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第五章 南への追放
5.13 ラドヴァンの砦
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近くに、自分が所有する春陽の砦がある。ラドヴァンの言葉に、リエトとグイドが頷く。微熱の所為か足下がおぼつかないサシャを、ラドヴァンが背負ってくれる。その結果、『本』であるトールは、サシャの手からリエトの手に渡された。
[サシャ、大丈夫か?]
幻の首を伸ばし、リエトの肩越しにラドヴァンとサシャを確かめる。背後からの襲撃に対応するためだろう、ラドヴァンの指示で、グイドとリエトはラドヴァンの前を歩いている。ラドヴァンの対応が正しいのだろう。それは、分かっている。
「この道で、良いのか?」
「ああ」
時折振り向き、ラドヴァンの指示を仰ぐグイドの、警戒が解かれていない顔色に、トールは無意識に首を横に振り、自分を抱き締めているリエトの、グイドに似た顔立ちを見上げていた。リエトが、行方不明となっていた夏炉の王。耳に残っているラドヴァンの声に、再び、ラドヴァンに背負われたサシャを確かめる。ラドヴァンにとってリエトを守ることが第一なのは分かっている。だが、トールにとっては、サシャのことが第一。
トールが唸っている間に、木々の間隔が広くなる。
「この向こうだ」
ラドヴァンの声に顔を上げると、前を歩くグイドの向こう、木々の間に、灰色の崖が見えた。
「まだ、歩くのか?」
不信感を帯びたグイドの声が、木々の間に小さく響く。
「いや」
そのグイドに、ラドヴァンはにやりと笑った。
「すぐ近くだ」
ラドヴァンの言葉に従うと決めたのだろう、辺りを見回したグイドが、木々が途切れる明るい空間に歩を進める。踏みしだかれた道は、真っ直ぐに、灰色の崖まで続いていた。
「あの崖が、砦なのですか?」
続いて森から出たリエトが、ラドヴァンを見上げて尋ねる。そのリエトに、ラドヴァンは笑ったまま大きく頷いた。なるほど。再び崖の方を向いたリエトの視線を辿り、灰色の景色をくまなく観察する。ところどころ暗く見える、崖の凸凹にしか見えない影は、おそらく矢狭間。夏炉でラドヴァンと共に泊まった修道院や、グイドやリエトが暮らしていた修道院と同じように、ラドヴァンの砦は崖に擬態していた。
そのような観察をしているうちに、視界が急に暗くなる。
「客人に、部屋の準備を頼む」
砦の中に入った。トールがそう、理解する前に、駆け寄ってきた部下らしき影に指示を出すラドヴァンの声がトールの耳に響いた。
「リエト殿とグイド殿は、同じ部屋で良いな」
「ええ」
「では、奥の部屋と、……湯と食事の準備も頼む」
ラドヴァンの質問に頷いたグイドに、ラドヴァンが部下の一人の肩を叩く。
「サシャは……」
ラドヴァンが辺りを見回す前に、恰幅の良い影がリエトとラドヴァンの間に割って入った。
「サシャ!」
この、声は。思いがけない再会に目を瞬かせる。
「熱があるようだが」
「左肩の怪我から、毒が入ったようです」
ラドヴァンの背からぐったりとしたサシャを受け取ったアランに、トールを抱き締めたままのリエトが声を上げた。
「そうか」
「サシャにも、部屋を一つ用意してくれ」
サシャの上着を脱がせ、左肩を確かめるアランの横で、部下に指示を出したラドヴァンがリエトからトールを受け取る。
「……アラン、師匠?」
アランの腕の中でサシャが目を覚ましたのは、丁度その時。
「『教授』な」
目を瞬かせたサシャの言葉を、アランが笑って訂正する。
「サシャのおかげだ」
「え……?」
続くアランの言葉に首を傾げたサシャに、トールは小さく吹き出した。
「しかし良かった」
サシャの白い髪を撫でたアランが、サシャの細い身体をしっかりと抱き締める。
「ラドヴァンから『サシャが行方不明になった』と聞かされた時には、さすがに肝が冷えたよ」
教授資格を得てすぐ、アランは、帝都から船で南苑へ向かい、南苑から北上して春陽に到着した。だが、先に着いていると思っていたサシャは、夏炉と春陽の国境付近で行方が分からなくなっており、ラドヴァンの従者達の捜索にも拘わらず手掛かりすら見つからない。無事でいてくれと、ずっと祈っていた。サシャを抱き締め続けるアランの、震える太い腕に、トールは首を横に振った。サシャが無事に、ここまで辿り着くことができて、本当に良かった。
「部屋の準備ができたようだ」
そのトールの耳に、ラドヴァンの小さな声が降ってくる。
アランに抱えられ、砦の奥へと向かうサシャに、トールは安堵の息を吐いた。
[サシャ、大丈夫か?]
