52 / 129
第8話 焼き肉デート
2.可愛くわがまま
しおりを挟む
屋敷に戻るとロッテと別れて自分の部屋の浴室で軽く汗を流す。
そのあと、気が向いて読書なんかしてみる。
しかも、野々村から渡された、押部家の歴史、なんて本。
元は公家の出だとか、しかも大昔は大臣を務めたこともあり、天皇家とは外戚関係だったこともあるとか。
そんな黴の生えたような古い自慢話を延々と読んでいると、眠くなってくる。
きっと、あの祖父母はいまだにこういうことにこだわっているのだろう。
だから、尚一郎は酷く疎まれている。
……もう二十一世紀だってゆーの。
やはり、あの祖父母は好きになれそうにない。
「ただいま、Mein Schatz」
「……おかえりなさい」
結局、本を読みながら寝てしまっていた。
出迎えもできず、帰ってきた尚一郎に起こされるなどと恥ずかしすぎる。
「こんなものを読んでたのかい?
物好きだね」
「……一応」
ぱらぱらと尚一郎の手がページをめくる。
涎の跡でもついてないか心配になってきた。
「僕も一応読んだけどね。
こんなつまらないものは朋香は読まなくていいよ」
ぽいっ、そこらに本を投げ捨てたかと思ったら、がしっと思いっきり本を踏みつけた尚一郎の、眼鏡の奥の目は全く笑ってない。
「夕飯にしよう。
もうおなかペコペコだよ」
おなかを押さえて笑った尚一郎はいつも通りに戻っていて、ほっとした。
夕飯が終わって、いつものように膝の上に載せられて過ごしながら、朋香はぐるぐる悩んでいた。
自分は、少しくらい我が儘になっていいんだと思う。
いや、バーキンが欲しいとか、そういうことではなく。
そもそもバーキンが欲しいなんて思わないし、もっともすでに、衣装部屋の中に二つほど転がっている。
さらにいえば、尚一郎がそういうものをプレゼントしてくるのがムカつく。
いままでバーキンだとかヴィトンだとかねだっていたであろう女たちと一緒にされているようで。
……とりあえずそれは置いておいて。
朋香のいう我が儘はコンビニスイーツが食べたいとか、カラオケに行きたいとか。
そういう、いままでやってきたささやかな楽しみを我慢するからストレスが溜まって雪也のような男と遊び歩いたりするのだ。
「しょ、尚一郎、さん」
そっと袖を引き、上目がちになるべく瞳を潤わせ、おそるおそるといった感じで見上げる。
こうやるとだいたい、尚一郎がお願いを聞いてくれることは学習済みだ。
「……なんだい?」
すぅーっと尚一郎の視線が逸れて目を伏せる。
かかった!
心の中でガッツポーズ。
「その、……焼き肉、食べたいです」
「焼き肉かい?
わかった、大村に最高級の肉を用意させて……」
「そうじゃなくて!」
なんとなく、焼き肉じゃなくステーキが想像できた。
違う、違うのだ。
「お店で、食べたいです」
「じゃあ、犬飼に最高級のお店を……」
「違うんです!」
尚一郎の思う焼き肉と、自分の思う焼き肉に違いがありすぎて軽く頭痛がしてくる。
確かに、高級店で食べる上品な焼き肉もいい。
でも、朋香が食べたいのはそうじゃないのだ。
「お店は私が決めていいですか」
「朋香お勧めのお店かい?」
ふふふっ、楽しそうに笑った尚一郎の顔が近づいてくる。
耳の傍に寄ったかと思ったら。
「それは楽しみだ」
囁かれたのと同時に耳の後ろに落ちた口付けに、顔が熱くなる思いがした。
そのあと、気が向いて読書なんかしてみる。
しかも、野々村から渡された、押部家の歴史、なんて本。
元は公家の出だとか、しかも大昔は大臣を務めたこともあり、天皇家とは外戚関係だったこともあるとか。
そんな黴の生えたような古い自慢話を延々と読んでいると、眠くなってくる。
きっと、あの祖父母はいまだにこういうことにこだわっているのだろう。
だから、尚一郎は酷く疎まれている。
……もう二十一世紀だってゆーの。
やはり、あの祖父母は好きになれそうにない。
「ただいま、Mein Schatz」
「……おかえりなさい」
結局、本を読みながら寝てしまっていた。
出迎えもできず、帰ってきた尚一郎に起こされるなどと恥ずかしすぎる。
「こんなものを読んでたのかい?
