契約書は婚姻届

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

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第4話 義実家って面倒臭い

5.確執

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座敷を出る朋香たちと入れ違いに数人が入ってくる。
振り返ると、介抱される老爺が見えてほっとした。

尚一郎は黙ったまま、朋香の手を掴んで進んでいく。
入ったときと同じ場所から出ると、すでに車が回してあった。
朋香と尚一郎が乗ると、高橋は黙って車を出した。
尚一郎は無言で窓の外を見ている。

「あのー、尚一郎さん?」

「……なに?」

振り返った尚一郎は不機嫌で、先程の冷たい姿が思い出されて、思わず朋香の背中がびくりと震える。

「その、……お祖父さんは大丈夫なんですか?」

おそるおそる窺うと、眼鏡の向こうの目が大きく一回、珍しいものでも見るかのようにぱちくりと瞬きした。

「朋香は自分を侮辱した人間を心配するのかい?」

「確かに腹は立ちましたけど、倒れたりしたら普通、心配しますよね?」

「優しいね、朋香は!」

次の瞬間、ぎゅーっと痛いくらいに抱きしめられた上に、ちゅっ、ちゅっと何度もキスされた。

「は、離して!」

「えー、嫌だよ」

なんとか引きはがしたものの、不満顔で見られた。
いつも通りに戻った尚一郎にほっとしたものの、はぁっ、小さくため息が漏れる。
けれどそんな朋香に尚一郎は気付く様子がない。

「CEOは年が年だし、もともと血圧が高いからね。
なのにあんなに興奮するから」

自分の祖父に対してと思えない言葉にじろりと睨むと、びくっと尚一郎は怯えたように背中を揺らした。

「ま、まあ、二、三日は寝込むだろうけど。
大したことないよ」

「……お見舞い。
行かなくていいんですか」

「僕が行ったらまた興奮してしまうだろう?
それに、呼び出されない限り、あそこに僕は入れないからね」

「それってどういう……」

しっ、尚一郎の長い人差し指が、朋香の言葉を遮るように唇にふれる。
そっと視線を上げてみると、困ったように笑っていた。

「このまま少し遠出して、今日はどこかに泊まろうか。
温泉、とかどうだろう?」

「尚一郎さん?」

「朋香には嫌な思いをさせてしまったからね。
お詫びだよ」

ちゅっ、唇に落ちたキス。
いい子、とあたまを撫でられると、いまはなにも云えなかった。
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