幻の首を伸ばし、リエトの肩越しにラドヴァンとサシャを確かめる。背後からの襲撃に対応するためだろう、ラドヴァンの指示で、グイドとリエトはラドヴァンの前を歩いている。ラドヴァンの対応が正しいのだろう。それは、分かっている。
「この道で、良いのか?」
「ああ」
時折振り向き、ラドヴァンの指示を仰ぐグイドの、警戒が解かれていない顔色に、トールは無意識に首を横に振り、自分を抱き締めているリエトの、グイドに似た顔立ちを見上げていた。リエトが、行方不明となっていた夏炉の王。耳に残っているラドヴァンの声に、再び、ラドヴァンに背負われたサシャを確かめる。ラドヴァンにとってリエトを守ることが第一なのは分かっている。だが、トールにとっては、サシャのことが第一。
トールが唸っている間に、木々の間隔が広くなる。
「この向こうだ」
ラドヴァンの声に顔を上げると、前を歩くグイドの向こう、木々の間に、灰色の崖が見えた。
「まだ、歩くのか?」
不信感を帯びたグイドの声が、木々の間に小さく響く。
「いや」
そのグイドに、ラドヴァンはにやりと笑った。
「すぐ近くだ」
ラドヴァンの言葉に従うと決めたのだろう、辺りを見回したグイドが、木々が途切れる明るい空間に歩を進める。踏みしだかれた道は、真っ直ぐに、灰色の崖まで続いていた。
「あの崖が、砦なのですか?」
続いて森から出たリエトが、ラドヴァンを見上げて尋ねる。そのリエトに、ラドヴァンは笑ったまま大きく頷いた。なるほど。再び崖の方を向いたリエトの視線を辿り、灰色の景色をくまなく観察する。ところどころ暗く見える、崖の凸凹にしか見えない影は、おそらく矢狭間。夏炉でラドヴァンと共に泊まった修道院や、グイドやリエトが暮らしていた修道院と同じように、ラドヴァンの砦は崖に擬態していた。
そのような観察をしているうちに、視界が急に暗くなる。
「客人に、部屋の準備を頼む」
砦の中に入った。トールがそう、理解する前に、駆け寄ってきた部下らしき影に指示を出すラドヴァンの声がトールの耳に響いた。
「リエト殿とグイド殿は、同じ部屋で良いな」
「ええ」
「では、奥の部屋と、……湯と食事の準備も頼む」
ラドヴァンの質問に頷いたグイドに、ラドヴァンが部下の一人の肩を叩く。
「サシャは……」
ラドヴァンが辺りを見回す前に、恰幅の良い影がリエトとラドヴァンの間に割って入った。
「サシャ!」
この、声は。思いがけない再会に目を瞬かせる。
「熱があるようだが」
「左肩の怪我から、毒が入ったようです」
ラドヴァンの背からぐったりとしたサシャを受け取ったアランに、トールを抱き締めたままのリエトが声を上げた。
「そうか」
「サシャにも、部屋を一つ用意してくれ」
サシャの上着を脱がせ、左肩を確かめるアランの横で、部下に指示を出したラドヴァンがリエトからトールを受け取る。
「……アラン、師匠?」
アランの腕の中でサシャが目を覚ましたのは、丁度その時。
「『教授』な」
目を瞬かせたサシャの言葉を、アランが笑って訂正する。
「サシャのおかげだ」
「え……?」
続くアランの言葉に首を傾げたサシャに、トールは小さく吹き出した。
「しかし良かった」
サシャの白い髪を撫でたアランが、サシャの細い身体をしっかりと抱き締める。
「ラドヴァンから『サシャが行方不明になった』と聞かされた時には、さすがに肝が冷えたよ」
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「部屋の準備ができたようだ」
そのトールの耳に、ラドヴァンの小さな声が降ってくる。
アランに抱えられ、砦の奥へと向かうサシャに、トールは安堵の息を吐いた。
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