契約書は婚姻届

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

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第12話 尚一郎と元カノ

2.療養所

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着いたところは山の上の病院のようだった。

受付をすませると、案内もなしに迷わず尚一郎は進んでいく。
もう何度も、来ているのかもしれない。

目的の病室と思わしき前で足を止めると、尚一郎は一度、目を閉じて大きく深呼吸をした。
再び目を開けるとコンコンコンとドアをノックする。

「万理奈。
ひさしぶ……」

「いやーっ!」

云い終わらないうちに、悲鳴と共に飛んできた枕が尚一郎の顔にヒットし、眼鏡をずらす。

「いやっ、こないで!
いやーっ!」

悲鳴を上げながらベッドの隅で小さくなっている女性の病衣からのぞく、手足の大半はケロイドに覆われている。

「こないで、お願い、こないで……」

膝を抱えてガタガタと震えている女性に小さくはぁっとため息を落とすと、尚一郎は朋香を振り返った。

「行こうか」

「えっ、はい」

病室を出ていく尚一郎に、慌てて一応、女性にあたまを下げて続く。
女性は一度も、朋香の方を見ることがなかった。

「あの、いまのって」

「あれが万理奈。
もう自分のことすらわからないのに、僕だけは認識してる」

尚一郎を認識してあれだけ怯えるなどと、彼女と尚一郎の過去になにがあったのか気になった。
そのまま、尚一郎に連れられて食堂のようなところにきたが、閑散としていて人ひとりいない。

「ここはいつも、こんな感じなんだよ。
療養所で外来はないし、見舞いに来る人も少ないからね」

「そうなんですか」

座ってて、そう云われて手近なテーブルに着くと、尚一郎が自動販売機からコーヒーを買ってきて目の前に座る。

「さて。
僕と万理奈が付き合うまでの話はしたよね。今度は、僕と万理奈が別れて、万理奈が壊れるまでの話をするよ」

悲しそうに笑う尚一郎に、胸にナイフが刺さったかと思うほどに痛みが走った。
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