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第11話 Kaffee trinken
6.押部家の家族関係
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お茶会ならば、なにか気の利いた話をするべきなのだろうが、なにを話していいのかわからない。
黙ってケーキを口に運ぶ。
尚恭お勧めのケーキは朋香の大好きなチェリーのケーキで、しかもいつも食べている大村の作ったのものと遜色がなくらいおいしく、つい、どうしてここにいるのかなど忘れてしまいそうだった。
「朋香さんは」
「はいっ!?」
突然、声をかけられて慌てて返事をしてしまう。
そんな朋香に尚恭がおかしそうにくすりと小さく笑って、顔が熱くなった。
「朋香さんは当主、……私の父をどう思いますか」
「えっと……」
答えはひとつしかないのだが、正直に口には出せない。
云い淀む朋香に、また尚恭がくすりと笑った。
「正直に話してくださって結構ですよ。
私は父とは違いますから」
云っていいんだろうか。
尚一郎の父親の目の前で、そのさらに父親の悪口を。
悩んだもののやはり聞かれた答えはそれしかないので、誤魔化さずに正直に口にした。
「性悪くそじじぃ……です」
「……くそじじぃ」
尚恭の呟きに、やはり怒られるんじゃないかと身構えたものの。
「性悪くそじじぃ!
こんなにはっきり云う人は初めてです!
あーもー、朋香さんは最高ですね!」
なぜだかおなかを押さえ、身体を折り曲げてすごい勢いで笑い出した尚恭に、……若干、引いた。
「そうなんですよ、あの人、性悪くそじじぃなんですよ」
レンズを人差し指で押し上げるように涙を拭いながら、自分で云った性悪くそじじぃでまた小さく尚恭は吹き出している。
「さっさと跡を私に譲ってくれればいいものを、いつまでも権力にしがみついて。
おかげでさっさと尚一郎に跡を譲って引退し、ドイツでカーテとのんびり過ごす計画を、いつまでたっても実行できない」
「はあ。
……あの、カーテさんって」
「尚一郎はそんなことも話してないんですか?
カーテ、カタリーナは尚一郎の母親で、私が世界一、愛している女性です。
ちなみに亡くなった妻は二番目ですが、三番目はないです」
自慢げに宣言されても困る。
「こほん。
それで」
つい熱くなっていたことに気付いたのか、照れたように小さく咳払いをして、尚恭が話を変えてきた。
「当主は朋香さんの云う通り、性悪くそじじぃ……ぷっ」
小さく吹き出すとまた尚恭は笑っている。
よっぽど気に入ったらしい。
「失礼。
あの通りの性格ですので、尚一郎を嫌悪していることは理解していますよね」
「……はい」
嫌でも理解するしかない。
呼び出しては毎回、非のない尚一郎を糾弾する達之助を見ていれば。
「あの人は未だに、私に後妻を娶れと云うのです。
その方に子供を産ませれば、尚一郎などに跡を継がせなくてすむ、と。
さらには麻祐子(まゆこ)を悪し様に云う」
みしり、尚恭の握るフォークが微かに音を立て、びくっと身が竦む。
すぐになんでもないかのように尚恭が笑った。
「ケーキ、いかがですか?
レモンのケーキもおいしいんですよ」
「……いただきます」
新しいケーキがサーブされ、コーヒーが継ぎ足された。
なんとなく気まずいまま、もそもそとケーキを口に運ぶ。
「……麻祐子は父に殺されました」
重い、尚恭の言葉に、どういう意味なのか判断しかねた。
確かに、あの達之助の性格ならあり得ないこともないとは思うが。
「子宮癌でした。
早期に発見できて、そのときに治療していればなにも問題なかったんです。
けれどなかなかできない子供に、ノイローゼになるほど父に責められていた麻祐子は云い出せなかった。
気付いたときには手遅れでした」
かちゃり、尚恭がカップをソーサに戻す音だけが大きく響く。
尚恭の語る麻祐子の話は未来の自分な気がして、朋香は背中が寒くなる思いがした。
「子供などいなくていい、君が笑って元気でいてくれればそれでいいんだ。
何度云い聞かせても、父の酷い仕打ちに精神を蝕まれた麻祐子には届きませんでした。
父が麻祐子を殺したというのに、あの女が子供を産まなかったらこんな面倒なことに、などと……!」
だん!
両の拳で叩かれたテーブルに、尚恭の気持ちを察した。
……二番目、だけど三番目はない。
その言葉の通り、麻祐子のことも深く愛していたのだろう。
「……失礼しました。
ところで、ケーキはいかがですか?
