『魔導書』に転生した俺と、君との日々。

風城国子智

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第九章 知識と勇気で

9.21 アラン教授の説明①

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「サシャ」

 聞き知った声に、サシャのエプロンの胸ポケットの中から空を見上げる。

 白竜はくりゅう騎士団宿舎内にある自室前の廊下にベンチを置いて繕い物をしていたサシャの前にあったのは、医学教授アランの、いつになく厳しい顔。

「ちょっと、良いか」

 言葉少なく、サシャが繕い物を置いた側とは反対側に腰を下ろすアランに、違和感を覚える。もしかして、帝華ていかの東側にある黒竜こくりゅう騎士団領に蔓延している病が、アランの手に負えないほど酷いのだろうか? それとも。

「黒竜騎士団領の伝染病は……」

「その話は、後でしよう」

 トールと同じ心配を口にしたサシャに、アランが首を横に振る。

西海さいかい神帝じんてい候補がウォルターである理由を、イアンから聞いてきた」

 続くアランの言葉に、トールは小さく頷いた。西海の漁師の息子でしかないウォルターがなぜ、西海の神帝候補になっているのか、その理由も、知りたかったことの一つ。

「まあ、一言で言えば、西海側が神帝に不信感を持っている、というところだな」

 少しだけ普段の口調を取り戻したアランに、サシャが頷く。

 東雲しののめ出身の神帝ヴィリバルトと秋津あきつ出身の神帝セベリノが相次いで暗殺されたことを懸念した西海王家では、暗殺の張本人かもしれない夏炉かろ出身の神帝ティツィアーノからの「神帝候補を帝都ていとに送るように」という要請に対する反発が起きた。神帝候補の王族を帝都に向かわせたくはないが、神帝候補を送らなければティツィアーノが何を企むか分からない。帝都の混乱と西海王家の意志を考え合わせたイアンの叔父、西海の文官長レイフは、自身の兄の息子と、兄が預かっている漁師の子供ウォルターを王位継承順位が一番低い西海王族の養子とし、神帝候補とその付き人として帝都に送ることにした。イアンとその父ルーファスがまだ帝都で学生相手の酒場を開いていた頃、西海や北向きたむくといった小国出身の学生が秋津や東雲、南苑なんえんといった大国出身の学生に虐められているところを庇ったルーファスは頭に酷い怪我をした。西海で悪化してしまったその怪我を、高名な医師である秋都あきとの医学教授ユドークスに治療してもらうという条件で、イアンは叔父レイフの無茶な要求を呑んだという。唯一の保護者であったグレン老人を病で失ったうえに、兄オーガストは「両親を探しに行く」と言って遠洋で魚を捕る船に乗ってしまったという事情を持つウォルターは、自分を引き取ってくれたルーファスに恩を返すために神帝候補となった。

「神帝公邸に留め置かれているイアンも、西海からの人質扱いなんだろうな」

 説明を締めくくるアラン教授の言葉に、小さく頷く。ウォルターも、神帝公邸でグイドの手伝いをしているというイアンも、今のところは西海の神帝候補とその付き人としての扱いを受けている。西海の思惑がすっかりばれない限り、二人については大丈夫だろう。アラン教授の言葉に、一人と一冊は同時に小さく息を吐いた。
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