104 / 129
第16話 新婚旅行へゴー!
2.カーテ
しおりを挟む
食事に行くからと待っていた車に案内されたが、メルセデスのリムジンでくらくらした。
「……尚一郎さん。
お義母さんってなにされてる人なんですか?」
「ん?
ホテルの経営だけど。
いま僕たちが滞在してるホテルもだし、世界各地にいろいろと。
最近は古城ビジネスにも手を出してるみたいだけど」
そっと袖を引いて聞いてきた朋香に、尚一郎が苦笑いを浮かべる。
「……そうなんですね」
女性でもバリバリ働いているカーテが眩しく思えた。
そういえば侑岐だって、自分の会社を経営している。
なにもせずにただ、尚一郎に養われているだけの自分に朋香は劣等感を抱いていた。
「朋香?」
「なんでもないです」
心配そうに尚一郎が顔をのぞき込むので、精一杯笑顔を作って俯きかけた顔を上げる。
日本に帰ったら自分にできることをなにか探そう。
侑岐に相談してみてもいい。
そんなことを考えると、少し楽しみになってきた。
車は気が付けば、郊外を走っていた。
どんどん家がまばらになっていく。
「母さん?
どこまで行く気ですか」
「着くまで秘密よ」
向かい合って座るカーテがぱちんとウィンクすると、尚一郎の口から大きなため息が落ちた。
「僕たちにも予定があるんですよ」
「いいじゃない、二十年ぶりくらいの再会なんだから。
少しくらい付き合いなさいよ。
……朋香、飲み物はいかが?」
「いただきます」
備え付けの冷蔵庫からスパークリングワインを出すと、カーテはグラスに注いで渡してくれた。
受け取りながらさっき、カーテの言葉が引っかかっていた。
聞き間違いでなければ、二十年ぶりと云っていたような。
「尚一郎さん、いま……」
「……僕はね、十五のときに日本に渡ってから、一度もドイツに帰ってないんだよ」
困ったように笑う尚一郎に、先ほどからの違和感の正体がわかった気がする。
久しぶりの親子の対面とはいえ、酷くぎこちないように思えていた。
二十年も会っていなければ、それはそうだろう。
「尚恭はヨーロッパ出張の度に寄ってくれるのに、尚一郎は一度も寄ってくれないのよ。
こんな薄情な息子に育てた覚えはないんだけど」
「……母さん」
決まり悪そうに笑う尚一郎はどうも、カーテには勝てないらしい。
その後もカーテは幼い頃の尚一郎の話など語り続けた。
朋香の目から見て完璧で怖いものなどないような尚一郎だが、小さい頃はお化けが怖く、夜のトイレは必ず付いてきてもらっていたなど、新鮮で仕方ない。
気付けば車は、田舎町に入っていた。
「……ライン川下りでもしようっていうんですか」
尚一郎の視線が冷たい。
そういえばずいぶん長いこと、車に乗っていた気がする。
「それもいいけど、今日はいいわ。
それよりおなかぺこぺこ!
お昼にしましょう」
……はぁーっ。
にっこりと笑うカーテに、尚一郎の口から大きなため息が落ちた。
ホテルに着くと支配人に出迎えられた。
どうも、カーテが経営するホテルらしい。
食事はドイツ料理だったが、家でも時々出ていただけにかえって懐かしい感じがした。
「今日はここに泊まってちょうだい。
明日の予定はちゃんと立ててあるから」
ナプキンで口元を拭い、さもそれが当然とでもいうように笑うカーテを、じろりと尚一郎が睨む。
「用がすんだのならおいとましますよ。
僕たちはホテルを取ってありますので」
「心配しなくていいわ。
尚恭に頼んで全部、キャンセルしてもらったから」
「Was!?(なんだって!?)」
わずかに腰を浮かせた尚一郎だったが、あたまを抱えて座り直した。
「……だから母さんに関わるのは嫌なんだ」
……尚一郎が二十年、カーテに会わなかった理由が見えた気がした。
「……尚一郎さん。
お義母さんってなにされてる人なんですか?」
「ん?
