179 / 351
第六章 西からの風
6.5 状況の確認と食糧調達
しおりを挟む
次の日。
明るくなってから、あらためて、一人と一冊が置かれている状況を把握するために洞窟の外に出る。
[うーん]
見えるのは、昨夕よりは穏やかに打ち寄せる波と、昨日と同じ黒い砂浜。砂浜を真ん中に置いた海の反対側にあるのは、朝の光でもやはり「登れそうにない」と判断するしかない垂直で高い崖。崖の上には緑色が見えるが、あの植物は、現時点でも利用不能。
砂浜の端から脱出することは可能だろうか? 首を大きく回して見えた、砂浜の両端で波に洗われている岩の列の鋭い影に唇を横に引き結ぶ。あの岩を伝い行くことも、不可能。岩の横、水面に隠れている部分も、波が荒くて見通すことができない。秋分祭の頃だから、波の間にクラゲが潜んでいる可能性もある。サシャは北都で泳ぐ練習をしたが、それは、穏やかな湖でのこと。波に揺れる海を泳いで渡ることは、サシャには不可能。どう考えても、この場所から出る術を考えつくことができない。途方に暮れたトールの耳に、サシャの深い溜め息が響いた。
「海、に、魚、いるかな?」
黒い砂を洗う波に、サシャが首を傾げる。
幸いなことに、真水は、ある。崖の上から落ちて砂浜に吸い込まれている細い水の線に、ゆっくりと微笑む。南苑でサシャが常に肩にかけていた鞄は、これも幸いなことにサシャの側に落ちていた。鞄の中身も、全て無事に入っていたが、食料は、サシャとメイネ教授二人分の昼食と夕食にする予定だった大きめのパンとチーズのみ。ここを脱出するまで、その食料を保たせなければ。
「釣り竿、作れば、魚、捕れるよね」
だが。サシャの言葉に、小さく唸る。幼い頃、祖父や従兄弟達に連れられて、瀬戸内の海に何度か釣りに行った。だが、トールの竿には魚が掛かった覚えがない。祖父は、無造作な動作で簡単に魚を釣ってみせていたのに。思い出を、トールは慌てて心の奥底に仕舞った。こんな自分がいるのに、魚が釣れるのか。いや、やってみないと分からない。細めの流木を手にしたサシャに、トールは大きく頷いてみせた。
鞄の中に入っていた、サシャの出身地である北辺よりも更に北にある『冬の国』の商人タトゥからもらった短刀で流木を削り、鞄の中の携帯裁縫箱から取り出した糸と、曲げた針で、即席の釣り竿を作る。掘った砂から飛び出してきた貝を餌にすると、サシャは波の間に釣り針を投げ入れた。
「……うーん」
やはり、と言うべきか。幾ら待っても、魚が釣れる気配は無い。
[貝を、蒸して食べた方が良いかも]
砂浜に座り込み、膝を抱えてしまったサシャに、トールは慰めの代わりに代案を背表紙に並べた。
その時。
明るくなってから、あらためて、一人と一冊が置かれている状況を把握するために洞窟の外に出る。
[うーん]
見えるのは、昨夕よりは穏やかに打ち寄せる波と、昨日と同じ黒い砂浜。砂浜を真ん中に置いた海の反対側にあるのは、朝の光でもやはり「登れそうにない」と判断するしかない垂直で高い崖。崖の上には緑色が見えるが、あの植物は、現時点でも利用不能。
砂浜の端から脱出することは可能だろうか? 首を大きく回して見えた、砂浜の両端で波に洗われている岩の列の鋭い影に唇を横に引き結ぶ。あの岩を伝い行くことも、不可能。岩の横、水面に隠れている部分も、波が荒くて見通すことができない。秋分祭の頃だから、波の間にクラゲが潜んでいる可能性もある。サシャは北都で泳ぐ練習をしたが、それは、穏やかな湖でのこと。波に揺れる海を泳いで渡ることは、サシャには不可能。どう考えても、この場所から出る術を考えつくことができない。途方に暮れたトールの耳に、サシャの深い溜め息が響いた。
「海、に、魚、いるかな?」
黒い砂を洗う波に、サシャが首を傾げる。
幸いなことに、真水は、ある。崖の上から落ちて砂浜に吸い込まれている細い水の線に、ゆっくりと微笑む。南苑でサシャが常に肩にかけていた鞄は、これも幸いなことにサシャの側に落ちていた。鞄の中身も、全て無事に入っていたが、食料は、サシャとメイネ教授二人分の昼食と夕食にする予定だった大きめのパンとチーズのみ。ここを脱出するまで、その食料を保たせなければ。
「釣り竿、作れば、魚、捕れるよね」
だが。サシャの言葉に、小さく唸る。幼い頃、祖父や従兄弟達に連れられて、瀬戸内の海に何度か釣りに行った。だが、トールの竿には魚が掛かった覚えがない。祖父は、無造作な動作で簡単に魚を釣ってみせていたのに。思い出を、トールは慌てて心の奥底に仕舞った。こんな自分がいるのに、魚が釣れるのか。いや、やってみないと分からない。細めの流木を手にしたサシャに、トールは大きく頷いてみせた。
鞄の中に入っていた、サシャの出身地である北辺よりも更に北にある『冬の国』の商人タトゥからもらった短刀で流木を削り、鞄の中の携帯裁縫箱から取り出した糸と、曲げた針で、即席の釣り竿を作る。掘った砂から飛び出してきた貝を餌にすると、サシャは波の間に釣り針を投げ入れた。
「……うーん」
やはり、と言うべきか。幾ら待っても、魚が釣れる気配は無い。
[貝を、蒸して食べた方が良いかも]
砂浜に座り込み、膝を抱えてしまったサシャに、トールは慰めの代わりに代案を背表紙に並べた。
その時。
0
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
地上最強ヤンキーの転生先は底辺魔力の下級貴族だった件
フランジュ
ファンタジー
地区最強のヤンキー・北条慎吾は死後、不思議な力で転生する。
だが転生先は底辺魔力の下級貴族だった!?
体も弱く、魔力も低いアルフィス・ハートルとして生まれ変わった北条慎吾は気合と根性で魔力差をひっくり返し、この世界で最強と言われる"火の王"に挑むため成長を遂げていく。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
異世界で一番の紳士たれ!
だんぞう
ファンタジー
十五歳の誕生日をぼっちで過ごしていた利照はその夜、熱を出して布団にくるまり、目覚めると見知らぬ世界でリテルとして生きていた。
リテルの記憶を参照はできるものの、主観も思考も利照の側にあることに混乱しているさなか、幼馴染のケティが彼のベッドのすぐ隣へと座る。
リテルの記憶の中から彼女との約束を思いだし、戸惑いながらもケティと触れ合った直後、自身の身に降り掛かった災難のため、村人を助けるため、単身、魔女に会いに行くことにした彼は、魔女の館で興奮するほどの学びを体験する。
異世界で優しくされながらも感じる疎外感。命を脅かされる危険な出会い。どこかで元の世界とのつながりを感じながら、時には理不尽な禍に耐えながらも、自分の運命を切り拓いてゆく物語。
【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~
きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。
前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
聖女を追放した国の物語 ~聖女追放小説の『嫌われ役王子』に転生してしまった。~
猫野 にくきゅう
ファンタジー
国を追放された聖女が、隣国で幸せになる。
――おそらくは、そんな内容の小説に出てくる
『嫌われ役』の王子に、転生してしまったようだ。
俺と俺の暮らすこの国の未来には、
惨めな破滅が待ち構えているだろう。
これは、そんな運命を変えるために、
足掻き続ける俺たちの物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる