契約書は婚姻届

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

文字の大きさ
114 / 129
第17話 ごっこ遊び

3.違和感

しおりを挟む
少し眠ってお昼前に目を覚まし、明夫に電話を入れる。

「もしもし、お父さん?
今日、おみやげ持って工場に寄ろうと思うんだけどいいかな?」

『工場に?
いや、その、……あのな?』

「なにかあったの?」

久しぶりに話す明夫は歯切れが悪く、悪いことでもあったんじゃないかと不安になる。

『いや、……わかった。
待ってる』

「うん。
お昼過ぎには着くと思う」

入院中、そして今朝の尚一郎。
さらには明夫の様子に、自分の知らないところでなにか起こってるんじゃないかと胸騒ぎがする。

結局、ブランチもそこそこに家を出た。

工場に着くと、まるで見張るように数人の人間がたむろっていて、なにかあったのかとますます不安になる。

しかし、自分はなにも聞いてない。

「こんにちはー」

「あんたよく、平気で顔を出せるな!」

事務所に顔を出したとたん、すごい剣幕で西井に罵られ、固まった。

「オシベのせいでいま、うちがどうなってるのかわかってるのか!?」

「え……」

みるみるうちに血の気が引いていく。
西井はまだなにか云っているが、よく聞き取れない。
呆然と立ち尽くしていると、騒ぎを聞きつけた明夫が社長室から出てきた。

「朋香、とりあえずこっちに来なさい」

「お父さん……」

「早く」

社長室に向かう朋香を西井が睨みつけている。
ほかの社員も視線を合わせないように俯いていた。

「やっぱり、なにも知らないのか」

「……どういう、こと?
帰ってきてからずっと、入院してたから……」

勧められてソファーに腰を下ろすと、明夫に週刊誌を差し出された。
ページをめくっていくにつれて嫌な汗が出て心臓がばくばくと早く鼓動する。

【人工心臓で死亡事故!
基準に満たない部品を使用?】

【データ偽装!
若園製作所の闇】

【我々は騙されていた。
オシベは被害者?】

「これって……」

「うちは誠実を売りにやっている。
全部、でっち上げだ」

明夫の顔には疲労が濃く浮き上がり、しばらく見ないあいだに随分やつれている。

「……そう、だよね」

……きっと、達之助の仕業に決まっている。

自分の相手を拒み、勝手に尚一郎の元へ行った朋香への制裁以外に考えられない。

「なんで連絡してくれなかったの?」

尚一郎に頼めば打つ手はあったはずなのだ。
それに、尚一郎は明夫や工場だって守ると約束してくれた。

「朋香には一度、助けられた。
二度も助けてもらうのは申し訳ない」

「そんな……」

水くさいと思う。
親子なのだ、頼って欲しい。

「それに、これだけ騒ぎになっているのに朋香からなんの連絡もないから、おかしいとは思っていた」

「……いつから」

「もう二週間くらいになる」

……もしかして、尚一郎さんは隠してた?

面会謝絶で世間から隔離し、朋香にこの騒ぎを知られないようにしていたんじゃないだろうか。
ずるずると入院期間を延ばしてたのも、落ち着くの待っていたのでは。

「とにかく、尚一郎さんに連絡してみる」

バッグから携帯を出し尚一郎にかけてみるが繋がらない。
犬飼にかけてみるが、こちらも。

「オシベからは契約打ち切りと融資の即時返済、それに損害賠償の通達が来ている」

「そんなの、嘘……」

いくら達之助がそんなことを決めても、尚一郎が簡単に許してしまうはずがない。

「うちは尚一郎君に見捨てられたんだ」

絶望する明夫に、なんと言っていいのかわからなかった。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

ホストと女医は診察室で

星野しずく
恋愛
町田慶子は開業したばかりのクリニックで忙しい毎日を送っていた。ある日クリニックに招かれざる客、歌舞伎町のホスト、聖夜が後輩の真也に連れられてやってきた。聖夜の強引な誘いを断れず、慶子は初めてホストクラブを訪れる。しかし、その日の夜、慶子が目覚めたのは…、なぜか聖夜と二人きりのホテルの一室だった…。

あまやかしても、いいですか?

