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第3話 ひとりっきりのお城
3.呼び方
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ただの朝食なのにぐったりと疲れて食べ終えると、尚一郎に手を引かれて部屋を移動した。
連れてこられたところはリビングって奴でいいんだと思うが、自分が思うよりはずっと広くてくらくらする。
「朋香」
ソファーに座った尚一郎が、朋香の方に向かって手を広げていた。
意味がわからなくて首を傾げると手を引っ張られ、次の瞬間、膝の上に座らされていた。
「えっ!?
やめてください!」
じたばたと暴れてみたって堪えてない。
それどころか尚一郎は喜んでいる気がする。
「朋香はやっぱり可愛いな」
「……!」
ちゅっ、額にふれた唇に尚一郎を睨むが、効果がないどころか、眼鏡の奥と視線が合うと、眩しそうに目を細める。
改めて近くで見ると、宝石みたいできれいな瞳だと思った。
「その、……押部社長のご家族は?」
暴れるのは無駄なようだし、疲れることはあまりしたくない。
仕方ないのであきらめることにして、気になっていたことを聞いてみる。
昨晩から尚一郎のほかは、野々村以外の人間とは会っていない。
「Nein、朋香。
押部社長じゃないだろ」
チッチッチッ、目の前で指を振って云われて軽く睨んでしまったが、尚一郎は笑っている。
「……押部、さん」
「Nein」
逃がさないかのように尚一郎は両手で顔を挟んでしまった。
僅かに笑った、レンズの奥の目は、愉しそうに朋香を見ている。
「僕の名前はもう、知っているだろう?」
「……尚一郎、さん」
「Nein」
睨みつけたまま、これも父の工場のためだと割り切って名前で呼んだのに、否定された上に尚一郎は手を離さない。
「尚一郎。
ほら、呼んで」
「尚一郎…………さん」
これはなんの苦行なんだろうか?
好きでもない、しかも年上で、さらには父親の取引先の社長を呼び捨てにしろなんて。
尚一郎は朋香の瞳をじっと見つめてくる。
勝ち気に睨んではいたものの、じわじわと涙が滲んできていた。
しばらく黙っていたかと思ったら、はぁっ、小さくため息をついてそっと親指で朋香の目尻の涙を拭う。
「今はそれで勘弁してあげるよ」
ちゅっ、瞼にふれる唇。
離れると困ったように笑っていた。
「ここに住んでいるのは僕と使用人だけなんだ。
あ、昨日から朋香もだけど」
朋香も、そう云うとき、尚一郎は心底嬉しそうな顔をした。
そっと手が髪にふれ、びくりと身体を揺らしてしまう。
そんな朋香に尚一郎はおかしそうに笑っていた。
「CEOもCOOも本邸。
あ、挨拶とか気にしなくていいよ。
朋香と結婚したことは報告してるし、用があればあっちから呼び出しがくるはずだから。
……第一、僕は呼び出されないとあそこには入れないし」
最後、ぼそりと呟かれた言葉はなんと云ったのか聞き取れなかった。
聞き返そうとしたものの、くるくると指先で朋香の髪を弄んでいた尚一郎から口付けを唇に落とされ、誤魔化されてしまった気がする。
「朋香は僕に可愛がられるためだけにここにいればいい。
……って云いたいところなんだけど。
朋香が嫌な思いをするのは少しでも減らしてあげたいからね。
平日は野々村から、押部の嫁として必要なことを習って」
「はい」
いい子、いい子と、まるで子供みたいにあたまを撫でられてむっとした。
そりゃ、十も年上の尚一郎からしたら、朋香は子供にしか見えないのかもしれないが。
「式は、そのうちふたりだけで挙げよう。
そうだな、新婚旅行も兼ねてヨーロッパの古城でなんてどうだろう」
まるで夢でも語るように、朋香の髪を弄びながら尚一郎は話し続ける。
けれど、朋香にはいろいろ引っかかることばかりだった。
連れてこられたところはリビングって奴でいいんだと思うが、自分が思うよりはずっと広くてくらくらする。
「朋香」
ソファーに座った尚一郎が、朋香の方に向かって手を広げていた。
意味がわからなくて首を傾げると手を引っ張られ、次の瞬間、膝の上に座らされていた。
「えっ!?
やめてください!」
じたばたと暴れてみたって堪えてない。
それどころか尚一郎は喜んでいる気がする。
「朋香はやっぱり可愛いな」
「……!」
ちゅっ、額にふれた唇に尚一郎を睨むが、効果がないどころか、眼鏡の奥と視線が合うと、眩しそうに目を細める。
改めて近くで見ると、宝石みたいできれいな瞳だと思った。
「その、……押部社長のご家族は?」
暴れるのは無駄なようだし、疲れることはあまりしたくない。
仕方ないのであきらめることにして、気になっていたことを聞いてみる。
昨晩から尚一郎のほかは、野々村以外の人間とは会っていない。
「Nein、朋香。
押部社長じゃないだろ」
チッチッチッ、目の前で指を振って云われて軽く睨んでしまったが、尚一郎は笑っている。
「……押部、さん」
「Nein」
逃がさないかのように尚一郎は両手で顔を挟んでしまった。
僅かに笑った、レンズの奥の目は、愉しそうに朋香を見ている。
「僕の名前はもう、知っているだろう?」
「……尚一郎、さん」
「Nein」
睨みつけたまま、これも父の工場のためだと割り切って名前で呼んだのに、否定された上に尚一郎は手を離さない。
「尚一郎。
ほら、呼んで」
「尚一郎…………さん」
これはなんの苦行なんだろうか?
好きでもない、しかも年上で、さらには父親の取引先の社長を呼び捨てにしろなんて。
尚一郎は朋香の瞳をじっと見つめてくる。
勝ち気に睨んではいたものの、じわじわと涙が滲んできていた。
しばらく黙っていたかと思ったら、はぁっ、小さくため息をついてそっと親指で朋香の目尻の涙を拭う。
「今はそれで勘弁してあげるよ」
ちゅっ、瞼にふれる唇。
離れると困ったように笑っていた。
「ここに住んでいるのは僕と使用人だけなんだ。
あ、昨日から朋香もだけど」
朋香も、そう云うとき、尚一郎は心底嬉しそうな顔をした。
そっと手が髪にふれ、びくりと身体を揺らしてしまう。
そんな朋香に尚一郎はおかしそうに笑っていた。
「CEOもCOOも本邸。
あ、挨拶とか気にしなくていいよ。
朋香と結婚したことは報告してるし、用があればあっちから呼び出しがくるはずだから。
……第一、僕は呼び出されないとあそこには入れないし」
最後、ぼそりと呟かれた言葉はなんと云ったのか聞き取れなかった。
聞き返そうとしたものの、くるくると指先で朋香の髪を弄んでいた尚一郎から口付けを唇に落とされ、誤魔化されてしまった気がする。
「朋香は僕に可愛がられるためだけにここにいればいい。
……って云いたいところなんだけど。
朋香が嫌な思いをするのは少しでも減らしてあげたいからね。
平日は野々村から、押部の嫁として必要なことを習って」
「はい」
いい子、いい子と、まるで子供みたいにあたまを撫でられてむっとした。
そりゃ、十も年上の尚一郎からしたら、朋香は子供にしか見えないのかもしれないが。
「式は、そのうちふたりだけで挙げよう。
そうだな、新婚旅行も兼ねてヨーロッパの古城でなんてどうだろう」
まるで夢でも語るように、朋香の髪を弄びながら尚一郎は話し続ける。
けれど、朋香にはいろいろ引っかかることばかりだった。
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