ホテルの経営だけど。
いま僕たちが滞在してるホテルもだし、世界各地にいろいろと。
最近は古城ビジネスにも手を出してるみたいだけど」
そっと袖を引いて聞いてきた朋香に、尚一郎が苦笑いを浮かべる。
「……そうなんですね」
女性でもバリバリ働いているカーテが眩しく思えた。
そういえば侑岐だって、自分の会社を経営している。
なにもせずにただ、尚一郎に養われているだけの自分に朋香は劣等感を抱いていた。
「朋香?」
「なんでもないです」
心配そうに尚一郎が顔をのぞき込むので、精一杯笑顔を作って俯きかけた顔を上げる。
日本に帰ったら自分にできることをなにか探そう。
侑岐に相談してみてもいい。
そんなことを考えると、少し楽しみになってきた。
車は気が付けば、郊外を走っていた。
どんどん家がまばらになっていく。
「母さん?
どこまで行く気ですか」
「着くまで秘密よ」
向かい合って座るカーテがぱちんとウィンクすると、尚一郎の口から大きなため息が落ちた。
「僕たちにも予定があるんですよ」
「いいじゃない、二十年ぶりくらいの再会なんだから。
少しくらい付き合いなさいよ。
……朋香、飲み物はいかが?」
「いただきます」
備え付けの冷蔵庫からスパークリングワインを出すと、カーテはグラスに注いで渡してくれた。
受け取りながらさっき、カーテの言葉が引っかかっていた。
聞き間違いでなければ、二十年ぶりと云っていたような。
「尚一郎さん、いま……」
「……僕はね、十五のときに日本に渡ってから、一度もドイツに帰ってないんだよ」
困ったように笑う尚一郎に、先ほどからの違和感の正体がわかった気がする。
久しぶりの親子の対面とはいえ、酷くぎこちないように思えていた。
二十年も会っていなければ、それはそうだろう。
「尚恭はヨーロッパ出張の度に寄ってくれるのに、尚一郎は一度も寄ってくれないのよ。
こんな薄情な息子に育てた覚えはないんだけど」
「……母さん」
決まり悪そうに笑う尚一郎はどうも、カーテには勝てないらしい。
その後もカーテは幼い頃の尚一郎の話など語り続けた。
朋香の目から見て完璧で怖いものなどないような尚一郎だが、小さい頃はお化けが怖く、夜のトイレは必ず付いてきてもらっていたなど、新鮮で仕方ない。
気付けば車は、田舎町に入っていた。
「……ライン川下りでもしようっていうんですか」
尚一郎の視線が冷たい。
そういえばずいぶん長いこと、車に乗っていた気がする。
「それもいいけど、今日はいいわ。
それよりおなかぺこぺこ!
お昼にしましょう」
……はぁーっ。
にっこりと笑うカーテに、尚一郎の口から大きなため息が落ちた。
ホテルに着くと支配人に出迎えられた。
どうも、カーテが経営するホテルらしい。
食事はドイツ料理だったが、家でも時々出ていただけにかえって懐かしい感じがした。
「今日はここに泊まってちょうだい。
明日の予定はちゃんと立ててあるから」
ナプキンで口元を拭い、さもそれが当然とでもいうように笑うカーテを、じろりと尚一郎が睨む。
「用がすんだのならおいとましますよ。
僕たちはホテルを取ってありますので」
「心配しなくていいわ。
尚恭に頼んで全部、キャンセルしてもらったから」
「Was!?(なんだって!?)」
わずかに腰を浮かせた尚一郎だったが、あたまを抱えて座り直した。
「……だから母さんに関わるのは嫌なんだ」
……尚一郎が二十年、カーテに会わなかった理由が見えた気がした。
1
あなたにおすすめの小説
あまやかしても、いいですか?