チョコレートのケーキもなかなか」
「……いただきます」
正直に云えば、おなかはかなり満たされていた。
が、断れそうにない雰囲気に、新しいケーキをサーブしてもらう。
空になっていたカップにも、新しいコーヒーが注がれた。
黙ってケーキを口に運ぶ。
尚恭お勧めのケーキは朋香の大好きなチェリーのケーキで、しかもいつも食べている大村の作ったのものと遜色がなくらいおいしく、つい、どうしてここにいるのかなど忘れてしまいそうだった。
「朋香さんは」
「はいっ!?」
突然、声をかけられて慌てて返事をしてしまう。
そんな朋香に尚恭がおかしそうにくすりと小さく笑って、顔が熱くなった。
「朋香さんは当主、……私の父をどう思いますか」
「えっと……」
答えはひとつしかないのだが、正直に口には出せない。
云い淀む朋香に、また尚恭がくすりと笑った。
「正直に話してくださって結構ですよ。
私は父とは違いますから」
云っていいんだろうか。
尚一郎の父親の目の前で、そのさらに父親の悪口を。
悩んだもののやはり聞かれた答えはそれしかないので、誤魔化さずに正直に口にした。
「性悪くそじじぃ……です」
「……くそじじぃ」
尚恭の呟きに、やはり怒られるんじゃないかと身構えたものの。
「性悪くそじじぃ!
こんなにはっきり云う人は初めてです!
あーもー、朋香さんは最高ですね!」
なぜだかおなかを押さえ、身体を折り曲げてすごい勢いで笑い出した尚恭に、……若干、引いた。
「そうなんですよ、あの人、性悪くそじじぃなんですよ」
レンズを人差し指で押し上げるように涙を拭いながら、自分で云った性悪くそじじぃでまた小さく尚恭は吹き出している。
「さっさと跡を私に譲ってくれればいいものを、いつまでも権力にしがみついて。
おかげでさっさと尚一郎に跡を譲って引退し、ドイツでカーテとのんびり過ごす計画を、いつまでたっても実行できない」
「はあ。
……あの、カーテさんって」
「尚一郎はそんなことも話してないんですか?
カーテ、カタリーナは尚一郎の母親で、私が世界一、愛している女性です。
ちなみに亡くなった妻は二番目ですが、三番目はないです」
自慢げに宣言されても困る。
「こほん。
それで」
つい熱くなっていたことに気付いたのか、照れたように小さく咳払いをして、尚恭が話を変えてきた。
「当主は朋香さんの云う通り、性悪くそじじぃ……ぷっ」
小さく吹き出すとまた尚恭は笑っている。
よっぽど気に入ったらしい。
「失礼。
あの通りの性格ですので、尚一郎を嫌悪していることは理解していますよね」
「……はい」
嫌でも理解するしかない。
呼び出しては毎回、非のない尚一郎を糾弾する達之助を見ていれば。
「あの人は未だに、私に後妻を娶れと云うのです。
その方に子供を産ませれば、尚一郎などに跡を継がせなくてすむ、と。
さらには麻祐子(まゆこ)を悪し様に云う」
みしり、尚恭の握るフォークが微かに音を立て、びくっと身が竦む。
すぐになんでもないかのように尚恭が笑った。
「ケーキ、いかがですか?
レモンのケーキもおいしいんですよ」
「……いただきます」
新しいケーキがサーブされ、コーヒーが継ぎ足された。
なんとなく気まずいまま、もそもそとケーキを口に運ぶ。
「……麻祐子は父に殺されました」
重い、尚恭の言葉に、どういう意味なのか判断しかねた。
確かに、あの達之助の性格ならあり得ないこともないとは思うが。
「子宮癌でした。
早期に発見できて、そのときに治療していればなにも問題なかったんです。
けれどなかなかできない子供に、ノイローゼになるほど父に責められていた麻祐子は云い出せなかった。
気付いたときには手遅れでした」
かちゃり、尚恭がカップをソーサに戻す音だけが大きく響く。
尚恭の語る麻祐子の話は未来の自分な気がして、朋香は背中が寒くなる思いがした。
「子供などいなくていい、君が笑って元気でいてくれればそれでいいんだ。
何度云い聞かせても、父の酷い仕打ちに精神を蝕まれた麻祐子には届きませんでした。
父が麻祐子を殺したというのに、あの女が子供を産まなかったらこんな面倒なことに、などと……!」
だん!
両の拳で叩かれたテーブルに、尚恭の気持ちを察した。
……二番目、だけど三番目はない。
その言葉の通り、麻祐子のことも深く愛していたのだろう。
「……失礼しました。
ところで、ケーキはいかがですか?
チョコレートのケーキもなかなか」
「……いただきます」
正直に云えば、おなかはかなり満たされていた。
が、断れそうにない雰囲気に、新しいケーキをサーブしてもらう。
空になっていたカップにも、新しいコーヒーが注がれた。
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