『魔導書』に転生した俺と、君との日々。

風城国子智

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第七章 東の理

7.13 渡された本の内容は

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「えっ!」

 何が、書いてあるの? サシャの言葉に、目次をさっと確かめる。一人と一冊が何度か酷い目に遭った『古代の神殿から神殿への移動』については残念ながら書かれていそうにない。だが、他人の身体を乗っ取る術や、村一つを湖や川の底に沈める術などが、この本には書かれているらしい。

「村一つを湖に沈める、魔法?」

 トールが表紙に並べた言葉の一つに、サシャが反応する。

「『星の湖ほしのみずうみ』の底にいた人々、その魔法の犠牲者なのかも」

 エプロンの胸ポケットから蝋板と鉄筆を取り出したサシャは、埃っぽい本を開き、出てくるくしゃみを袖で押さえながら目次を確認して該当ページを開いた。

「方法は、色々あるみたい」

 この世界の人々は『祈祷書』と認識しているトールで開いた本のページを押さえているので、トールにも、サシャが読んでいるページが読める。単に湖や川を溢れさせて村を沈める魔術。洪水の幻影を見せて敵陣営をパニックに陥れる魔術。何かに執着する一人を利用して村に住む人々全員の魂を湖や川の底に縛り付ける魔術(魔術師一人を犠牲にする、難易度の高い魔術だと余白に落書きがある)。幻の胃がムカムカする記述に、トールは逃げ出したい気持ちを辛うじて堪えた。逃げたくても、手も足もないトールには何もできない。

「……魔術、に、利用された、『何かに執着する一人』を『解放』すれば、村人達の魂を縛る封印、も、解け、る……で良いのかな?」

 蒼白い顔で、それでも一生懸命擦れた文字を解読しているサシャに、はっとする。サシャは、『星の湖』で出会ったあの子供達のためにできることをしようとしている。サシャが頑張るのであれば、トールも頑張らないと。

[それで合ってる]

 サシャが読み下そうとしている部分を大急ぎで読み、肯定の文字を表紙に並べる。

「ありがとう、トール」

 トールの文字を読み取り大きく微笑んだサシャは、読み取った通りのことを蝋板にメモした。おそらく、自室に戻ってから、肌身離さず持っていないといけない『祈祷書』であるトールの余白に、調査結果を書き記すのであろう。紙の作り方をメモした、手作りのインクの褪せ具合を思い出し、トールは小さく頷いた。

 本当に、『古代の神像に触れると神殿から神殿に勝手に移動してしまう』魔術のことは、この本には書かれていないのだろうか? 蝋板に記した自分のメモと本の内容が一致するかどうかを確認するサシャを横目に、もう一度、魔術について書かれた本の中身をざっと読む。しかし、やはり、トールがどうしても知りたかった『神殿から神殿へ勝手に移動』する魔術の記載は、無い。

[古代の神像に触れたら、未知の土地に移動するの、何とかならないかな]

「どうして僕だけ、移動するんだろう?」

 トールの呟きを読み取ったサシャが、深い溜息をつく。

「あの神像に触れても何も起こらなかったって、メイネ教授、は」

 そうだよなぁ。少し前にサシャが受け取った、南苑なんえんでお世話になった歴史学の教授メイネの手紙の内容を、まざまざと思い出す。サシャが消えた後、メイネ自身も、サシャを追いかけるためにあの神像に触れてみたらしい。しかし、何も起こらなかった。南苑や隣国春陽はるひの文献をしらみつぶしに調べてみても、古代の神殿を調査している人々が消えたという報告は全く無い。サシャがどうして消えたのか、全く分からない。手紙の末尾に聞こえたメイネ教授の唸り声を思い出し、トールも小さく唸り声を上げた。とにかくこの件は、機会がある時にきちんと調べておかなければ、サシャの身が危ない。魔術の本を元に戻し、本来の目的である法学の本へと向き直ったサシャに、トールは大きく頷いた。

 そう言えば。メイネ教授からの手紙とほぼ同時に北向きたむくからセルジュとサシャ宛てに届いた、カジミールからの手紙の内容を唐突に思い出す。秋都でサシャに話した通り、星読ほしよみの道を通り、北辺ほくへん経由で北都ほくとに辿り着いたカジミールは、北都の図書館でサシャもお世話になった算術と幾何の助手エルネストに捕まり、帝都ていとから来たという法学教授マクシムの世話をエルネストから押し付けられたらしい。カジミールは法学を勉強したがっていたから、法学教授の内弟子になることはカジミールにとっては良いこと。だが、……カジミールもこの場所にいれば、頼もしいのに。秋都あきとでサシャを守ってくれた大きめの背中を思い出し、トールは静かに首を横に振った。
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