6 / 6
6.
しおりを挟む
あれから春になっても夏になっても、雪は降り止まない。備蓄していた食料も底をつき、今は、他国からの支援で何とか凌いでいる状態。
このままでは、国が崩壊するのは、目に見えている。
そこまで来て、初めて民衆は、信仰心に目覚め、今までジェニファーに対してしてきた仕打ちを悔い改める。
朝夕、朝日の出る方角に、かつてのジェニファーのように身を清め、祈りを捧げる人も出始めたが、一向にお日様を拝むことなど叶わない。
付け焼刃の信仰心では、意味がないのだ。
それでもやらないよりマシだという理由で、コックローチもついにジェニファーの真似をして祈り始めるが、やっぱり効果はない。
困った時の神頼みも、節度というものがある。何でもかんでも祈りさえすれば、いいというものではない。
祈りがダメなら、掃除だ!とばかりに、生まれて初めて雑巾を手にして、拭きはじめるコックローチ。これは、すこし効果があったようで、掃除をしている間だけ、雪が止んだ。それでも、お日様の熱で雪が解けることはない。
気をよくしたコックローチは民衆に向かって、掃除をするように呼び掛ける。先の聖女様は、毎日、4時間は掃除をされていたので、特別な祈りを捧げられない者は掃除をせよ、と触れを出した。
「4時間!それなら、穀つぶしでも何でもないではないか!」
「誤った情報を民衆に流したのは、王城ではないのか!」
今までいつかは、晴れる日も来ると信じて王城の言いなりになってきた民衆の怒りがようやく爆発する。
「我々に先の聖女様を苛めるようにけしかけたのは、王家なのに、今更、聖女様の真似をしろとだと!そんなバカな話がどこにある!我々の元に、聖女様を返してください!」
あのルフィとか言う公女にも腹が立ったけど、今はそれ以上に絶望と後悔に苛まれている。
そういえば、先の聖女様はいつも質素な身なりをしていた。豪華な衣装を身にまとっている公女様とは比べ物にならないぐらいに。
民衆は、見た目の華やかさに騙され、公女様を真の聖女様と位置づけジェニファーを偽物として、排除してしまったのだ。それを仕向けたのが王家だったということがわかり、民衆の心はもうバルサン国を離れた。
なんとなく、以前からわかっていた。それを言ってはお終いとばかりに皆、口をつぐんでいただけだったのだ。
聖女様はいらっしゃらなくても、どこか他国でひっそり真面目に暮らしていこう。商人は、ありったけの馬車を出し、他国行きの馬車として提供する。
民衆は、もうバルサン国に未練はない。
掃除の手を止め、ぞろぞろと出国していく列は絶えない。
それをみて、コックローチは地団駄を踏むが、離れて行ってしまった民衆の心を連れ戻す手立てはない。
防寒具を身に纏い、ひたすら箒を動かすコックローチに神の御加護が一瞬だけ舞い降り、コックローチは静かに人生を閉じた。
-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
アースレッド国に春がやってきた。
以前の春は、ほんの少し風がやや温くなる程度で花は咲かない。それがジェニファーガ来てからは、一面花畑が出来上がってしまったのだ。農夫は菜の花から油を搾るようになり、アースレッド国の生活は一変する。子供たちは、花畑ではしゃぎ、花輪を作り遊ぶ。春が終わると、雨期になるが以前のように日がな一日、降り続くというものではなく、降る時は降る。晴れるときは晴れるといった具合にメリハリがある。
夏になると、収穫時間はさらに短くなり秋冬で1時間かかったものが、30分で収穫されるようになり、余った作物は備蓄用と缶詰などに加工して保管する用にし、残りは他国に輸出するといった具合になったのだ。
おかげで長年つもりに積もった借財も見事完済し、晴れて独立国としての尊厳を取り戻せて、国王陛下もほっと胸を撫でおろされる。
「それもこれも、すべてジェニファー聖女様のお陰でございます。なんとお礼を申し上げたらよいものかと案じておりました」
「いいえ。とんでもないことでございます。1年前怪我をしているわたくしを拾ってくださったのは、ほかならぬアースレッド国だけでしたので、わたくしの方からも心より御礼申し上げます」
