契約書は婚姻届

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

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第6話 車と元彼と私

2.ロッテに相談

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「連絡……」

お昼ご飯を食べてからこっち、ずっと悩んでる。

ちなみに、土曜もあれから、日曜も夜眠るまで尚一郎がべったりだったから、名刺に気づいたのは今日、お昼ご飯を食べる前。

尚一郎にはノベルティをもらったことは報告したが、
「好きにしたらいいよ」
と中は確認しなかった。

「奥様。
本日のお茶はいかがいたしますか?」

「リビングに行きまーす」

野々村の声に、慌てて返事をする。
ぼーっとテレビを見ていたら、こんな時間になっていた。

尚一郎はあれから、朋香の希望を聞いてテレビを部屋に入れてくれた。
さらにはオンデマンド契約もしてくれたので、いつでも映画やドラマを楽しめる。

……ただ、朋香ひとりのために80型の8Kテレビという、常識を越えたサイズではあるが。

「れーんーらーくー」

ぶつぶつ云ってるうちにリビングについてしまった。

野々村は無言でお茶の準備をしている。

最初は、お金持ちの家のティータイムといえば、ケーキスタンドにケーキの載ったアフタヌーンティを想像していて、出てきたのがケーキとコーヒーだけでがっかりしたものだ。

「今日はチェリーのケーキでございます」

「わー……」

こほん、野々村に咳払いをされて、一番好きなケーキに思わず出そうになった声を止める。
押部の奥様としてははしたないとは思うが、しょっちゅうこうやってなにかと注意されるのは窮屈だ。

黙々とコーヒーとケーキを口に運ぶ。
尚一郎と一緒に食べるケーキと違ってなぜか味気ない。

もっとも、
「あーん」
と食べさせたがる尚一郎を拒否するのに、あれはあれで疲れるのだが。


お茶の時間が終わると、庭に出る。

「ロッテ」

「ワン!」

時間的にわかっているのか、すぐにロッテが寄ってきた。

「行こうか」

「ワン!」

ロッテと並んで庭を歩く。

ボルゾイという犬種は運動好きらしく、朝は尚一郎が出勤前に一時間、散歩している。
夕方は専任の使用人の役目だ。

「ねえ、ロッテ。
私、どうしたらいいんだと思う?」

どうしたの?

とでもいうかのようにロッテが朋香の顔をのぞき込んだ。
ロッテは、朋香のいい愚痴吐き相手で相談相手だ。

「元彼に連絡して欲しいって云われちゃって。
一応、もう別れたんだし、ただの友達なんだけど……」

「ワフ!」

なんだか、
「それって浮気じゃないの?
尚一郎に失礼よ!」
などと云われた気がする。

「わかってるんだけどさー。
でも、相談できる人は欲しいっていうか……」

現在、朋香に相談の出来る相手はロッテ以外いない。

明夫や、工場のおばさんたちに相談してみることも考えたが、心配をかけるだけだとやめた。

友人関係の連絡先はばっさりと切り捨てられ、新しい携帯には一件も登録されてない。

「とりあえず、連絡だけだったら大丈夫だよね……」

「ワフ!」

ロッテに抗議されている気がするが、気にしないことにする。

だいたい、ロッテは尚一郎びいきだから。
早々に気に入られた朋香は珍しいのだと、尚一郎は笑っていた。
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