『魔導書』に転生した俺と、君との日々。

風城国子智

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第三章 森と砦と

3.25 優しい再会①

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 ようやく視界に入ってきた、黒字に銀の竜を刺繍した旗に、ほっと息を吐く。

 もうすぐ、サシャに逢える。熱くなった心はすぐに、心配に冷える。サシャは、……元気になっているのだろうか。何も言わず、『本』であるトールを抱えたままずんずんと進む黒竜こくりゅう騎士団長ヴィリバルトを見上げ、トールはいらいらと首を横に振った。心配しても、今は、……何もできない。意外に優しくトールを抱えるヴィリバルトと、その背後を静かに守るエゴンの巨体に目を向け、トールは力無く視線を地面に落とした。

 ヴィリバルトには、感謝しないといけない。トールを抱える腕の確かさに、首を横に振る。ヴィリバルトは、信頼できる方法で黒竜騎士団に情報を伝えるために裏表紙を失ったトールを製本工房に持ち込み、最速で直すよう、金貨を積んで注文してくれた。だから今、トールは、裏表紙の破れもあの燔柴の炎をくぐった後の焦げもなく、新品の革表紙を持っている。前と同じ黒茶色の、シンプルな表紙になっているはずだから、サシャが見てトールかどうか分からない、という事態にはならないはずだ。まだ落ち着かない、自分の新しい『外側』に、トールは小さく身体を揺り動かした。

「……バルトっ!」

 おそらく帝華ていかの都における黒竜騎士団の本拠地であるのだろう、黒色の旗で飾られた白灰色の建物にヴィリバルトとエゴンが足を向けた瞬間、止まった馬車から聞き覚えのある声が響く。

「それっ! サシャの『本』っ!」

 トールが目を上げるのと同時に、濃い金色の髪を持つ小柄な身体が、ヴィリバルトの前に現れた。

「よく分かったな、俺の次の神帝じんてい殿」

 その小柄な影、北向きたむくの神帝候補リュカに、ヴィリバルトの蒼い瞳がきゅっと細くなる。

「次の次の次!」

 確かに、神帝候補が定められた順序で神帝となるのだから、東雲しののめの神帝候補であるヴィリバルトの次は秋津あきつ、そして夏炉かろの番を経てようやくリュカが神帝に即位できる。リュカの言葉が正しい。ヴィリバルトの言動に慣れているのだろう、顔を上げてヴィリバルトを見上げたリュカは、小さな笑みを浮かべていた。

「それより、サシャは?」

 そのリュカの口が、懸念の言葉を紡ぐ。

「右奥の客間だ、小さい方の」

 リュカの疑問にあっさりと解答したヴィリバルトの声が消える前に、リュカの小さな身体は白灰色の建物の中に消えていた。

「さて」

 そのリュカの背中が視界から消える前に、トールの視界は明るい街路の方を向く。

「ようこそ、帝都ていとへ」

 ヴィリバルトの、トールを持っていない方の手が、義足の右足でどうにか馬車から降りようとしていたサシャの叔父ユーグの方へと伸びる。ユーグに触れたか触れないかのうちに、ヴィリバルトはユーグを地面に立たせていた。

「サシャは、無事なのか?」

 そのヴィリバルトが無視していた、馬車の側に立っていたアランが、息急いた様子でヴィルバルトに詰め寄る。

「神帝猊下の侍医殿に看てもらっている」

「……そうか」

 これもあっさりとしたヴィリバルトの解答に、アランは言い澱みをみせ、しかしすぐに黒竜騎士団の館の方へと足を向けた。

「どうぞ、こちらへ」

 何も言わず、青白い顔で小さくヴィリバルトを見上げるユーグ叔父の腕を、ヴィリバルトが優しく掴む。

 やはり、サシャのことで心を痛めていたのだろう。ヴィリバルトと共に黒竜騎士団の詰所の中へと進むユーグの、痩けた頬に、幻影の中の母を重ねてしまう。首を振って心の痛みをごまかしたトールをよそに、ヴィリバルトはユーグの歩調に合わせて、黒竜騎士団詰所の簡素な廊下を進んでいた。
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