「お前を愛するつもりはない」な仮面の騎士様と結婚しました~でも白い結婚のはずなのに溺愛してきます!~

卯月ミント

文字の大きさ
67 / 67

第67話 抱擁

しおりを挟む
「でも、本当によかったんですか?」

 気になったことを、ソールーナは聞いてみる。

「何がだ?」

「だってほら。英雄力、消えちゃったんでしょ? あれだけ英雄力にこだわってたのに……」

「結局、俺もただの男だった、ということだ」

 腕を組んで、リュクレスは苦笑いを浮かべた。

「好きな女にはいい顔をしたいんだよ」

「す、好きって……」

「好きだよ。お前のこと」

「うっ」

 力を失った英雄騎士の言葉に、ソールーナの頬がまた赤く染まる。

「しかし、おかしいな……」

 腕を組んだままリュクレスは首を傾げた。

「な、なにがです?」

 真っ赤になった顔を手で覆いながら聞くソールーナに、リュクレスは言う。

「力はもう失われたはずなのに。何故だか、力が溢れてくるような気がするんだ。以前キスしたときもそうだったが……」

 それからふと空色の瞳に疑問のにロが浮かんだ。

「そういえばお前は何故動ける?」

「え? お夕食食べてきたからじゃないですか?」

 以前、絵描きに集中していたら食事を食べなさすぎて倒れたことがあり、それ以降食事は必ず一日一回はとるようにしているのだ。

「そういうことじゃなくてだな……。ここは力なきものは気を失う空間なんだ。フィメリアの婚約者を見ただろ?」

「ああ、確かに。空が金色に変わったと思ったらすぐに倒れてましたね。……ベルナール様、食事を抜かしてたとか? 晩餐会の主賓って忙しいですし、お夕食とってる暇がなかったのかも」

「いい加減そこから離れろよ」

 だがそこでハッとするリュクレス。

「そうだ、俺だって動けるのはおおかしい。力が失われればすぐに気絶するのは俺だってそうなのに……」

 じっと、彼はその澄んだ空色の瞳でソールーナを見つめていた。
 切れ長の瞳にまっすぐに見つめられ、ソールーナはドギマギしてしまう。

「な、なんですか? 私の顔をそんなに見つめたって金塊は出ませんからね!」

「なんだそれは」

「いや、なんかそういう見返りが欲しくて見つめてるのかと思って……」

「そんなわけあるか」

「じゃあ銀塊ですか?」

「違うが」

 一人で何か納得したようにリュクレスはうんと一度大きく頷く。

「たぶん俺は、いかなる塊より価値あるものを、もう手に入れていたんだ」

「は?」

 彼はベンチから立ち上がると、すらりと剣を抜き――

「おそらく、これが答えだ!」

 ズバァッ!!! と剣を切り上げるリュクレス!

 光を帯びた剣風が縦にほとばしり、宙を駆け上がって黄金の空を真っ二つにする!
 黄金の空は背後に隠していた闇を暴かれ、本来の夜色を取り戻していった。

「すごっ……、あ、でも。心配させて、もう! 力なんて失われてないじゃないですか」

 いいながら、この光景はいつだったか似たようなものを見た覚えがあるな……、とソールーナは思い出していた。
 あれだ、ユミリオのヌードを描いた日のことだ。確か雲が一列に割れていた。メイドは『稀なる空』とかなんとか言っていたが、あれはリュクレスがこうして切り上げていたのだろう……。

「……やはりな。力は失われていない」

 納得したように呟くと、彼は振り返った。

「ソールーナ、お前は……」

 にっこりと優しく笑うリュクレス。

「俺の……、俺だけの、聖女だったんだな……」

「え? 聖女?」

 慌てて自分を指差せば、リュクレスはこくんとうなずく。

「……そう考えれば全ての辻褄が合うんだ」

「私、聖女なんかじゃないですよ? フィメリア様みたいに聖域から認定とか受けてないですし」

「忘れられし愛の女神とのゲーム……、そのゴールである聖女だ。……その聖女自身が、存在を世界から忘れられていてもおかしくはない」

「はぁ……?」

 ソールーナの返事は曖昧だ。いきなり聖女といわれても、どう反応したらいいのかわからないのだ。しかも世界から忘れられているとか。そんな大仰なことをいわれても、困る。

「女神め。結局あいつ、自分の聖女を俺に娶せたかっただけじゃないか」

 ぶつくさと文句を言うリュクレスだったが、その表情はとても晴れやかなものだった。

「まあ、いい。女神などもう関係ない。……ソールーナ、もう一度キスしてもいいか?」

「へ、へいっ」

「威勢がいいな」

 笑いながらソールーナの手を引っ張って立たせると、リュクレスはソールーナにもう一度キスした。

 ソールーナは思わず目を閉じてしまう。

「んっ……」

 こんどのキスは、今までとはちょっと違った。

 リュクレスは何度も角度を変えつつ、まるで味わうかのように唇を重ねてくるのだ。
 最初は驚いたソールーナだが、彼の情熱的な口づけを受け止めるうちにだんだん心地よくなってきてしまっていた。