あれから脅迫状も鳴りを潜め、というか、聞いた話によると近隣国の兵士から手酷い目に遭ったと聞く。
聖女様を見つけたわけでもないのに、他国の自治に口出しは許されない行為。まして、それが自国民を人質としたやり方には、どこの国も閉口で罰をあたえた兵士に拍手喝采したという。
スチュアート殿下は、父の国王の前であったにもかかわらず、ジェニファーの前に跪き、ドレスの裾に口づけ
「ジェニファー様、アナタ様は、もうアースレッド国になくてはならない人物となりました。できましたら、この私と結婚していただけないでしょうか?この一年間、アナタ様を見て参りました。一生大事にします。愛しています。一生、ジェニファー様ただ一人を愛することをここに誓います」
アースレッド国王は、よく言った。という顔をしてスチュアートの方を見ている。
「えっ!?……。わたくしで本当によろしいのかしら?わたくしは孤児で生まれて間もない頃に教会の前に捨てられていたのです。捨て子の平民と本当に、結婚されてもよろしいのですか?」
「ジェニファー様の出自など関係ございません。私はもう、アナタ様しか愛せません」
「まあ……!では、喜んでお受けいたします。もう、これで本当に追い出されることはないのですね?スチュアート様を信じます。よろしくお願いします」
「ああ。良かった。断られるかと思って、ビクビクしていた」
「めでたい。実にめでたい!結婚式は早い方が良い。早く孫の顔が見たいものぞ」
陛下の「孫」発言に二人とも顔を赤らめる。
秋になり、バルサン国を追い出された日に結婚式を挙げることになり。近隣諸国に招待状を出すも、届かなかったのか、ついぞバルサン国からは何の返事もなかった。
結婚式当日、やはりよく晴れた秋晴れとなった。これから、毎年、この日を収穫の日と定め、収穫祭が行われるようになっていく。
この日に結婚するカップルは、永遠に幸せになれるという伝説がまことしやかに囁かれる。
このままでは、国が崩壊するのは、目に見えている。
そこまで来て、初めて民衆は、信仰心に目覚め、今までジェニファーに対してしてきた仕打ちを悔い改める。
朝夕、朝日の出る方角に、かつてのジェニファーのように身を清め、祈りを捧げる人も出始めたが、一向にお日様を拝むことなど叶わない。
付け焼刃の信仰心では、意味がないのだ。
それでもやらないよりマシだという理由で、コックローチもついにジェニファーの真似をして祈り始めるが、やっぱり効果はない。
困った時の神頼みも、節度というものがある。何でもかんでも祈りさえすれば、いいというものではない。
祈りがダメなら、掃除だ!とばかりに、生まれて初めて雑巾を手にして、拭きはじめるコックローチ。これは、すこし効果があったようで、掃除をしている間だけ、雪が止んだ。それでも、お日様の熱で雪が解けることはない。
気をよくしたコックローチは民衆に向かって、掃除をするように呼び掛ける。先の聖女様は、毎日、4時間は掃除をされていたので、特別な祈りを捧げられない者は掃除をせよ、と触れを出した。
「4時間!それなら、穀つぶしでも何でもないではないか!」
「誤った情報を民衆に流したのは、王城ではないのか!」
今までいつかは、晴れる日も来ると信じて王城の言いなりになってきた民衆の怒りがようやく爆発する。
「我々に先の聖女様を苛めるようにけしかけたのは、王家なのに、今更、聖女様の真似をしろとだと!そんなバカな話がどこにある!我々の元に、聖女様を返してください!」
あのルフィとか言う公女にも腹が立ったけど、今はそれ以上に絶望と後悔に苛まれている。
そういえば、先の聖女様はいつも質素な身なりをしていた。豪華な衣装を身にまとっている公女様とは比べ物にならないぐらいに。
民衆は、見た目の華やかさに騙され、公女様を真の聖女様と位置づけジェニファーを偽物として、排除してしまったのだ。それを仕向けたのが王家だったということがわかり、民衆の心はもうバルサン国を離れた。
なんとなく、以前からわかっていた。それを言ってはお終いとばかりに皆、口をつぐんでいただけだったのだ。