藤川巴/智江千佳子
恋愛
結婚相手は会社の王子様。 「俺ね、ダメなんだ」 「あーもう、キスしたい」 「それこそだめです」  甘々(しすぎる)男子×冷静(に見えるだけ)女子の 契約結婚生活とはこれいかに。

ストーカーに狙われたので歳上騎士様に護衛をお願いしました。

ねーさん
恋愛
 「氷の彫刻」と呼ばれる美貌の兄を持つ公爵令嬢のクラリッサは不審な視線に悩まされていた。  卒業を二日後に控えた朝、教室のクラリッサの机に置かれた一通の偏執狂者からの手紙。  親友イブを通じてイブの婚約者、近衛騎士団第四分団員のジョーンズに相談すると、第四分団長ネイトがクラリッサのパートナーとして卒業パーティーに出席してくれる事になって─── 〈注〉 このお話は「婚約者が記憶喪失になりました。」と「元騎士の歳上公爵様がまさかの××でした!?」の続編になります。

【完結】もう一度やり直したいんです〜すれ違い契約夫婦は異国で再スタートする〜

四片霞彩
恋愛
「貴女の残りの命を私に下さい。貴女の命を有益に使います」 度重なる上司からのパワーハラスメントに耐え切れなくなった日向小春(ひなたこはる)が橋の上から身投げしようとした時、止めてくれたのは弁護士の若佐楓(わかさかえで)だった。 事情を知った楓に会社を訴えるように勧められるが、裁判費用が無い事を理由に小春は裁判を断り、再び身を投げようとする。 しかし追いかけてきた楓に再度止められると、裁判を無償で引き受ける条件として、契約結婚を提案されたのだった。 楓は所属している事務所の所長から、孫娘との結婚を勧められて困っており、 それを断る為にも、一時的に結婚してくれる相手が必要であった。 その代わり、もし小春が相手役を引き受けてくれるなら、裁判に必要な費用を貰わずに、無償で引き受けるとも。 ただ死ぬくらいなら、最後くらい、誰かの役に立ってから死のうと考えた小春は、楓と契約結婚をする事になったのだった。 その後、楓の結婚は回避するが、小春が会社を訴えた裁判は敗訴し、退職を余儀なくされた。 敗訴した事をきっかけに、裁判を引き受けてくれた楓との仲がすれ違うようになり、やがて国際弁護士になる為、楓は一人でニューヨークに旅立ったのだった。 それから、3年が経ったある日。 日本にいた小春の元に、突然楓から離婚届が送られてくる。 「私は若佐先生の事を何も知らない」 このまま離婚していいのか悩んだ小春は、荷物をまとめると、ニューヨーク行きの飛行機に乗る。 目的を果たした後も、契約結婚を解消しなかった楓の真意を知る為にもーー。 ❄︎ ※他サイトにも掲載しています。

財閥御曹司は左遷された彼女を秘めた愛で取り戻す

花里 美佐
恋愛
榊原財閥に勤める香月菜々は日傘専務の秘書をしていた。 専務は御曹司の元上司。 その専務が社内政争に巻き込まれ退任。 菜々は同じ秘書の彼氏にもフラれてしまう。 居場所がなくなった彼女は退職を希望したが 支社への転勤(左遷)を命じられてしまう。 ところが、ようやく落ち着いた彼女の元に 海外にいたはずの御曹司が現れて?!

雨の日にやさぐれお姉さんを拾ったと思ったら胃袋も心も掴んでくるスーパーお姉さんだった

九戸政景
恋愛
新人小説家の由利美音は、ある日の夜に一人の女性を拾う。太刀川凛莉と名乗る女性との共同生活が始まる中、様々な出会いを果たしながら美音は自身の過去とも向き合っていく。

夜の帝王の一途な愛

ラヴ KAZU
恋愛
彼氏ナシ・子供ナシ・仕事ナシ……、ないない尽くしで人生に焦りを感じているアラフォー女性の前に、ある日突然、白馬の王子様が現れた! ピュアな主人公が待ちに待った〝白馬の王子様"の正体は、若くしてホストクラブを経営するカリスマNO.1ホスト。「俺と一緒に暮らさないか」突然のプロポーズと思いきや、契約結婚の申し出だった。 ところが、イケメンホスト麻生凌はたっぷりの愛情を濯ぐ。 翻弄される結城あゆみ。 そんな凌には誰にも言えない秘密があった。 あゆみの運命は……

結婚結婚煩いので、愛人持ちの幼馴染と偽装結婚してみた

夏菜しの
恋愛
 幼馴染のルーカスの態度は、年頃になっても相変わらず気安い。  彼のその変わらぬ態度のお陰で、周りから男女の仲だと勘違いされて、公爵令嬢エーデルトラウトの相手はなかなか決まらない。  そんな現状をヤキモキしているというのに、ルーカスの方は素知らぬ顔。  彼は思いのままに平民の娘と恋人関係を持っていた。  いっそそのまま結婚してくれれば、噂は間違いだったと知れるのに、あちらもやっぱり公爵家で、平民との結婚など許さんと反対されていた。  のらりくらりと躱すがもう限界。  いよいよ親が煩くなってきたころ、ルーカスがやってきて『偽装結婚しないか?』と提案された。  彼の愛人を黙認する代わりに、贅沢と自由が得られる。  これで煩く言われないとすると、悪くない提案じゃない?  エーデルトラウトは軽い気持ちでその提案に乗った。

処理中です...