王様の恥かきっ娘

青の雀

文字の大きさ
2 / 6

2.

しおりを挟む
「キャハハっ、楽しーい」

「王女様、お待ちくださいませ」

 王の領地で、ジョセフィーヌは裸足で駆け回っている。とても王女様に見えない野生児そのもの。

 お父様は王城に残り、お母様とジョセフィーヌだけがこの離宮に来ている。

 離宮の庭は、ジョセフィーヌが怪我をしてはいけないと、庭師に命じて、すべての石がない。

 だから裸足で駆け回っても、ちっとも痛くはない。

 ジョセフィーヌは動きやすいドレスとして、膝上のスカート丈にしている。パンツが丸見えにならないように、スパッツを穿いている。自分のスカートの裾を踏んで、転ばないように工夫しているのだが、それも母が考案してくれた。

 他にお姉さまも何人かいるけど、皆、小さいうちに、他国へ嫁いでいる。このジョセフィーヌだけは、この手で育てたかったという母の願いを父は快諾する。

 その結果がまさにこれ。泥んこになりながら、虫と戯れ花を遊び、野を駆けまわる。お付きの侍女はヒーヒー言いながら、ジョセフィーヌの後を追いかけていく。

 もし離宮の庭にジャングルがあれば、ジョセフィーヌは間違いなくターザンになっただろう。

 そんな時、まだ4歳になったばかりだというのに、もうジョセフィーヌに縁談が舞い込む。お相手はアラミス・ケントホームズ公爵令息。公爵令息と言っても、3男坊で、家督は継げない。ジョセフィーヌと同い年の孫に第1王子がいるものだから、高位貴族令嬢の親は、どうしても第1王子に目が行き、このままでは将来、アラミスは結婚できないかもしれないと公爵が危惧し、夫の陛下に打診をして縁談になったわけだ。

 王女と結婚すれば、必然的に新しい公爵家が誕生する。それをアラミスを当主としてほしいのだろうと想像はつく。

 だけど、それは図々しい話だ。陛下はお断りされるつもりだったようだが、形だけという言葉に唆され、本人が嫌がらないのであれば、という条件を付けた。

 そのお見合い?相手が間もなく来るというのに、侍女がジョセフィーヌに追い付けないばかりのため、まだ着替えもままならない。

 母はこの縁談を流れてしまえばいいと思っている。上の姉娘のように幼いうちから他国へ人質として輿入れさせるぐらいなら、と一時は考えを改め納得していたのだが、まだ4歳で政略結婚は早すぎる。婚約も然りだ。ケントホームズ家は婚約者の立場を利用しようとしているのでは?と疑念がある。

 だから敢えて、ジョセフィーヌには何も言わずに、相手といきなり会わせてみたらどうかと思うのだった。うまく断りを入れてくれれば、めっけもの。

 相手の令息はおそらく公爵から言い含められているとしても、嫌なものは嫌だと言える子供のはず。だって、もう4歳にもなるのだもの。

 泥んこの普段着のままでもいいじゃない?こちらがお願いして、お見合いするわけではないのだから。今のありのままのジョセフィーヌを受け入れてくれる殿方、いや、男の子だった。そんな男の子でなければ、お見合いする意味など最初からないも同然。

 父も、内心、ジョセフィーヌは一生お嫁に行かなくてもいいと、本気で考えている。今まで、姉娘たちに苦労を強いてきたのだから、末娘ぐらいは、のんびり元気に育ってほしい。

 ジョセフィーヌは妻によく似ているから、年頃になれば、嫌でも王都一の美人になるだろう。そうなってから、釣り合う男性と結婚させればいいと思っている。

 だから、おおむね妻の意見に賛同している。

 泥んこ娘を嫌ってくれればいいと思っているのだ、そうすれば、ケントホームズも諦めてくれるだろうとタカを括っていた。

 実際、普段着のまま、ジョセフィーヌはお見合いに挑んだ。最もジョセフィーヌには、お見合いの意識はなく意味も知らなかったが、同い年のお友達が来たという感覚で接していた。