 ぎゅうっ、と抱きしめてくる英雄の腕。

「愛してる、ソールーナ……、愛してる……」

「リュクレス様……」

「好きだ、愛してる……、俺だけの聖女……」

 繰り返される告白。

「……はい」

 嬉しかった。心の底から幸せだった。

「私も、好き、です。あなたのことが大好きです」

「……ああ」

 少し照れたように微笑むリュクレス。

「嬉しいよ、ソールーナ。本当に嬉しい。こんなにも幸せな気分になったのは初めてだ」

「そんな、大げさな」

「大げさなものか。なんといったら俺の心がお前に届くのだろう。愛してるとしか言えない自分が不甲斐ないよ。……愛してる、愛してるんだ、ソールーナ……」

 その愛の言葉が、じんわりと胸の中に染み込んでいく。
 そうしながらソールーナは、しばらくのあいだ、リュクレスに抱きしめられ、キスされていたのだった。


しおりを挟む
感想 41

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(41件)

おゆう
2022.07.15 おゆう
ネタバレ含む
2022.07.15 卯月ミント

嫉妬作戦、思いのほか効いていたようです。あと、ソールーナという女性への認識が改まり、それでいろいろと自分も考えを改めたようです。

解除
nico
2022.07.14 nico
ネタバレ含む
2022.07.14 卯月ミント

半分だけだし、という一縷の望みとソールーナの本人も知らない正体とは……てとこです。

解除
nico
2022.07.13 nico
ネタバレ含む
2022.07.14 卯月ミント

ほんとのほんとに超絶イケメンだったし、彼の語ってきた過去の話は全てが本当にあったことだった、ということです。
そんな彼の英雄力はどうなるのか。ソールーナの『まだ間に合うかもしれない』は本当に間に合うのか。
楽しんでいただけましたら、と思います。

解除

あなたにおすすめの小説

聖女は王子たちを完全スルーして、呪われ大公に強引求婚します!

葵 すみれ
恋愛
今宵の舞踏会は、聖女シルヴィアが二人の王子のどちらに薔薇を捧げるのかで盛り上がっていた。 薔薇を捧げるのは求婚の証。彼女が選んだ王子が、王位争いの勝者となるだろうと人々は囁き交わす。 しかし、シルヴィアは薔薇を持ったまま、自信満々な第一王子も、気取った第二王子も素通りしてしまう。 彼女が薔薇を捧げたのは、呪われ大公と恐れられ、蔑まれるマテウスだった。 拒絶されるも、シルヴィアはめげない。 壁ドンで追い詰めると、強引に薔薇を握らせて宣言する。 「わたくし、絶対にあなたさまを幸せにしてみせますわ! 絶対に、絶対にです!」 ぐいぐい押していくシルヴィアと、たじたじなマテウス。 二人のラブコメディが始まる。 ※他サイトにも投稿しています

ドレスが似合わないと言われて婚約解消したら、いつの間にか殿下に囲われていた件

ぽぽよ
恋愛
似合わないドレスばかりを送りつけてくる婚約者に嫌気がさした令嬢シンシアは、婚約を解消し、ドレスを捨てて男装の道を選んだ。 スラックス姿で生きる彼女は、以前よりも自然体で、王宮でも次第に評価を上げていく。 しかしその裏で、爽やかな笑顔を張り付けた王太子が、密かにシンシアへの執着を深めていた。 一方のシンシアは極度の鈍感で、王太子の好意をすべて「親切」「仕事」と受け取ってしまう。 「一生お仕えします」という言葉の意味を、まったく違う方向で受け取った二人。 これは、男装令嬢と爽やか策士王太子による、勘違いから始まる婚約(包囲)物語。

罰として醜い辺境伯との婚約を命じられましたが、むしろ望むところです! ~私が聖女と同じ力があるからと復縁を迫っても、もう遅い~

上下左右
恋愛
「貴様のような疫病神との婚約は破棄させてもらう!」  触れた魔道具を壊す体質のせいで、三度の婚約破棄を経験した公爵令嬢エリス。家族からも見限られ、罰として鬼将軍クラウス辺境伯への嫁入りを命じられてしまう。  しかしエリスは周囲の評価など意にも介さない。 「顔なんて目と鼻と口がついていれば十分」だと縁談を受け入れる。  だが実際に嫁いでみると、鬼将軍の顔は認識阻害の魔術によって醜くなっていただけで、魔術無力化の特性を持つエリスは、彼が本当は美しい青年だと見抜いていた。  一方、エリスの特異な体質に、元婚約者の伯爵が気づく。それは伝説の聖女と同じ力で、領地の繁栄を約束するものだった。  伯爵は自分から婚約を破棄したにも関わらず、その決定を覆すために復縁するための画策を始めるのだが・・・後悔してももう遅いと、ざまぁな展開に発展していくのだった  本作は不遇だった令嬢が、最恐将軍に溺愛されて、幸せになるまでのハッピーエンドの物語である ※※小説家になろうでも連載中※※

お飾りの婚約者で結構です! 殿下のことは興味ありませんので、お構いなく!

