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翌日の早朝も、翌々日の早朝も、城の屋上のテラスで祈りをささげ続けるジェニファー。
陛下から止められたけど、毎日の習慣は、そう簡単にはやめられない。
アースレッド国では、「連続3日間もお日様を拝めたなんて、何か天変地異の始まりではないか」と懸念する人たちや、「奇跡だ!」と騒ぎ出す人たちまで現れ、ジェニファーは困惑を隠せない。
やっぱりアースレッドの人たちにとっては、迷惑行為だったのかもしれない。落ち込むジェニファーにスチュアート殿下は優しく寄り添う。
「この国にとっては、太陽の恵みや収穫は無縁で来たことだから。でも、いずれ民はジェニファー様に感謝することになるよ。誰だって陽に当たりたいし、美味しいものをたくさん食べたいのだから」
それから冬になっても川の水や湖の水が凍らないことに、いちいち驚嘆するアースレッドの人たち。もう、驚かれることになれてしまったジェニファーだが、最近、やけにスチュアート殿下が構ってくるので、少々ウザイ。
一人になりたいと言っているのに、どこへでもついてくる。王子様って、そんなにヒマなの?コックローチは、いつもジェニファーを一人ぼっちにしたまま、どこかへ遊びに行っていたというのに。
というのも、ジェニファーには知らされていなかったのだが、バルサンの教会関係者を名乗る男から、アースレッド国は脅迫まがいのことをされていたみたい。
「聖女様を渡せ。さもなくば、アースレッド国の民を一人残らず殺す」
脅迫文が届いてから、アースレッド国は厳戒態勢に入っている。ただの悪戯にしては、質が悪い。国民全員の命など守り切れるわけはない。
隣国の親戚の話によれば、隣国でも同じような脅迫文が届いているという。でも、隣国には、聖女様はいない。当然だ。アースレッド国にいらっしゃるのだから。
脅迫文の主は、本当は聖女様の行方を知らないと思える。だから手当たり次第に、近隣国に脅迫文を送りつけ、反応があったところを重点的に調べるつもりでいるようだった。
だから余計に動けなくなってしまうアースレッド国。民衆も、川の水が凍らないぐらいで、いちいち騒いでいるが、本心はやっぱり聖女様に感謝しているのだろう。
今まではいくら薪をくべても、ちっとも暖かくならなかった家が、今では薄着でいても風邪も引かない。
貧乏人が病気になると悲惨この上ない。医者にかかれないし、薬も買えない。だから外出から帰ってきたときは、手洗い、うがいが欠かせないのだが、今は少し怠っても風邪は引かない。
-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
バルサン国は、もうジェニファーの行方を追うことを諦めている。民の3分の1が凍死で亡くなり、3分の1が、寒さが原因の病で死んだ。貴族の半数近くが、やはり原因不明の病で床に伏している状態では、捜索に力を入れる余裕などない。
いくら後悔してもしきれない罪をコックローチは背負ってしまった。
もう王位に就くことなど、とっくに諦めている。いっそのこと誰かクーデターを起こしてくれないかとまで、考えているほど、落ちぶれてしまっている。
ルフィが民により嬲り殺しにされてからはというもの、怖くて城の外には出られず、ずっと引きこもりをしている。
アイゼンハワー公爵は、娘の不始末をなかったことにしようと責任逃れをしているし、もうコックローチは後ろ盾を失い完全に彷徨っている状態で、議会にも顔を出さなくなった。
こんな時、ジェニファーがいてくれたら、きっと礼拝堂にこもり、何日でも祈りを捧げ続けてくれただろうに、今はその礼拝堂も埃まみれで誰も掃除をしない。
そういえば、ジェニファーは、いつも誰よりも早く起き、祈りを捧げ、身の回りだけではなく、城の至る所をピカピカに掃除をしては、喜んでいるような変な女性だった。
ジェニファーのいない城は、なんだか薄汚れてきたような感じがするが、気のせいではないだろう。
教会は独自で探索を行っているようだが、ジェニファーが見つかったという知らせを受け取っていない。
だいたい生きているのか死んでいるのかも、ハッキリしないのだ。もし、ジェニファーが生きていたなら、バルサンの窮地に必ず駆けつけてくれるという確信が当初はあったが、いつまで経ってもなしのつぶては、あまりに残酷。やっぱり、もう亡くなっていると見た方が自然な流れなのだ。
それで絶望し、気落ちし、もう生きる気力もなくなっていく。幼いときから、ずっと一緒に育ち、いつも傍にいてくれて当然の存在が、今はいない。
追い出したのは、自分なのだから他の誰にも怒りをぶつけることもできない。
あーあ。なんで、こんなことになったのだろう?そもそもルフィの口車に乗った自覚はある。
ほんの少し遊びたいと思っただけのことなのに、ルフィが自分が聖女様だと嘘を吐かなければ、今頃、ジェニファーと結婚して、何もかも今まで通り、うまく行ったはずだったのに。