 その結果、アラミスは泣いて帰るハメになってしまったが、頑として嫌いだと断りを入れてこなかった。

 きっと、公爵が宥めすかして無理やりにでも、婚約者候補の地位にこだわったということ。

 お見合いを側で見ていた侍女の話では、

「お前、なんでそんなに汚いんだ?泥だらけじゃないか」

「子供は外で泥だらけになるもんだって、お父しゃまもお母しゃまも言っているよ」

 まだ4歳なので、活舌がよろしくない。

「そうだ。お友達になった印に、ケロちゃんを上げるね。仲良くしてね」

 ジョセフィーヌがアラミスに渡したものは、カエル。アラミスは、カエルを見ただけで悲鳴を上げ、逃げ惑う。

 ジョセフィーヌは、それを喜んでいると勘違いして、一緒になって走る。ケロちゃんを放り投げたので、それを掴みアラミスの襟元からカエルを投げ入れる。

 さらに悲鳴を上げ、失神するも、それをジョセフィーヌは、疲れてお昼寝したものとばかりと思って、横に並んで寝転がって、お昼寝タイムに入ったという。

 侍女の感想としては、いつものジョセフィーヌ様らしくなく、明らかに手加減して走っておられました。とのこと。

 報告を受けた両陛下は肩を震わせながら、笑い転げる。

 もう、これで縁談は流れたと思っていたのに、ケントホームズからは「是非に」という返事をもらい、頭を抱え込む。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幸せな人生を送りたいなんて贅沢は言いませんわ。ただゆっくりお昼寝くらいは自由にしたいわね

りりん
恋愛
皇帝陛下に婚約破棄された侯爵令嬢ユーリアは、その後形ばかりの側妃として召し上げられた。公務の出来ない皇妃の代わりに公務を行うだけの為に。 皇帝に愛される事もなく、話す事すらなく、寝る時間も削ってただ公務だけを熟す日々。 そしてユーリアは、たった一人執務室の中で儚くなった。 もし生まれ変われるなら、お昼寝くらいは自由に出来るものに生まれ変わりたい。そう願いながら

氷の王弟殿下から婚約破棄を突き付けられました。理由は聖女と結婚するからだそうです。

吉川一巳
恋愛
ビビは婚約者である氷の王弟イライアスが大嫌いだった。なぜなら彼は会う度にビビの化粧や服装にケチをつけてくるからだ。しかし、こんな婚約耐えられないと思っていたところ、国を揺るがす大事件が起こり、イライアスから神の国から召喚される聖女と結婚しなくてはいけなくなったから破談にしたいという申し出を受ける。内心大喜びでその話を受け入れ、そのままの勢いでビビは神官となるのだが、招かれた聖女には問題があって……。小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

王宮勤めにも色々ありまして

あとさん♪
恋愛
スカーレット・フォン・ファルケは王太子の婚約者の専属護衛の近衛騎士だ。 そんな彼女の元婚約者が、園遊会で見知らぬ女性に絡んでる·····? おいおい、と思っていたら彼女の護衛対象である公爵令嬢が自らあの馬鹿野郎に近づいて····· 危険です!私の後ろに! ·····あ、あれぇ? ※シャティエル王国シリーズ2作目! ※拙作『相互理解は難しい(略)』の2人が出ます。 ※小説家になろうにも投稿しております。

【完結】婚約破棄される未来見えてるので最初から婚約しないルートを選びます

22時完結
恋愛
レイリーナ・フォン・アーデルバルトは、美しく品格高い公爵令嬢。しかし、彼女はこの世界が乙女ゲームの世界であり、自分がその悪役令嬢であることを知っている。ある日、夢で見た記憶が現実となり、レイリーナとしての人生が始まる。彼女の使命は、悲惨な結末を避けて幸せを掴むこと。 エドウィン王子との婚約を避けるため、レイリーナは彼との接触を避けようとするが、彼の深い愛情に次第に心を開いていく。エドウィン王子から婚約を申し込まれるも、レイリーナは即答を避け、未来を築くために時間を求める。 悪役令嬢としての運命を変えるため、レイリーナはエドウィンとの関係を慎重に築きながら、新しい道を模索する。運命を超えて真実の愛を掴むため、彼女は一人の女性として成長し、幸せな未来を目指して歩み続ける。