物好きだね」
「……一応」
ぱらぱらと尚一郎の手がページをめくる。
涎の跡でもついてないか心配になってきた。
「僕も一応読んだけどね。
こんなつまらないものは朋香は読まなくていいよ」
ぽいっ、そこらに本を投げ捨てたかと思ったら、がしっと思いっきり本を踏みつけた尚一郎の、眼鏡の奥の目は全く笑ってない。
「夕飯にしよう。
もうおなかペコペコだよ」
おなかを押さえて笑った尚一郎はいつも通りに戻っていて、ほっとした。
夕飯が終わって、いつものように膝の上に載せられて過ごしながら、朋香はぐるぐる悩んでいた。
自分は、少しくらい我が儘になっていいんだと思う。
いや、バーキンが欲しいとか、そういうことではなく。
そもそもバーキンが欲しいなんて思わないし、もっともすでに、衣装部屋の中に二つほど転がっている。
さらにいえば、尚一郎がそういうものをプレゼントしてくるのがムカつく。
いままでバーキンだとかヴィトンだとかねだっていたであろう女たちと一緒にされているようで。
……とりあえずそれは置いておいて。
朋香のいう我が儘はコンビニスイーツが食べたいとか、カラオケに行きたいとか。
そういう、いままでやってきたささやかな楽しみを我慢するからストレスが溜まって雪也のような男と遊び歩いたりするのだ。
「しょ、尚一郎、さん」
そっと袖を引き、上目がちになるべく瞳を潤わせ、おそるおそるといった感じで見上げる。
こうやるとだいたい、尚一郎がお願いを聞いてくれることは学習済みだ。
「……なんだい?」
すぅーっと尚一郎の視線が逸れて目を伏せる。
かかった!
心の中でガッツポーズ。
「その、……焼き肉、食べたいです」
「焼き肉かい?
わかった、大村に最高級の肉を用意させて……」
「そうじゃなくて!」
なんとなく、焼き肉じゃなくステーキが想像できた。
違う、違うのだ。
「お店で、食べたいです」
「じゃあ、犬飼に最高級のお店を……」
「違うんです!」
尚一郎の思う焼き肉と、自分の思う焼き肉に違いがありすぎて軽く頭痛がしてくる。
確かに、高級店で食べる上品な焼き肉もいい。
でも、朋香が食べたいのはそうじゃないのだ。
「お店は私が決めていいですか」
「朋香お勧めのお店かい?」
ふふふっ、楽しそうに笑った尚一郎の顔が近づいてくる。
耳の傍に寄ったかと思ったら。
「それは楽しみだ」
囁かれたのと同時に耳の後ろに落ちた口付けに、顔が熱くなる思いがした。
1
あなたにおすすめの小説
わたしの愉快な旦那さん
川上桃園
恋愛
あまりの辛さにブラックすぎるバイトをやめた。最後塩まかれたけど気にしない。
あ、そういえばこの店入ったことなかったな、入ってみよう。
「何かお探しですか」
その店はなんでも取り扱うという。噂によると彼氏も紹介してくれるらしい。でもそんなのいらない。彼氏だったらすぐに離れてしまうかもしれないのだから。
店員のお兄さんを前にてんぱった私は。
「旦那さんが欲しいです……」
と、斜め上の回答をしてしまった。でもお兄さんは優しい。
「どんな旦那さんをお望みですか」
「え、えっと……愉快な、旦那さん?」
そしてお兄さんは自分を指差した。
「僕が、お客様のお探しの『愉快な旦那さん』ですよ」
そこから始まる恋のお話です。大学生女子と社会人男子(御曹司)。ほのぼのとした日常恋愛もの
あまやかしても、いいですか?
