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第2章 理想の旦那
9.……結婚、したい
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「そろそろ食事の準備するかなー。
お茶のお代わり、いるか?」
「あ、いえ。
大丈夫、です」
「ん」
立ち上がった課長はキッチンへ行き、椅子にかけてあった、黒のシンプルなエプロンを着けた。
「あ、これでも観てろ」
戻ってきた楠木さんが円盤をセットし、再生がはじまったのは、私が大学生の頃に夢中になっていた武器商人のアニメだった。
てかなんで、私がこれが好きだと知っている!?
言っておくがこれはかなりゴリゴリのミリタリーもので、あまり女性に勧めるものではない。
「Blu-ray Box、持ってるんだ。
初回限定の奴」
「……!」
ニヤリ、と片方の口端だけを上げて笑い、楠木さんはまたキッチンへ行った。
なんなんだ、この男は!?
オタク趣味に理解があるどころか、腐女子を否定しないし、変に迎合もしない。
ライトオタクだろうと思っていたが、一般人気はさほどないアニメのBlu-ray Box、しかも初回限定を持っている。
さらにそれが、私の好きなアニメとくれば。
「……結婚したい」
つい口から、言ってはならない言葉が漏れていた。
慌てて楠木さんを見るが、気づかれてはいないようだ。
「……セーフ」
私に恋愛感情なんてないし、性欲だってない。
……楠木さんとするキスは気持ちいいけど。
とにかく、結婚しても彼の欲求を満たせないから無理。
それに真実を知らない彼と結婚だなんて、まるで結婚詐欺だ。
「ないない、結婚なんてないわー」
聞こえないように小さく呟き、冷たくなったお茶を飲みながらアニメを観る。
そういえば、周りからどんなに反対され、反発されようと自分の信念を貫き通す女武器商人に、あの頃は憧れていたな……。
「できたぞー」
二話にさしかかったあたりで、楠木さんがダイニングテーブルの上に料理を並べていく。
後ろ髪を引かれながらも再生を止め、私もテーブルに着いた。
「口にあうといいんだが」
「いえ。
……いただきます」
メニューはタルタルソースのたっぷりかかったチキン南蛮のようだが、無駄にパセリなんか散らしてお洒落にしてあって、どこかのカフェみたいだ。
さらに味噌汁は具が、ミニトマトとベーコンだし。
いつも面倒くさくて適当に炒めたものを丼に注いだごはんの上にのせて食べている私とは大違いだ。
「……あ、これ、カレーなんですか」
さっきからカレーの匂いはするが存在がなくて不思議だった。
けれどチキンを食べて納得。
カレーの辛みと香りが玉子たっぷりのタルタルソースによくあい、食欲をそそる。
「正解」
「よくこんな、手間のかかるものができますね」
鶏を揚げ、さらにタレとソースを作り、サイドメニューまで作るなんて、私だったらしない。
「そうか?
揚げ焼きでタレはそのままフライパンに流し込んで煮詰めるから楽だし、タルタルだって玉子だけだから手抜きだぞ?」
「……」
つい、箸を置いていた。
仮に彼と結婚したとしても、こんなことをこともなげに言う彼を満足させられる家事ができるとは思えない。
「あ、別に麻里恵に僕と同じだけのことをしろ、なんて言わない」
私の考えていることに気づいたのか、楠木さんも箸を置き、真っ直ぐに私を見てきた。
「家事は僕ができるだけやるし、料理もする。
ただ、僕が忙しくてできないときは麻里恵に頼みたい。
けれどそれがどんなものでも僕は文句を言わないぞ。
やってくれるだけで助かるからな」
にっこりと微笑み、楠木さんは食事を再開した。
私も箸を握り、口に入れたチキンを噛みしめる。
……なんだ、この理想の旦那像は!
本気で結婚したい……!
いやいや、私は彼に恋愛感情がないから、そういう欲求に応えられないわけで。
食事を進めながら、目の前に座る楠木さんをちらり。
容姿、社会ステータスだけじゃなく、家庭人としてもパーフェクトな彼なら、それこそ相手は選び放題では?