にのまえ
恋愛
 すでに寵愛する人がいる、殿下の婚約候補決めの舞踏会を開くと、王家の勅命がドーリング公爵家に届くも、姉のミミリアは嫌がった。  公爵家から一人娘という言葉に、舞踏会に参加することになった、ドーリング公爵家の次女・ミーシャ。  家族の中で“役立たず”と蔑まれ、姉の身代わりとして差し出された彼女の唯一の望みは――「舞踏会で、美味しい料理を食べること」。  だが、そんな慎ましい願いとは裏腹に、  舞踏会の夜、思いもよらぬ出来事が起こりミーシャは前世、読んでいた小説の世界だと気付く。

裏切られた令嬢は、30歳も年上の伯爵さまに嫁ぎましたが、白い結婚ですわ。

夏生 羽都
恋愛
王太子の婚約者で公爵令嬢でもあったローゼリアは敵対派閥の策略によって生家が没落してしまい、婚約も破棄されてしまう。家は子爵にまで落とされてしまうが、それは名ばかりの爵位で、実際には平民と変わらない生活を強いられていた。 辛い生活の中で母親のナタリーは体調を崩してしまい、ナタリーの実家がある隣国のエルランドへ行き、一家で亡命をしようと考えるのだが、安全に国を出るには貴族の身分を捨てなければいけない。しかし、ローゼリアを王太子の側妃にしたい国王が爵位を返す事を許さなかった。 側妃にはなりたくないが、自分がいては家族が国を出る事が出来ないと思ったローゼリアは、家族を出国させる為に30歳も年上である伯爵の元へ後妻として一人で嫁ぐ事を自分の意思で決めるのだった。 ※作者独自の世界観によって創作された物語です。細かな設定やストーリー展開等が気になってしまうという方はブラウザバッグをお願い致します。

お堅い公爵様に求婚されたら、溺愛生活が始まりました

群青みどり
恋愛
 国に死ぬまで搾取される聖女になるのが嫌で実力を隠していたアイリスは、周囲から無能だと虐げられてきた。  どれだけ酷い目に遭おうが強い精神力で乗り越えてきたアイリスの安らぎの時間は、若き公爵のセピアが神殿に訪れた時だった。  そんなある日、セピアが敵と対峙した時にたまたま近くにいたアイリスは巻き込まれて怪我を負い、気絶してしまう。目が覚めると、顔に傷痕が残ってしまったということで、セピアと婚約を結ばれていた! 「どうか怪我を負わせた責任をとって君と結婚させてほしい」  こんな怪我、聖女の力ですぐ治せるけれど……本物の聖女だとバレたくない!  このまま正体バレして国に搾取される人生を送るか、他の方法を探して婚約破棄をするか。  婚約破棄に向けて悩むアイリスだったが、罪悪感から求婚してきたはずのセピアの溺愛っぷりがすごくて⁉︎ 「ずっと、どうやってこの神殿から君を攫おうかと考えていた」  麗しの公爵様は、今日も聖女にしか見せない笑顔を浮かべる── ※タイトル変更しました

辺境伯聖女は城から追い出される~もう王子もこの国もどうでもいいわ~

サイコちゃん
恋愛
聖女エイリスは結界しか張れないため、辺境伯として国境沿いの城に住んでいた。しかし突如王子がやってきて、ある少女と勝負をしろという。その少女はエイリスとは違い、聖女の資質全てを備えていた。もし負けたら聖女の立場と爵位を剥奪すると言うが……あることが切欠で全力を発揮できるようになっていたエイリスはわざと負けることする。そして国は真の聖女を失う――

団長様、再婚しましょう!~お転婆聖女の無茶苦茶な求婚~

甘寧
恋愛
主人公であるシャルルは、聖女らしからぬ言動を取っては側仕えを困らせていた。 そんなシャルルも、年頃の女性らしく好意を寄せる男性がいる。それが、冷酷無情で他人を寄せ付けない威圧感のある騎士団長のレオナード。 「大人の余裕が素敵」 彼にそんな事を言うのはシャルルだけ。 実は、そんな彼にはリオネルと言う一人息子がいる。だが、彼に妻がいた事を知る者も子供がいたと知る者もいなかった。そんな出生不明のリオネルだが、レオナードの事を父と尊敬し、彼に近付く令嬢は片っ端から潰していくほどのファザコンに育っていた。 ある日、街で攫われそうになったリオネルをシャルルが助けると、リオネルのシャルルを見る目が変わっていき、レオナードとの距離も縮まり始めた。 そんな折、リオネルの母だと言う者が現れ、波乱の予感が……

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。