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最終話 契約書は婚姻届
3.和解条件
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若園製作所はまだ、和解か徹底抗戦かで揉めていた。
「ほかの会社もいくつか、訴訟の準備を始めてる。
それに、元CEOは逮捕されたじゃないか!
徹底的に争うべきじゃないのか?」
「でもなー。
悪いのは元CEOで尚一郎社長は一度、うちを助けてくれたしなー」
「あれだって元々は、オシベが契約打ち切りを云ってきたからじゃないか!
それに、朋香さんと結婚が条件とか、無理難題云ってきやがって!」
そうだそうだと皆が頷いた。
あのときはむちゃくちゃな条件だと思ったがあとで、尚一郎が朋香に惚れてのことと聞かされると、少し嬉しくもあった。
それに、達之助から制裁を受けるのがわかっていながら、それでも尚一郎は自分と結婚したのだ。
そこまでしたのに、自分は幸せになる権利がないのだと簡単に朋香を手放す尚一郎に腹が立つ。
「あの!」
手を挙げた朋香に、全員の視線が集中した。
「こんな我が儘が許されるとは思いません。
それで、工場の今後が左右するんですから。
でも、和解の件、私の好きにさせてもらえないでしょうか」
シーンと静まりかえったあと、一拍置いてみんな我に返ったのか、ざわざわとし出す。
そのなかで代表するかのように明夫が手を挙げた。
「朋香はどうしたいんだ?」
「それは……」
朋香の次の言葉を待って全員がごくりとつばを飲み込む。
一度深呼吸すると、朋香は改めて口を開いた。
「和解を受け入れるのに、条件を付けたいの。
その条件の内容はいまはまだ云えないけど。
でも、私は……尚一郎さんを試したい」
「そんなことできるか!」
「徹底抗戦だ!」
「でも朋香さんには恩があるし……」
再びざわめく室内に、やはり受け入れられないのかと軽く落胆した。
きっと無理だろうとはわかっていたが、それでもやはり。
「まあまあ」
なだめる明夫の声にざわめきが止まる。
「ここは朋香に、任せてもらえないだろうか。
親莫迦で申し訳ないが、娘の望むことは叶えてやりたい。
それに、朋香には二度も工場を救われた。
あのとき、朋香がオシベ会長と結婚してくれたから、契約は続行され、融資も受けられた。
今回だって朋香のおかげで丸尾弁護士を雇えたんだ。
今度は我々が、朋香のためになにかする番じゃないだろうか」
「お父さん……」
明夫の気持ちが嬉しい。
個人的な事情を持ち出した朋香を援護してくれるなんて思わなかった。
「まあ、どっちに転んでも悪い結果じゃないですからね。
任せてもいいですが、条件はやはり、話してもらわないと」
徹底抗戦派の西井が、照れくさそうにポリポリと頬を掻きながら立ち上がる。
朋香としては人に云うのは酷く恥ずかしい条件なので、当日まで秘密にしておきたいが、やはりそうはいかないだろう。
「その。
……私との再婚が条件、です」
「はぁーっ!?」
一気にまた、室内がざわつき出す。
「朋香さん、この離婚で懲りてないんですか?」
「オシベの野郎と再婚したって幸せになれないですよ、それなら俺が」
「おまえなんかと結婚して幸せになれるか!
それより僕と」
「朋香ちゃん、騙されてない?」
口々に好き勝手云う職員たちに苦笑いしかできない。
「あの。
私、尚一郎さんにとても、とても、とても愛されてたんです。
だからきっと、これは尚一郎さんが望んだ離婚じゃないと思うから。
それに私は、尚一郎さんを絶対に幸せにするって誓った……から……」
「朋香……」
「朋香さん……」
「朋香ちゃん……」
最後の方は鼻声になっていて情けなくなる。
まだまだ、戦わなければいけないのだ。
こんなところで弱気になっていてはいけない。
「だから、もう一度結婚して、尚一郎さんを今度は私が幸せにするんです。
だからご協力、お願いします!」
努めて明るく振る舞うと、拍手が起きた。
「ありがとうございます」
自分の我が儘を聞いてくれる工場のみんなに、尚一郎じゃないが潰すことにならなくて本当によかったと思う。
「ほかの会社もいくつか、訴訟の準備を始めてる。
それに、元CEOは逮捕されたじゃないか!
徹底的に争うべきじゃないのか?」
「でもなー。
悪いのは元CEOで尚一郎社長は一度、うちを助けてくれたしなー」
「あれだって元々は、オシベが契約打ち切りを云ってきたからじゃないか!
それに、朋香さんと結婚が条件とか、無理難題云ってきやがって!」
そうだそうだと皆が頷いた。
あのときはむちゃくちゃな条件だと思ったがあとで、尚一郎が朋香に惚れてのことと聞かされると、少し嬉しくもあった。
それに、達之助から制裁を受けるのがわかっていながら、それでも尚一郎は自分と結婚したのだ。
そこまでしたのに、自分は幸せになる権利がないのだと簡単に朋香を手放す尚一郎に腹が立つ。
「あの!」
手を挙げた朋香に、全員の視線が集中した。
「こんな我が儘が許されるとは思いません。
それで、工場の今後が左右するんですから。
でも、和解の件、私の好きにさせてもらえないでしょうか」
シーンと静まりかえったあと、一拍置いてみんな我に返ったのか、ざわざわとし出す。
そのなかで代表するかのように明夫が手を挙げた。
「朋香はどうしたいんだ?」
「それは……」
朋香の次の言葉を待って全員がごくりとつばを飲み込む。
一度深呼吸すると、朋香は改めて口を開いた。
「和解を受け入れるのに、条件を付けたいの。
その条件の内容はいまはまだ云えないけど。
でも、私は……尚一郎さんを試したい」
「そんなことできるか!」
「徹底抗戦だ!」
「でも朋香さんには恩があるし……」
再びざわめく室内に、やはり受け入れられないのかと軽く落胆した。
きっと無理だろうとはわかっていたが、それでもやはり。
「まあまあ」
なだめる明夫の声にざわめきが止まる。
「ここは朋香に、任せてもらえないだろうか。
親莫迦で申し訳ないが、娘の望むことは叶えてやりたい。
それに、朋香には二度も工場を救われた。
あのとき、朋香がオシベ会長と結婚してくれたから、契約は続行され、融資も受けられた。
今回だって朋香のおかげで丸尾弁護士を雇えたんだ。
今度は我々が、朋香のためになにかする番じゃないだろうか」
「お父さん……」
明夫の気持ちが嬉しい。
個人的な事情を持ち出した朋香を援護してくれるなんて思わなかった。
「まあ、どっちに転んでも悪い結果じゃないですからね。
任せてもいいですが、条件はやはり、話してもらわないと」
徹底抗戦派の西井が、照れくさそうにポリポリと頬を掻きながら立ち上がる。
朋香としては人に云うのは酷く恥ずかしい条件なので、当日まで秘密にしておきたいが、やはりそうはいかないだろう。
「その。
……私との再婚が条件、です」
「はぁーっ!?」
一気にまた、室内がざわつき出す。
「朋香さん、この離婚で懲りてないんですか?」
「オシベの野郎と再婚したって幸せになれないですよ、それなら俺が」
「おまえなんかと結婚して幸せになれるか!
それより僕と」
「朋香ちゃん、騙されてない?」
口々に好き勝手云う職員たちに苦笑いしかできない。
「あの。
私、尚一郎さんにとても、とても、とても愛されてたんです。
だからきっと、これは尚一郎さんが望んだ離婚じゃないと思うから。
それに私は、尚一郎さんを絶対に幸せにするって誓った……から……」
「朋香……」
「朋香さん……」
「朋香ちゃん……」
最後の方は鼻声になっていて情けなくなる。
まだまだ、戦わなければいけないのだ。
こんなところで弱気になっていてはいけない。
「だから、もう一度結婚して、尚一郎さんを今度は私が幸せにするんです。
だからご協力、お願いします!」
努めて明るく振る舞うと、拍手が起きた。
「ありがとうございます」
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