なのに私にこれほど固執する理由とはいったいなんなんだろう。
ああ、あれか。
一般女子としては避けたい、オタク趣味を隠さないでいいからか。
もうそれしか、考えつかないんだけど。
お茶のお代わり、いるか?」
「あ、いえ。
大丈夫、です」
「ん」
立ち上がった課長はキッチンへ行き、椅子にかけてあった、黒のシンプルなエプロンを着けた。
「あ、これでも観てろ」
戻ってきた楠木さんが円盤をセットし、再生がはじまったのは、私が大学生の頃に夢中になっていた武器商人のアニメだった。
てかなんで、私がこれが好きだと知っている!?
言っておくがこれはかなりゴリゴリのミリタリーもので、あまり女性に勧めるものではない。
「Blu-ray Box、持ってるんだ。
初回限定の奴」
「……!」
ニヤリ、と片方の口端だけを上げて笑い、楠木さんはまたキッチンへ行った。
なんなんだ、この男は!?
オタク趣味に理解があるどころか、腐女子を否定しないし、変に迎合もしない。
ライトオタクだろうと思っていたが、一般人気はさほどないアニメのBlu-ray Box、しかも初回限定を持っている。
さらにそれが、私の好きなアニメとくれば。
「……結婚したい」
つい口から、言ってはならない言葉が漏れていた。
慌てて楠木さんを見るが、気づかれてはいないようだ。
「……セーフ」
私に恋愛感情なんてないし、性欲だってない。
……楠木さんとするキスは気持ちいいけど。
とにかく、結婚しても彼の欲求を満たせないから無理。
それに真実を知らない彼と結婚だなんて、まるで結婚詐欺だ。
「ないない、結婚なんてないわー」
聞こえないように小さく呟き、冷たくなったお茶を飲みながらアニメを観る。
そういえば、周りからどんなに反対され、反発されようと自分の信念を貫き通す女武器商人に、あの頃は憧れていたな……。
「できたぞー」
二話にさしかかったあたりで、楠木さんがダイニングテーブルの上に料理を並べていく。
後ろ髪を引かれながらも再生を止め、私もテーブルに着いた。
「口にあうといいんだが」
「いえ。
……いただきます」
メニューはタルタルソースのたっぷりかかったチキン南蛮のようだが、無駄にパセリなんか散らしてお洒落にしてあって、どこかのカフェみたいだ。
さらに味噌汁は具が、ミニトマトとベーコンだし。
いつも面倒くさくて適当に炒めたものを丼に注いだごはんの上にのせて食べている私とは大違いだ。
「……あ、これ、カレーなんですか」
さっきからカレーの匂いはするが存在がなくて不思議だった。
けれどチキンを食べて納得。
カレーの辛みと香りが玉子たっぷりのタルタルソースによくあい、食欲をそそる。
「正解」
「よくこんな、手間のかかるものができますね」
鶏を揚げ、さらにタレとソースを作り、サイドメニューまで作るなんて、私だったらしない。
「そうか?
揚げ焼きでタレはそのままフライパンに流し込んで煮詰めるから楽だし、タルタルだって玉子だけだから手抜きだぞ?」
「……」
つい、箸を置いていた。
仮に彼と結婚したとしても、こんなことをこともなげに言う彼を満足させられる家事ができるとは思えない。
「あ、別に麻里恵に僕と同じだけのことをしろ、なんて言わない」
私の考えていることに気づいたのか、楠木さんも箸を置き、真っ直ぐに私を見てきた。
「家事は僕ができるだけやるし、料理もする。
ただ、僕が忙しくてできないときは麻里恵に頼みたい。
けれどそれがどんなものでも僕は文句を言わないぞ。
やってくれるだけで助かるからな」
にっこりと微笑み、楠木さんは食事を再開した。
私も箸を握り、口に入れたチキンを噛みしめる。
……なんだ、この理想の旦那像は!
本気で結婚したい……!
いやいや、私は彼に恋愛感情がないから、そういう欲求に応えられないわけで。
食事を進めながら、目の前に座る楠木さんをちらり。
容姿、社会ステータスだけじゃなく、家庭人としてもパーフェクトな彼なら、それこそ相手は選び放題では?
なのに私にこれほど固執する理由とはいったいなんなんだろう。
ああ、あれか。
一般女子としては避けたい、オタク趣味を隠さないでいいからか。
もうそれしか、考えつかないんだけど。
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