今更ながら、ルフィのしでかしたことに怒りを募らせても、そのルフィも今は雪の下。
陛下から止められたけど、毎日の習慣は、そう簡単にはやめられない。
アースレッド国では、「連続3日間もお日様を拝めたなんて、何か天変地異の始まりではないか」と懸念する人たちや、「奇跡だ!」と騒ぎ出す人たちまで現れ、ジェニファーは困惑を隠せない。
やっぱりアースレッドの人たちにとっては、迷惑行為だったのかもしれない。落ち込むジェニファーにスチュアート殿下は優しく寄り添う。
「この国にとっては、太陽の恵みや収穫は無縁で来たことだから。でも、いずれ民はジェニファー様に感謝することになるよ。誰だって陽に当たりたいし、美味しいものをたくさん食べたいのだから」
それから冬になっても川の水や湖の水が凍らないことに、いちいち驚嘆するアースレッドの人たち。もう、驚かれることになれてしまったジェニファーだが、最近、やけにスチュアート殿下が構ってくるので、少々ウザイ。
一人になりたいと言っているのに、どこへでもついてくる。王子様って、そんなにヒマなの?コックローチは、いつもジェニファーを一人ぼっちにしたまま、どこかへ遊びに行っていたというのに。
というのも、ジェニファーには知らされていなかったのだが、バルサンの教会関係者を名乗る男から、アースレッド国は脅迫まがいのことをされていたみたい。
「聖女様を渡せ。さもなくば、アースレッド国の民を一人残らず殺す」
脅迫文が届いてから、アースレッド国は厳戒態勢に入っている。ただの悪戯にしては、質が悪い。国民全員の命など守り切れるわけはない。
隣国の親戚の話によれば、隣国でも同じような脅迫文が届いているという。でも、隣国には、聖女様はいない。当然だ。アースレッド国にいらっしゃるのだから。
脅迫文の主は、本当は聖女様の行方を知らないと思える。だから手当たり次第に、近隣国に脅迫文を送りつけ、反応があったところを重点的に調べるつもりでいるようだった。
だから余計に動けなくなってしまうアースレッド国。民衆も、川の水が凍らないぐらいで、いちいち騒いでいるが、本心はやっぱり聖女様に感謝しているのだろう。
今まではいくら薪をくべても、ちっとも暖かくならなかった家が、今では薄着でいても風邪も引かない。
貧乏人が病気になると悲惨この上ない。医者にかかれないし、薬も買えない。だから外出から帰ってきたときは、手洗い、うがいが欠かせないのだが、今は少し怠っても風邪は引かない。
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バルサン国は、もうジェニファーの行方を追うことを諦めている。民の3分の1が凍死で亡くなり、3分の1が、寒さが原因の病で死んだ。貴族の半数近くが、やはり原因不明の病で床に伏している状態では、捜索に力を入れる余裕などない。
いくら後悔してもしきれない罪をコックローチは背負ってしまった。
もう王位に就くことなど、とっくに諦めている。いっそのこと誰かクーデターを起こしてくれないかとまで、考えているほど、落ちぶれてしまっている。
ルフィが民により嬲り殺しにされてからはというもの、怖くて城の外には出られず、ずっと引きこもりをしている。
アイゼンハワー公爵は、娘の不始末をなかったことにしようと責任逃れをしているし、もうコックローチは後ろ盾を失い完全に彷徨っている状態で、議会にも顔を出さなくなった。
こんな時、ジェニファーがいてくれたら、きっと礼拝堂にこもり、何日でも祈りを捧げ続けてくれただろうに、今はその礼拝堂も埃まみれで誰も掃除をしない。
そういえば、ジェニファーは、いつも誰よりも早く起き、祈りを捧げ、身の回りだけではなく、城の至る所をピカピカに掃除をしては、喜んでいるような変な女性だった。
ジェニファーのいない城は、なんだか薄汚れてきたような感じがするが、気のせいではないだろう。
教会は独自で探索を行っているようだが、ジェニファーが見つかったという知らせを受け取っていない。
だいたい生きているのか死んでいるのかも、ハッキリしないのだ。もし、ジェニファーが生きていたなら、バルサンの窮地に必ず駆けつけてくれるという確信が当初はあったが、いつまで経ってもなしのつぶては、あまりに残酷。やっぱり、もう亡くなっていると見た方が自然な流れなのだ。
それで絶望し、気落ちし、もう生きる気力もなくなっていく。幼いときから、ずっと一緒に育ち、いつも傍にいてくれて当然の存在が、今はいない。
追い出したのは、自分なのだから他の誰にも怒りをぶつけることもできない。
あーあ。なんで、こんなことになったのだろう?そもそもルフィの口車に乗った自覚はある。
ほんの少し遊びたいと思っただけのことなのに、ルフィが自分が聖女様だと嘘を吐かなければ、今頃、ジェニファーと結婚して、何もかも今まで通り、うまく行ったはずだったのに。
今更ながら、ルフィのしでかしたことに怒りを募らせても、そのルフィも今は雪の下。
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