聖女様はいらっしゃらなくても、どこか他国でひっそり真面目に暮らしていこう。商人は、ありったけの馬車を出し、他国行きの馬車として提供する。
民衆は、もうバルサン国に未練はない。
掃除の手を止め、ぞろぞろと出国していく列は絶えない。
それをみて、コックローチは地団駄を踏むが、離れて行ってしまった民衆の心を連れ戻す手立てはない。
防寒具を身に纏い、ひたすら箒を動かすコックローチに神の御加護が一瞬だけ舞い降り、コックローチは静かに人生を閉じた。
-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
アースレッド国に春がやってきた。
以前の春は、ほんの少し風がやや温くなる程度で花は咲かない。それがジェニファーガ来てからは、一面花畑が出来上がってしまったのだ。農夫は菜の花から油を搾るようになり、アースレッド国の生活は一変する。子供たちは、花畑ではしゃぎ、花輪を作り遊ぶ。春が終わると、雨期になるが以前のように日がな一日、降り続くというものではなく、降る時は降る。晴れるときは晴れるといった具合にメリハリがある。
夏になると、収穫時間はさらに短くなり秋冬で1時間かかったものが、30分で収穫されるようになり、余った作物は備蓄用と缶詰などに加工して保管する用にし、残りは他国に輸出するといった具合になったのだ。
おかげで長年つもりに積もった借財も見事完済し、晴れて独立国としての尊厳を取り戻せて、国王陛下もほっと胸を撫でおろされる。
「それもこれも、すべてジェニファー聖女様のお陰でございます。なんとお礼を申し上げたらよいものかと案じておりました」
「いいえ。とんでもないことでございます。1年前怪我をしているわたくしを拾ってくださったのは、ほかならぬアースレッド国だけでしたので、わたくしの方からも心より御礼申し上げます」
あれから脅迫状も鳴りを潜め、というか、聞いた話によると近隣国の兵士から手酷い目に遭ったと聞く。
聖女様を見つけたわけでもないのに、他国の自治に口出しは許されない行為。まして、それが自国民を人質としたやり方には、どこの国も閉口で罰をあたえた兵士に拍手喝采したという。
スチュアート殿下は、父の国王の前であったにもかかわらず、ジェニファーの前に跪き、ドレスの裾に口づけ
「ジェニファー様、アナタ様は、もうアースレッド国になくてはならない人物となりました。できましたら、この私と結婚していただけないでしょうか?この一年間、アナタ様を見て参りました。一生大事にします。愛しています。一生、ジェニファー様ただ一人を愛することをここに誓います」
アースレッド国王は、よく言った。という顔をしてスチュアートの方を見ている。
「えっ!?……。わたくしで本当によろしいのかしら?わたくしは孤児で生まれて間もない頃に教会の前に捨てられていたのです。捨て子の平民と本当に、結婚されてもよろしいのですか?」
「ジェニファー様の出自など関係ございません。私はもう、アナタ様しか愛せません」
「まあ……!では、喜んでお受けいたします。もう、これで本当に追い出されることはないのですね?スチュアート様を信じます。よろしくお願いします」
「ああ。良かった。断られるかと思って、ビクビクしていた」
「めでたい。実にめでたい!結婚式は早い方が良い。早く孫の顔が見たいものぞ」
陛下の「孫」発言に二人とも顔を赤らめる。
秋になり、バルサン国を追い出された日に結婚式を挙げることになり。近隣諸国に招待状を出すも、届かなかったのか、ついぞバルサン国からは何の返事もなかった。
結婚式当日、やはりよく晴れた秋晴れとなった。これから、毎年、この日を収穫の日と定め、収穫祭が行われるようになっていく。
この日に結婚するカップルは、永遠に幸せになれるという伝説がまことしやかに囁かれる。
168
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
婚約破棄?から大公様に見初められて~誤解だと今更いっても知りません!~
琴葉悠
恋愛
ストーリャ国の王子エピカ・ストーリャの婚約者ペルラ・ジェンマは彼が大嫌いだった。
自由が欲しい、妃教育はもううんざり、笑顔を取り繕うのも嫌!