婚約破棄を「奪った側」から見たならば ~王子、あなたの代わりはいくらでもいます~

フーラー
恋愛
王子が「真実の愛」を見つけて婚約破棄をする物語を「奪ったヒロイン側」の視点で『チート相手に勝利する』恋愛譚。 舞台は中世風ファンタジー。 転生者である貴族の娘『アイ』は、前世から持ち込んだ医療や衛生の知識を活かして、世界一の天才研究家として名を馳せていた。 だが、婚約者の王子ソームはそれを快く思っていなかった。 彼女のその活躍こそ目覚ましかったが、彼が求めていたのは『優秀な妻』ではなく、自分と時間を共有してくれる『対等なパートナー』だったからだ。 だが、それを周りに行っても「彼女の才能に嫉妬している」と嘲笑されることがわかっていたため、口に出せなかった。 一方のアイも、もともと前世では『本当の意味でのコミュ障』だった上に、転生して初めてチヤホヤされる喜びを知った状態では、王子にかまける余裕も、彼の内面に目を向ける意識もなかった。 そんなときに王子は、宮廷道化師のハーツに相談する。 「私にアイ様のような才能はないですが、王子と同じ時間は過ごすことは出来ます」 そういった彼女は、その王子をバカにしながらも、彼と一緒に人生を歩く道を模索する。 それによって、王子の心は揺れ動いていくことになる。 小説家になろう・カクヨムでも掲載されています! ※本作を執筆するにあたりAIを補助的に利用しています

魔女の祝福

あきづきみなと
恋愛
王子は婚約式に臨んで高揚していた。 長く婚約を結んでいた、鼻持ちならない公爵令嬢を婚約破棄で追い出して迎えた、可憐で愛らしい新しい婚約者を披露する、その喜びに満ち、輝ける将来を確信して。 予約投稿で5/12完結します

【完結】ご安心を、問題ありません。

るるらら
恋愛
婚約破棄されてしまった。 はい、何も問題ありません。 ------------ 公爵家の娘さんと王子様の話。 オマケ以降は旦那さんとの話。

で、お前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか?

Debby
恋愛
ヴェルトが友人からの手紙を手に辺境伯令嬢であるレィディアンスの元を訪れたのは、その手紙に「詳細は彼女に聞け」と書いてあったからだ。 簡単にいうと、手紙の内容は「学園で問題を起こした平民──エボニーを妻として引き取ってくれ」というものだった。 一方その話を聞いてしまった伯爵令嬢のオリーブは動揺していた。 ヴェルトとは静かに愛を育んできた。そんな自分を差し置いて、言われるがまま平民を妻に迎えてしまうのだろうか。 そんなオリーブの気持ちを知るはずもないエボニーは、辺境伯邸で行儀見習いをすることになる。 オリーブは何とかしてヴェルトを取り戻そうと画策し、そのことを咎められてしまう。もう後は無い。 オリーブが最後の望みをかけてヴェルトに自分を選んで欲しいと懇願する中、レィディアンスが静かに口を開いた。 「で、そろそろお前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか」 「はい?」 ヴェルトは自分が何を言われたのか全く理解が出来なかった。 *--*--* 覗いてくださりありがとうございます。(* ᴗ ᴗ)⁾⁾ ★全31話7時19時更新で、全話予約投稿済みです。 ★★「このお話だけ読んでいただいてもOKです!」という前提のもと↓↓↓ このお話は独立した一つのお話ですが、「で。」シリーズのサイドストーリーでもあり、第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」の「エボニーその後」でもあります(あるいは「最終話」のその後)。 第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」 第二弾「で、あなたが私に嫌がらせをする理由を伺っても?」 第三弾「で、あなたが彼に嫌がらせをする理由をお話しいただいても?」 どれも女性向けHOTランキングに入り、特に第二弾はHOT一位になることが出来ました!(*´▽`人)アリガトウ もしよかったら宜しくお願いしますね!

処理中です...