『魔導書』に転生した俺と、君との日々。

風城国子智

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第四章 帝都の日々

4.33 気にかかる物事と迷い③

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「サシャ」

「グスタフ教授」

 机の横にある入り口から入ってきた、ヴィリバルトと同じ姿形に、サシャが慌てたように椅子から立ち上がる。天窓から降り注いでいた光は、既に弱くなっている。

「あ。……夕食の、準備」

「ああ、それは別に良い」

 深く頭を下げたサシャに、グスタフ教授は鷹揚に笑う。

「他の弟子達がやってくれるだろう」

 耳を澄まさずとも、開け放たれた扉の向こうからは、サシャの兄弟子に当たる者達の争うような声が聞こえてきている。グスタフ教授の館で暮らし始めてかなり経つが、二人いるはずの兄弟子達が争う以外のことをしている場面をトールは見ていない。それはともかく。

「それよりも。……済まない、サシャ」

 顔を上げたサシャの前で、グスタフ教授が小さく頭を下げる。

「明日の個人教授だが、急に予定が変更になってな」

「いえ。大丈夫です」

「それなら良いが」

 微笑んで首を横に振ったサシャに小さく頷いたグスタフ教授は、不意に、トールを開いたままの机の方へと目を留めた。

「これは、……ギュンターが持ってきた観測値か?」

 薄れた光の下、トールの横に広げられた羊皮紙を、机に近づいたグスタフが確かめる。

「この前の観測の結果だな」

「はい。……あの」

 意を決したように唾を飲み込んだサシャに、トールは目を見開いて頷いた。

「できれば、古い観測結果も、比較として、見てみたいのですが」

「ああ」

 それでも遠慮がちに響いたサシャの声に、グスタフ教授が微笑む。

星読みほしよみの観測結果の写しは、教授用の図書館の地下に保管されている」

 次に響いた、教授の声に、トールは胸を撫で下ろした。過去のデータは必要だが、サシャを侮辱した『星読み』の長グラシアノには、できれば逢いたくない。

「紹介状を書くから、明日、行ってみなさい」

「ありがとうございます!」

 軽く頷いたグスタフ教授に、サシャが大きく頭を下げる。良かった。脱力感を覚え、トールは殊更ゆっくりと息を吐いた。
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