しかし周囲が婚約破棄を許してくれない中、ペルラは、エピカが見知らぬ女性と一緒に夜会の別室に入るのを見かけた。
「婚約破棄」の文字が浮かび、別室に飛び込み、エピカをただせば言葉を濁す。
ペルラは思いの丈をぶちまけ、夜会から飛び出すとそこで運命の出会いをする──
虐げられたアンネマリーは逆転勝利する ~ 罪には罰を
柚屋志宇
恋愛
侯爵令嬢だったアンネマリーは、母の死後、後妻の命令で屋根裏部屋に押し込められ使用人より酷い生活をすることになった。
みすぼらしくなったアンネマリーは頼りにしていた婚約者クリストフに婚約破棄を宣言され、義妹イルザに婚約者までも奪われて絶望する。
虐げられ何もかも奪われたアンネマリーだが屋敷を脱出して立場を逆転させる。
※小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。
婚約破棄されたので、もう誰の役にも立たないことにしました 〜静かな公爵家で、何もしない私の本当の人生が始まります〜
ふわふわ
恋愛
王太子の婚約者として、
完璧であることを求められ続けてきた令嬢エリシア。
だがある日、彼女は一方的に婚約を破棄される。
理由は簡単だった。
「君は役に立ちすぎた」から。
すべてを失ったはずの彼女が身を寄せたのは、
“静かな公爵”と呼ばれるアルトゥール・クロイツの屋敷。
そこで待っていたのは――
期待も、役割も、努力の強要もない日々だった。
前に出なくていい。
誰かのために壊れなくていい。
何もしなくても、ここにいていい。
「第二の人生……いえ、これからが本当の人生です」
婚約破棄ざまぁのその先で描かれる、
何者にもならなくていいヒロインの再生と、
放っておく優しさに満ちた静かな溺愛。
これは、
“役に立たなくなった”令嬢が、
ようやく自分として生き始める物語。
機械仕掛けの夜想曲
柊
恋愛
名ピアニストである伯爵令嬢フローリア・ベルクレイン。素晴らしい演奏技術を持つ彼女だが、完璧すぎる旋律故に「機械仕掛けの演奏」と陰口を叩かれていた。さらにそのことで婚約解消をされ、妹に乗り換えられてしまう。妹にもそれをなじられ、心が折れてしまったフローリアは「少し休みたい」とピアノを弾くことをやめてしまう。
そして、ある夜、アルベルト・シュタインヴァルトが突如来訪。「人命を救うために、フローリア嬢のピアノの演奏技術が必要だ」と告げる。それにフローリアがとった行動は……。
※他のサイトにも重複投稿してます。
【完結】ずっとやっていれば良いわ。※暗い復讐、注意。
BBやっこ
恋愛
幼い頃は、誰かに守られたかった。
後妻の連れ子。家も食事も教育も与えられたけど。
新しい兄は最悪だった。
事あるごとにちょっかいをかけ、物を壊し嫌がらせ。
それくらい社交界でよくあるとは、家であって良い事なのか?
本当に嫌。だけどもう我慢しなくて良い
魔女の祝福
あきづきみなと
恋愛
王子は婚約式に臨んで高揚していた。
長く婚約を結んでいた、鼻持ちならない公爵令嬢を婚約破棄で追い出して迎えた、可憐で愛らしい新しい婚約者を披露する、その喜びに満ち、輝ける将来を確信して。
予約投稿で5/12完結します
エデルガルトの幸せ
よーこ
恋愛
よくある婚約破棄もの。
学院の昼休みに幼い頃からの婚約者に呼び出され、婚約破棄を突きつけられたエデルガルト。
彼女が長年の婚約者から離れ、新しい恋をして幸せになるまでのお話。
全5話。
【完結】義妹に全て奪われた私。だけど公爵様と幸せを掴みます!
朝日みらい
恋愛
リリアナは美貌の義妹イザベラにすべてを奪われて育ち、公爵アルノーとの婚約さえも破棄される。
役立たずとされて嫁がされたのは、冷徹と噂される公爵アルノー。
アルノーは没落した家を立て直し、成功を収めた強者。
新しい生活で孤立を感じたリリアナだが、アルノーの態度に振り回されつつも、少しずつ彼の支えを感じ始め――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる