださりありがとう存じます。怪我の治療をしてくださり感謝申し上げます」
お互いがお互い同士、頭を下げ合う光景に、使用人たちは笑いをこらえている。
「できれば、我が国に長く逗留してくださることを願っています。今宵は久しぶりにまともな食事にありつけることができました。これもひとえに聖女様のおかげでございます。さっささ。料理が冷めないうちに聖女様もどうぞ」
長い挨拶の果てに、ようやく食事にありつける。
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