「お前を愛するつもりはない」な仮面の騎士様と結婚しました~でも白い結婚のはずなのに溺愛してきます!~

卯月ミント

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第16話 閑話:可愛い眠り姫3(リュクレス視点)

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 一面に花園が広がる異空間……、そこで寝ていた妻ソールーナが目覚めたのだが。

「ん……もう食べられません……」

「お前は食べる夢しかみないのか?」

 この前も食べる夢を見ていた……。可愛すぎだろ、こいつ。そして、それから――

『リュクレス様、大好き……』

 あの時は確かにそう言ったのだ。寝言でだが。

 ……思い出すだけで胸がドキッとし、仮面の下の超イケメン素顔が赤くなる。

 可愛かったな、と思う。
 本当に可愛かった。夢のなかでご馳走をあ~んしてもらったとか……、そういうことを言っていた。

 ダメだ、冷静になれ。あれはただの寝言。こいつは俺にまたく興味の無い女なんだ。白い結婚、カタチだけの夫婦。

 あ~んなんてものに惑わされるな、相手はリュクレスに興味のかけらもない女なのだ。

 仮面の下の美貌を見たら必ず考えも改めようが……とにかく今はダメだ。この面白みのないつるんとした白い仮面が自分の魅力をまさしく覆い被しているのだから。

 これではリュクレスに興味を持て、好きになれというほうが無理だろう。なにが駄目って、リュクレスの仮面が原因だ。

 この仮面をどうにかする必要があるのだ。

 だからこそ、フィメリアの愛が必要なのである……。

「あ……リュクレス様」

 ぼんやりと目を開けると、ソールーナはふわっと微笑んだ。

 思わずその薄く明けた銀色の瞳に吸い込まれそうになりながら、リュクレスは踏みとどまる。

「おはよう」

「おはようございます。リュクレス様……」

 安心した無防備な微笑み。
 リュクレスの心が満たされる。ああ、可愛い。可愛い……。可愛いぞ、ソールーナ。可愛い……。

「よく眠れたか?」

「はい」

「ならよかった。ところで……」

 リュクレスは辺りを見回した。

「お前、ここについて何か知っているか?」

「え?」

 かえって来たのは意外そうな声だった。

 その時リュクレスは己の間違いを悟った。

 ……ああ、これ。ソールーナもフィメリア王女にはめられたんだな、と……。

 が。彼女の反応はリュクレスの想定の斜め上をいくものだった。

「リュクレス様!」

 ソールーナは飛び起きると、凄まじいスピードでリュクレスが着込んだ騎士団の黒い制服の首っ玉をぐいと両手で掴み上げてきたのだ。
 歴戦の騎士であるリュクレスが避けられないほどの不意さとスピードである。

「うおっ、なんだよ!?」

 力強く捕まれた首元が、ちょっと苦しい。
 だがソールーナは力を弱めることなく、さらにぐいっと顔を近づけてきたのだ。それだけで唇が触れてしまいそうになるほどに。……仮面をしているからそんなことはないとはいえ。

「スケッチブック、持ってないですか!?」

「は?」

 スケッチブック?

「スケッチブックか、さもなくば鉛筆とかペンとか、そういう何か書くもの……!」

「持ってないが」

「ああ、なんてこと……!」

 ソールーナは握りしめた首っ玉にギリギリと力を込める。苦しい、苦しい。

「ちょ、首、苦しいんだが」

「こんないい景色を目の前にしてスケッチブックも鉛筆もないなんて……せめてあとから来たあなたには持っていてほしかった……!」

「なに言ってんだお前」

「この絶景を絵に描くんですよ。決まってるでしょ?」

「……この状況で、言うことがそれか?」

 仮面の下のリュクレスの眼がすっと細くなった。

 こんなに非常識な奴だとは思わなかった。自分の置かれた立場がまったく分かっていないではないか。

「……冗談のつもりで言っているのならまったく面白くないからな。むしろ、時と場合を無視した冗談は気分が悪くなる」

「冗談なわけないでしょう? 目の前にこれだけの絶景が広がっているのですよ? リュクレス様はなにも感じないのですか、この神秘の花園に!」

 さらにギリギリと締められる首っ玉。やばい。
 こいつ、もしかしたら変な奴なのかもしれない……とリュクレスはその時ようやく気づいた。今まではそれほど話もしていなかったので気づかなかったが、この景色への情熱は異常である。

「とりあえず離してもらえるか? いっとくが、ここで俺を落としても意味はないぞ?」

「そっちこそなにわけ分からないこと言ってるんですか。こんな綺麗な場所、スケッチしないでどうするんですか。網膜フル拡張で覚えたって覚えきれません! ああああああ勿体ない!!!!」

「分かった。だから、離してくれ……」

「そんなことよりスケッチです!!!」

「紙と鉛筆がないのなら、地面に指で描いてみたらどうだろうか」

「持ち運べないでしょ! 馬鹿にしてるんですか!?」

「悪かった落ち着け。目が血走ってる」

「……ふんっ」

 ソールーナはようやくリュクレスの黒い制服の首っ玉を放した。
 開放感にほっとするリュクレスは、首を何度か撫でてみる。……外傷は残らないだろうが、本当に……命の危険すら感じてしまった。

「まあ、いいですよ。あなたは私の夫でもあるわけですし、これくらいで勘弁してあげます」

「なんだそりゃ」

「ない袖は振れない、地面の絵は持ち運べない……、そういうことです」

「ごめんちょっと意味分からないわ」

 本当に……、この女の意味が分からない。
 むしろ、怖い。
 リュクレスは自分の感覚が、真面目に理解できなくなっていた。

 本当に俺はこういうのがタイプなんだろうな? と……。






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