藤川巴/智江千佳子
恋愛
結婚相手は会社の王子様。
「俺ね、ダメなんだ」
「あーもう、キスしたい」
「それこそだめです」
甘々(しすぎる)男子×冷静(に見えるだけ)女子の
契約結婚生活とはこれいかに。
俺を信じろ〜財閥俺様御曹司とのニューヨークでの熱い夜
ラヴ KAZU
恋愛
二年間付き合った恋人に振られた亜紀は傷心旅行でニューヨークへ旅立つ。
そこで東條ホールディングス社長東條理樹にはじめてを捧げてしまう。結婚を約束するも日本に戻ると連絡を貰えず、会社へ乗り込むも、
理樹は亜紀の父親の会社を倒産に追い込んだ東條財閥東條理三郎の息子だった。
しかも理樹には婚約者がいたのである。
全てを捧げた相手の真実を知り翻弄される亜紀。
二人は結婚出来るのであろうか。
思い出のチョコレートエッグ
ライヒェル
恋愛
失恋傷心旅行に出た花音は、思い出の地、オランダでの出会いをきっかけに、ワーキングホリデー制度を利用し、ドイツの首都、ベルリンに1年限定で住むことを決意する。
慣れない海外生活に戸惑い、異国ならではの苦労もするが、やがて、日々の生活がリズムに乗り始めたころ、とてつもなく魅力的な男性と出会う。
秘密の多い彼との恋愛、彼を取り巻く複雑な人間関係、初めて経験するセレブの世界。
主人公、花音の人生パズルが、紆余曲折を経て、ついに最後のピースがぴったりはまり完成するまでを追う、胸キュン&溺愛系ラブストーリーです。
* ドイツ在住の作者がお届けする、ヨーロッパを舞台にした、喜怒哀楽満載のラブストーリー。
* 外国での生活や、外国人との恋愛の様子をリアルに感じて、主人公の日々を間近に見ているような気分になれる内容となっています。
* 実在する場所と人物を一部モデルにした、リアリティ感の溢れる長編小説です。
俺に抱かれる覚悟をしろ〜俺様御曹司の溺愛
ラヴ KAZU
恋愛
みゆは付き合う度に騙されて男性不信になり
もう絶対に男性の言葉は信じないと決心した。
そんなある日会社の休憩室で一人の男性と出会う
これが桂木廉也との出会いである。
廉也はみゆに信じられない程の愛情を注ぐ。
みゆは一瞬にして廉也と恋に落ちたが同じ過ちを犯してはいけないと廉也と距離を取ろうとする。
以前愛した御曹司龍司との別れ、それは会社役員に結婚を反対された為だった。
二人の恋の行方は……
灰かぶりの姉
吉野 那生
恋愛
父の死後、母が連れてきたのは優しそうな男性と可愛い女の子だった。
「今日からあなたのお父さんと妹だよ」
そう言われたあの日から…。
* * *
『ソツのない彼氏とスキのない彼女』のスピンオフ。
国枝 那月×野口 航平の過去編です。
溺愛ダーリンと逆シークレットベビー
吉野葉月
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。
立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。
優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?
あなたと恋に落ちるまで~御曹司は、一途に私に恋をする~
けいこ
恋愛
カフェも併設されたオシャレなパン屋で働く私は、大好きなパンに囲まれて幸せな日々を送っていた。
ただ…
トラウマを抱え、恋愛が上手く出来ない私。
誰かを好きになりたいのに傷つくのが怖いって言う恋愛こじらせ女子。
いや…もう女子と言える年齢ではない。
キラキラドキドキした恋愛はしたい…
結婚もしなきゃいけないと…思ってはいる25歳。
最近、パン屋に来てくれるようになったスーツ姿のイケメン過ぎる男性。
彼が百貨店などを幅広く経営する榊グループの社長で御曹司とわかり、店のみんなが騒ぎ出して…
そんな人が、
『「杏」のパンを、時々会社に配達してもらいたい』
だなんて、私を指名してくれて…
そして…
スーパーで買ったイチゴを落としてしまったバカな私を、必死に走って追いかけ、届けてくれた20歳の可愛い系イケメン君には、
『今度、一緒にテーマパーク行って下さい。この…メロンパンと塩パンとカフェオレのお礼したいから』
って、誘われた…
いったい私に何が起こっているの?
パン屋に出入りする同年齢の爽やかイケメン、パン屋の明るい美人店長、バイトの可愛い女の子…
たくさんの個性溢れる人々に関わる中で、私の平凡過ぎる毎日が変わっていくのがわかる。
誰かを思いっきり好きになって…
甘えてみても…いいですか?
※after story別作品で公開中(同じタイトル)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる