「お前を愛するつもりはない」な仮面の騎士様と結婚しました~でも白い結婚のはずなのに溺愛してきます!~

卯月ミント

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第14話 閑話:可愛い眠り姫1(リュクレス視点)

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 リュクレスは王宮騎士団長に頼まれた用事を済ませるため、王家の武器保管庫へと向かった。

 王家の武器保管庫――それは伝説の武器がいくつも眠っているという場所だ。
 しかも頼まれたのはフィメリア王女が愛用する魔法の杖である。直接フィメリア王女に届けるようにとの、王女自身からの命令であるという。

 よしっ、とリュクレスは気合いを入れた。

 あれだけの騒動を起こしたのに、まだフィメリア王女は自分を信頼し、自分の得物である魔法の杖を託してくれたのだ。

 このまま順調にいけばフィメリア王女の愛を得ることもそう遠くはないだろう。リュクレスにはその自信があった。

 そのときこそこの仮面を脱ぎ捨て、ソールーナにこの美貌を晒すことができるのだ。素顔を見せればソールーナの愛をつかみ取ることなどたやすいのだから、これでリュクレスの恋愛回りは順風満帆である。
 だからとにかくフィメリアだ。そのフィメリアと上手くいきそうとあらば、これはもう浮かれずにいられようか案件である。

 そんなふうにウキウキしていたのがいけなかったのだろう。

 リュクレスは武器庫の扉に仕掛けられた罠を見過ごしてしまった。いや、ほんの少しの違和感には気づいたのだが――。浮かれた気分が見過ごさせた。

 武器庫の扉を開けたリュクレスは目眩を感じた。
 思わず立ち止まり、目を瞑る。

 ふらっとした感覚をやり過ごし、もう大丈夫だろうと目を開けると、そこは一面に広がる花園だった。

 しかも。

「なっ……!?」

 リュクレスが肝を冷やしたのは、突然景色が変わったことやそこに見たこともないような美しい花々が咲き乱れていたことではない。

 その光景の中に天蓋付きの豪華なベッドが一基備えられていて、しかもそこに寝ていたのがソールーナだったからだ。

 今朝別れたときに見たままの地味めなドレス、黒髪もとくに乱れた様子はなく、横になって目を瞑っている……。こんな得体の知れない場所で。

 リュクレスは駆け寄ると彼女の頬に手を当てた。
 温かい。生きている……!
 安堵のため息をつきながら、どうすればいいのかと混乱する頭を回転させた。

 ここはどこなんだ。何故ソールーナがいる?

 自分はフィメリア王女からのお使いで、魔法の杖をとりに来たはずだ。ここが王家の武器保管庫とは思えないし――時空転移させられた……?

 なんのために? 考えれば考えるほど分からなくなる。

 だが、とにかくソールーナは無事だ。それはありがたい。
 ……ふと、眠る彼女の枕元に一通の封筒が置いてあるのにリュクレスは気づいた。

 なんだ?

 手にとって確かめてみると、宛名はリュクレスとソールーナの連名だった。つまりは夫婦に当てた手紙である。

 裏を見れば、まだ封蝋も剥がされていない。――つまり、ソールーナは読んでいないということだ。しかもその封蝋に捺されているのは王家の紋章である。差出人はフィメリア。あの王女フィメリアだ。

 なんとなく嫌な予感を覚えつつ、リュクレスは封を剥がし、中に入っていた便箋を取り出して読んだ。

 華奢で美しい飾り文字から始まった手紙は、綺麗な字に相応しい、ある意味で美しくロマンティックな内容だった。

『親愛なるイメツィオ夫妻へ
 この世界から脱出したくば、リュクレスとソールーナにおいてキスされたし。なお、仮面越しは無効とする。仮面をとり、唇と唇を触れあわせることが条件なり。さすれば意のまま脱出が叶うであろう』

 思わず手紙を握りつぶしてビリビリに破き捨てるところだった。

 フィメリア王女がリュクレスたちをこの空間に閉じ込めたのだ。キスさせるためだけに。

 キスをしないと出られない? ふざけんな!

 やはり嫌われているのか? いや、そもそも最初から好かれてなどいないか。あれだけの騒ぎがあったのだから。

 だからといってここまで大がかりに他人とのキスを強制してくるとは……。

 だが構うものか。とリュクレスは思った。

 どうせ仮面の下の素顔を見たら、フィメリア王女だってリュクレスに惚れるのだから。

 そのためにもフィメリア王女の愛を勝ち取らなくてはならないのだ。
 ……本末転倒な気がちらりとするが、気にしない。

 とにかく男は押しの一手だ。特に自分のような超イケメンが女を落とすときは、その方法に限るのである。




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