契約書は婚姻届

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

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第15話 社長秘書

7.守れなくて……ごめん

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ちゅっ、ちゅっ、何度も何度も、尚一郎から口付けを落とされながら過ごす時間は、たまらなく心地よくて、ずっとこうしていたい気さえする。

「そういえば尚一郎さん、お祖父さんに贈り物って、なにを贈ったんですか?」

尚恭の口振りからいって、達之助が激怒したことは想像に難くない。

「あー、えっと、……内緒だよ」

きょときょとと尚一郎の視線が泳ぐ。
きっとまた、とんでもないものを贈ったに違いない。

「しょーいちろーさーん」

「ひぃっ」

地獄から響くような朋香の声に、びくりと尚一郎の背中が震えた。

「なにを贈ったんですか?」

完全に怒っているのに笑っている朋香に、尚一郎はますます怯えてベッドの隅で丸くなり、びくびくと身体を振るわせる。

「怒るから、云わないよ」

「しょーいちろーさん?」

朋香の口元がぴくぴくとひきつる。
情けないことに尚一郎の目には、うっすらと涙が浮かんでいた。

「ひぃっ。
云うから!
云うから、怒らないで!
……最高級ラブドール、だよ」

「もう二度と、怒らせるようなことはしないって約束しましたよね!」

「ひぃっ」

朋香の怒鳴り声に、尚一郎はがたがたと震えている。
そんな姿に、はぁっと朋香の口から小さくため息が漏れた。

「理由は聞かなくてもだいたい想像できますが。
ああいう人は相手にしないのが一番だって云いましたよね?
どうして挑発するようなことするんですか」

「だって、僕の大事な朋香を傷つけたんだよ?
それなりに仕返ししなきゃ気が済まない」

こわごわと朋香の手を掴んだ尚一郎の手はかたかたと細かく震えていた。
そのままそっと抱き寄せられたかと思ったら、痛いくらいに抱きしめられた。

「ごめん、朋香。
守れなくて。
本当にごめんね」

泣き出しそうな声に、不安そうに震える身体に、胸がぎゅっと締め付けられた。

きっと尚一郎はずっと、朋香をひとり、残してきたことを後悔していたに違いない。

そう気付くとたまらなくなって、尚一郎を暖めるように朋香の方からも抱きついた。

「ごめんなさい。
大丈夫だって云っておきながら、こんなに心配させて。
私がもっと強かったらよかったのに」

「朋香はいまのままで十分だよ。
僕の方こそ、ごめんね」

「尚一郎さん……」

そっと、尚一郎の目尻に光る涙を拭うと目が細く、緩いアーチを描く。
ゆっくりと近づいてきた顔に唇がふれ、離れるとふふっと笑われた。

「……もっとKussしたい」

耳元で囁かれた言葉に、熱い顔で頷く。

再び重なった唇。
最初は啄むように感触を楽しんでいたが、そのうちに深く交わった。
どちらからともなく求め合い、室内には甘い吐息が満ちていく。

「朋香……」

熱に浮かされた尚一郎の瞳が朋香を見つめる。

そっと頬にふれ、了承だと自分から再び唇を重ねようとした瞬間。

ぐるるるるーっ、響き渡る、自分の腹の音に、違う意味で顔が熱くなった。

「昨日は夕食が早かったからね。
着替えて近くのカフェに朝食を取りに行こう」

……くすくすと笑う尚一郎に、思わず枕を投げつけた朋香だった。
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