『魔導書』に転生した俺と、君との日々。

風城国子智

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第九章 知識と勇気で

9.12 神帝ティツィアーノの判断

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 バジャルドと共に、帝都ていとの南門近くに位置する神帝じんてい公邸へと向かう。

 正面玄関を入ってすぐのところにあるロビーで待たされることなく、一人と一冊はバジャルドとノエルと共に、受付係の白竜はくりゅう騎士によってロビーの上階にある神帝の執務室に案内された。

「来ましたね」

 神帝の執務室に入るサシャの細かい身体の震えに頷いたトールの耳に、神帝ティツィアーノの素っ気ない声が響く。顔を上げたトールの視界に真っ先に入ってきたのは、大きな机の向こうに座る神帝ティツィアーノの小柄な影と、その横に立つ、かつてサシャを「狂信者である」と断定し、サシャを帝都から追い出した医学教授エフラインの、胸が悪くなるような笑み。

「あらましは、エフライン教授から聞いています」

 エフラインの方へと顔を向けたティツィアーノが、正面に立ったサシャを凝視する。

「たとえ北向きたむくの神帝候補といえども、狂信者に捧げるために遺体を盗むような輩を野放しにしておくわけにはいきません、猊下」

 その横で響いた、エフライン教授の滑らかな声に、トールはサシャのエプロンの胸ポケットの中からエフラインをきっと睨んだ。サシャは、無実だ。

「子供さらいの件も、この者が狂信者に捧げるために……」

「遺体泥棒も、子供さらいも、この者がここに来る前から起こっていました」

 サシャを非難するエフラインの言葉を、ティツィアーノが簡潔な事実で制する。

「子供さらいの件に関しては、この者が来てから止まっています」

 聞こえてきた冷静に言葉に、トールは目を瞬かせて目の前の、天窓から降り注ぐ夕日の所為かどこかくたびれたようにもみえる影を見直した。秋津あきつ出身の神帝セベリノの暗殺や、レフィという名の部下を使ってサシャの命を狙っていたことを考えると、ティツィアーノは信頼できない。そう、トールは思っていた。だが。サシャを狙う件については警戒を続けないといけないが、それ以外の、政や統治の件では、ティツィアーノが神帝であることは意外と良いことなのかもしれない。

「ですが」

 更に持論を重ねようとするエフラインに、ティツィアーノが鋭い視線を向ける。

「解剖については、罪人を使って良いと前々から許可を出しているはずですが」

「……」

 続くティツィアーノの言葉に、エフラインはサシャを睨み付け、そして早足で執務室を去って行った。

「あ……」

「ありがとうございます、猊下」

 声が出ないサシャの代わりに、バジャルドが頭を下げる。

「事実を言っただけです」

 そのサシャとバジャルドに冷徹な視線を向けてから、神帝ティツィアーノはサシャの横にいたノエルに目を留め、そしてティツィアーノの背後にいた白竜騎士団長イジドールの方へと身体を向けた。

「母を亡くしてから、ノエルは大分痩せましたね、イジドール」

 ティツィアーノの言葉に、イジドールの顔色が僅かに夕日の色に染まる。

「ノエルと一緒に、故郷の北向でしばらく休んだらどうですか」

「いえ」

 敬意を忘れた短い言葉をティツィアーノに返したイジドールは、息子であるノエルの方を見ることなく、神帝を守護する姿勢に戻った。

「今日は、もう、嘆願者は居ませんね」

 溜め息のような息を吐いたティツィアーノが、サシャ達を執務室に案内してくれた白竜騎士に声を掛ける。

「はい」

「では、今日の仕事はこれで終わりにしましょう」

 そう言って椅子から立ち上がったティツィアーノは、次に思いがけないことを口にした。

「サシャは、今日はここに泊まりなさい」

 サシャの心臓が飛び上がると同時に、トールの幻の心臓も飛び上がる。

「いつか神帝になる時のために、公邸を見学するのも良いでしょう」

 続くティツィアーノの尤もな台詞に、一人と一冊は頷くよりほか、なかった。
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