藤川巴/智江千佳子
恋愛
結婚相手は会社の王子様。
「俺ね、ダメなんだ」
「あーもう、キスしたい」
「それこそだめです」
甘々(しすぎる)男子×冷静(に見えるだけ)女子の
契約結婚生活とはこれいかに。
わたしの愉快な旦那さん
川上桃園
恋愛
あまりの辛さにブラックすぎるバイトをやめた。最後塩まかれたけど気にしない。
あ、そういえばこの店入ったことなかったな、入ってみよう。
「何かお探しですか」
その店はなんでも取り扱うという。噂によると彼氏も紹介してくれるらしい。でもそんなのいらない。彼氏だったらすぐに離れてしまうかもしれないのだから。
店員のお兄さんを前にてんぱった私は。
「旦那さんが欲しいです……」
と、斜め上の回答をしてしまった。でもお兄さんは優しい。
「どんな旦那さんをお望みですか」
「え、えっと……愉快な、旦那さん?」
そしてお兄さんは自分を指差した。
「僕が、お客様のお探しの『愉快な旦那さん』ですよ」
そこから始まる恋のお話です。大学生女子と社会人男子(御曹司)。ほのぼのとした日常恋愛もの
思い出のチョコレートエッグ
ライヒェル
恋愛
失恋傷心旅行に出た花音は、思い出の地、オランダでの出会いをきっかけに、ワーキングホリデー制度を利用し、ドイツの首都、ベルリンに1年限定で住むことを決意する。
慣れない海外生活に戸惑い、異国ならではの苦労もするが、やがて、日々の生活がリズムに乗り始めたころ、とてつもなく魅力的な男性と出会う。
秘密の多い彼との恋愛、彼を取り巻く複雑な人間関係、初めて経験するセレブの世界。
主人公、花音の人生パズルが、紆余曲折を経て、ついに最後のピースがぴったりはまり完成するまでを追う、胸キュン&溺愛系ラブストーリーです。
* ドイツ在住の作者がお届けする、ヨーロッパを舞台にした、喜怒哀楽満載のラブストーリー。
* 外国での生活や、外国人との恋愛の様子をリアルに感じて、主人公の日々を間近に見ているような気分になれる内容となっています。
* 実在する場所と人物を一部モデルにした、リアリティ感の溢れる長編小説です。
灰かぶりの姉
吉野 那生
恋愛
父の死後、母が連れてきたのは優しそうな男性と可愛い女の子だった。
「今日からあなたのお父さんと妹だよ」
そう言われたあの日から…。
* * *
『ソツのない彼氏とスキのない彼女』のスピンオフ。
国枝 那月×野口 航平の過去編です。
あなたと恋に落ちるまで~御曹司は、一途に私に恋をする~
けいこ
恋愛
カフェも併設されたオシャレなパン屋で働く私は、大好きなパンに囲まれて幸せな日々を送っていた。
ただ…
トラウマを抱え、恋愛が上手く出来ない私。
誰かを好きになりたいのに傷つくのが怖いって言う恋愛こじらせ女子。
いや…もう女子と言える年齢ではない。
キラキラドキドキした恋愛はしたい…
結婚もしなきゃいけないと…思ってはいる25歳。
最近、パン屋に来てくれるようになったスーツ姿のイケメン過ぎる男性。
彼が百貨店などを幅広く経営する榊グループの社長で御曹司とわかり、店のみんなが騒ぎ出して…
そんな人が、
『「杏」のパンを、時々会社に配達してもらいたい』
だなんて、私を指名してくれて…
そして…
スーパーで買ったイチゴを落としてしまったバカな私を、必死に走って追いかけ、届けてくれた20歳の可愛い系イケメン君には、
『今度、一緒にテーマパーク行って下さい。この…メロンパンと塩パンとカフェオレのお礼したいから』
って、誘われた…
いったい私に何が起こっているの?
パン屋に出入りする同年齢の爽やかイケメン、パン屋の明るい美人店長、バイトの可愛い女の子…
たくさんの個性溢れる人々に関わる中で、私の平凡過ぎる毎日が変わっていくのがわかる。
誰かを思いっきり好きになって…
甘えてみても…いいですか?
※after story別作品で公開中(同じタイトル)
俺を信じろ〜財閥俺様御曹司とのニューヨークでの熱い夜
ラヴ KAZU
恋愛
二年間付き合った恋人に振られた亜紀は傷心旅行でニューヨークへ旅立つ。
そこで東條ホールディングス社長東條理樹にはじめてを捧げてしまう。結婚を約束するも日本に戻ると連絡を貰えず、会社へ乗り込むも、
理樹は亜紀の父親の会社を倒産に追い込んだ東條財閥東條理三郎の息子だった。
しかも理樹には婚約者がいたのである。
全てを捧げた相手の真実を知り翻弄される亜紀。
二人は結婚出来るのであろうか。
10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました
専業プウタ
恋愛
25歳の桜田未来は中学生から10年以上引きこもりだったが、2人暮らしの母親の死により外に出なくてはならなくなる。城ヶ崎冬馬は女遊びの激しい大手アパレルブランドの副社長。彼をストーカーから身を張って助けた事で未来は一時的に記憶喪失に陥る。冬馬はちょっとした興味から、未来は自分の恋人だったと偽る。冬馬は未来の純粋さと直向きさに惹かれていき、嘘が明らかになる日を恐れながらも未来の為に自分を変えていく。そして、未来は恐れもなくし、愛する人の胸に飛び込み夢を叶える扉を自ら開くのだった。
溺愛ダーリンと逆シークレットベビー
吉野葉月
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。
立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。
優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる