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第14話 お姉ちゃん?
5.新しい役目
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今日は泊まるという侑岐と、帰ってきた尚恭の三人で夕食を囲む。
「あの。
……私は本邸に、戻らなくていいんでしょうか?」
ずっと気になっていた。
尚一郎の出張中、朋香の身分は本邸預かり。
なのに、昨日あんなことがあったとはいえ、尚恭の屋敷でのんびりしてていいのかと。
「朋香さんは昨日あんな経験をされて、それでも本邸に戻りたいと?」
まるで珍しいものでも見るかのように尚恭の、眼鏡の奥の目がぱちくりと一回、大きく瞬きした。
「戻りたくはないですけど。
でも、それが私に命じられたことだったので……」
結局、逃げ出したようになってしまったのは、腹立たしくもある。
いまごろ、自子など喜んでいるのではないかと思うと特に。
「朋香ってほんとにけなげだわ。
尚一郎の嫁にしておくのがもったいないくらい」
「確かに。
私がもう十ほど若ければ、放っておかないのに」
「え、えーっと……」
ふたりにうんうんと頷かれても困る。
「もうあそこに戻る必要はないですよ。
朋香さんには月曜から、私の秘書として働いていただく予定ですから」
「はい?」
にっこりと笑った尚恭が、なにを云っているのかわからない。
自分に、尚恭の秘書をしろと?
「でも私、秘書経験なんてないですし。
そんな」
「なにをおっしゃいますか。
尚一郎と結婚する前は、お父様の会社で社長秘書をされていたのでしょう?
仕事に差異はありません」
「うっ」
そこをつかれると困るが、しがない町工場社長の秘書と大会社社長の秘書では違う。
そもそも、自分がやっていたのは秘書のまねごとだったのだから。
「大丈夫よ、朋香。
あなただったらきっと、立派な秘書としてやっていけるわ」
「侑岐さーん」
ぱちんと侑岐にウィンクされ、思わず情けない声が出てしまう。
そんな朋香に尚恭はおかしそうにくすくすと笑っている。
「まあ、そう気負わずに。
別に、難しいことはなにもないですから」
「……はい」
尚恭は嬉しくてたまらないという風ににこにこと笑っている。
きっと、いつもひとりだろうから、にぎやかな食事が嬉しいのだろうと、このときは思っていた。
食事が終わるとリビングに移動して、尚恭はゆったりとブランデーを傾け始めた。
侑岐の前には赤ワイン。
朋香も勧められて戸惑っていると、ホットワインを用意してくれた。
「その。
……家に帰ってはダメですか?」
本邸にいる必要がないのなら、家に帰りたい。
少しでも、尚一郎の気配を感じられる場所にいたい。
それが、朋香の正直な気持ちだった。
「申し訳ありませんが、それは許可できません。
もちろん、ご実家も同じです」
険しい顔で尚恭から返されて、思わずホットワインのカップを握る手に力が入る。
「帰りたい気持ちは重々承知の上ですが、これだけはどうしても許可できません。
その代わり、欲しいものがあれば尚一郎の屋敷から運ばせますので」
「……わかり、ました」
申し訳なさそうな尚恭になにか事情があるのだろうと察し、これ以上わがままは云えなかった。
その代わり。
「その。
……しょ、尚一郎さんの枕が欲しいです」
正直に云ったものの、顔が火を噴きそうなほど熱い。
「尚一郎の枕ですか?
ご自分のではなく?」
「……はい。
尚一郎さんの、枕が、欲しい……です」
使用人が毎日カバーを替えるし、枕自体も手入れされているので、尚一郎の残り香などないのはわかっている。
それでも、なにか尚一郎の代わりになるものが欲しかった。
「朋香ってほんとに可愛いわ!」
「ぐえっ」
赤い顔で俯いた朋香に、飲んだホットワインが噴水にように出そうな勢いで侑岐が思いっきり抱きついてくる。
「やっぱり尚一郎に渡したくなーい」
「ゆ、侑岐さん!
や、やめてください!」
顔中に侑岐から口付けを落とされて途方に暮れる朋香に、尚恭がおかしそうにくすくすと笑っていた。
「あの。
……私は本邸に、戻らなくていいんでしょうか?」
ずっと気になっていた。
尚一郎の出張中、朋香の身分は本邸預かり。
なのに、昨日あんなことがあったとはいえ、尚恭の屋敷でのんびりしてていいのかと。
「朋香さんは昨日あんな経験をされて、それでも本邸に戻りたいと?」
まるで珍しいものでも見るかのように尚恭の、眼鏡の奥の目がぱちくりと一回、大きく瞬きした。
「戻りたくはないですけど。
でも、それが私に命じられたことだったので……」
結局、逃げ出したようになってしまったのは、腹立たしくもある。
いまごろ、自子など喜んでいるのではないかと思うと特に。
「朋香ってほんとにけなげだわ。
尚一郎の嫁にしておくのがもったいないくらい」
「確かに。
私がもう十ほど若ければ、放っておかないのに」
「え、えーっと……」
ふたりにうんうんと頷かれても困る。
「もうあそこに戻る必要はないですよ。
朋香さんには月曜から、私の秘書として働いていただく予定ですから」
「はい?」
にっこりと笑った尚恭が、なにを云っているのかわからない。
自分に、尚恭の秘書をしろと?
「でも私、秘書経験なんてないですし。
そんな」
「なにをおっしゃいますか。
尚一郎と結婚する前は、お父様の会社で社長秘書をされていたのでしょう?
仕事に差異はありません」
「うっ」
そこをつかれると困るが、しがない町工場社長の秘書と大会社社長の秘書では違う。
そもそも、自分がやっていたのは秘書のまねごとだったのだから。
「大丈夫よ、朋香。
あなただったらきっと、立派な秘書としてやっていけるわ」
「侑岐さーん」
ぱちんと侑岐にウィンクされ、思わず情けない声が出てしまう。
そんな朋香に尚恭はおかしそうにくすくすと笑っている。
「まあ、そう気負わずに。
別に、難しいことはなにもないですから」
「……はい」
尚恭は嬉しくてたまらないという風ににこにこと笑っている。
きっと、いつもひとりだろうから、にぎやかな食事が嬉しいのだろうと、このときは思っていた。
食事が終わるとリビングに移動して、尚恭はゆったりとブランデーを傾け始めた。
侑岐の前には赤ワイン。
朋香も勧められて戸惑っていると、ホットワインを用意してくれた。
「その。
……家に帰ってはダメですか?」
本邸にいる必要がないのなら、家に帰りたい。
少しでも、尚一郎の気配を感じられる場所にいたい。
それが、朋香の正直な気持ちだった。
「申し訳ありませんが、それは許可できません。
もちろん、ご実家も同じです」
険しい顔で尚恭から返されて、思わずホットワインのカップを握る手に力が入る。
「帰りたい気持ちは重々承知の上ですが、これだけはどうしても許可できません。
その代わり、欲しいものがあれば尚一郎の屋敷から運ばせますので」
「……わかり、ました」
申し訳なさそうな尚恭になにか事情があるのだろうと察し、これ以上わがままは云えなかった。
その代わり。
「その。
……しょ、尚一郎さんの枕が欲しいです」
正直に云ったものの、顔が火を噴きそうなほど熱い。
「尚一郎の枕ですか?
ご自分のではなく?」
「……はい。
尚一郎さんの、枕が、欲しい……です」
使用人が毎日カバーを替えるし、枕自体も手入れされているので、尚一郎の残り香などないのはわかっている。
それでも、なにか尚一郎の代わりになるものが欲しかった。
「朋香ってほんとに可愛いわ!」
「ぐえっ」
赤い顔で俯いた朋香に、飲んだホットワインが噴水にように出そうな勢いで侑岐が思いっきり抱きついてくる。
「やっぱり尚一郎に渡したくなーい」
「ゆ、侑岐さん!
や、やめてください!」
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