契約書は婚姻届

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

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第18話 誰のための復讐?

6.幸せになる権利

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帰りの車の中で、侑岐は昔の尚一郎の話をしてくれた。

「万理奈があんな風になってから、私が尚一郎の恋人のフリをしていた話はしたわよね」

「はい」

あのときは 誤魔化されてしまったがいまならわかる。
きっと、できるだけ人を遠ざけて、好きになられたくなかったから。
そうすることで被害者を増やしたくなったから。

「おかげで私はいま、メグと幸せに暮らしてる。
尚一郎もいい加減、万理奈を忘れて幸せになりなさい、って一度、云ってやったの」

「はい」

「そしたら尚一郎、
『僕には幸せになる権利がないんだよ』
って笑ってた」

どういう意味なのか気になった。
はじめから自分と結婚して、幸せになる気はなかったのだろうか。

「だから、朋香と結婚したって聞いたときは驚いたわ。
それに、あんなに幸せそうに笑う尚一郎は見たことがない。
絶対に別れないって意地を通す尚一郎が嬉しかったの」

「……」

侑岐に別れろと迫られたあのとき、尚一郎はどんな気持ちだったのだろう。
朋香に自分の気持ちを証明するために、朋香以外の人間とは絶対に結婚しない、朋香との結婚を認めてもらえるのなら相続の一切を放棄するとの書類まで作ってサインしたのだ。

――書類は尚恭預かりで有効にはなってないが。

「だから、尚一郎が幸せになる気になったんだって、喜んでたのに……」

「侑岐さん……」

悲しそうに目を伏せた侑岐に、朋香も俯いてぎゅっと手を握りしめた。

……尚一郎さんと会って、直接気持ちを確かめたい。

けれどもう、朋香にその権利はない。


食事をして帰ろうと、鉄板焼きのお店に連れて行ってくれた。
個室に案内されたとたん、朋香の足が止まる。

「お久しぶりです」

――そこで待っていたのは、尚一郎の秘書の犬飼だった。

「今日は朋香さんに頼みがあってきました」

落ち着かなくて食前酒のシャンパンを口に運ぶが、ちっとも酔えない。
朋香の方だって聞きたいことはたくさんあるのだ。
けれど、口にしていいのか悩む。

「朋香さんの怒りはもっともです。
尚一郎もあえて、弁明する気はないのだと思います。
でも、俺の話を聞いてください」

戸惑って侑岐の顔を見るが、静かにグラスを傾けるだけでなにも云わない。
一度、静かに深呼吸した朋香が促すように小さく頷くと、犬飼は話をはじめた。
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