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第11話 Kaffee trinken
7.試される、気持ち
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「父……当主はそういう人間です。
あなたは耐えられますか?」
「それは……」
耐えられる、などと軽々しく云えなかった。
静かに見つめる尚恭の、レンズの奥の瞳は朋香を試している。
「私、は」
声が震える。
ばくばくと早い心臓の鼓動。
なんと答えていいのかわからなかった。
耐えられる、そんな嘘はつけない。
けれど耐えられないとは云いたくない。
ぐるぐると思い悩んでいると、不意にふっと、尚恭が表情を緩めた。
「尚一郎はよいお嬢さんを妻に迎えたようですね」
「え?」
自分は聞かれたことに答えられなかったのに、嬉しそうに笑う尚恭に困惑した。
「私の話を聞いて、簡単に耐えられるとは答えられなかったのでしょう?
けれど耐えられないと逃げ出すのも嫌だった」
「……はい」
「朋香さんはよいお嬢さんです。
当主に潰させるには惜しい」
目を細めてうっすらと笑う尚恭に、背中を冷たいものが走る。
こんなところまで尚一郎は父親にそっくりだ。
「別れなさい、朋香さん。
尚一郎と」
静かに見つめられているだけなのに、じっとりと手のひらに汗をかいていた。
ゆっくりと目を閉じ、気持ちを落ち着けるように一度深呼吸する。
再び目を開けると、静かに朋香は口を開いた。
「私は絶対に、尚一郎さんと別れません」
ついこのあいだ約束したのだ、ずっと尚一郎と一緒にいると。
あの気持ちに嘘偽りはない。
「どうして?
贅沢がしたいのなら、慰謝料という形で十分に保証しますよ」
「お金なんていりません。
尚一郎さんが貧乏だってかまわない。
私は尚一郎さんを愛しているから」
「けれど、これでこの先の自分の運命はわかったでしょう?」
「それはっ」
ずるいと思う。
この先、自分の辿る道が絶望でしかないことがわかっていて、それを望むのはただのドMだ。
けれど、それでも。
「私は尚一郎さんをひとりにしないと約束したから。
ずっと一緒にいるって……」
テーブルクロスの上にぽたぽたと水滴が落ちてくる。
こんなことで泣いているなんてみっともないとは思うが、涙は止まらない。
「……朋香を泣かせないでいただけますか」
鋭利なナイフのようにふれると切れてしまいそうな声に視線を向けると、いつからいたのか、冷ややかな視線を尚一郎が尚恭に送っていた。
「どうやって入ってきた?
私は許可を出してないが?」
尚恭の問いにかまうことなく、尚一郎はつかつかと部屋の中に入ってくる。
「土下座しました。中に入れてくださいとCEOに。
どんなことでもすると誓ったので、あとでなにか云ってくるでしょうね」
「……面倒なことを」
はぁーっ、尚恭の口からため息が落ちた。
きっと、達之助から出される命は尚恭にとって、ひいてはオシベグループにとって都合の悪いものなのだろう。
「ごめんね、朋香。
遅くなって。
こんなに泣かされるなんて、COOになにを云われたんだい?」
傍に膝をついた尚一郎が涙を拭うと、ますます涙が出てくる。
「尚一郎さん……!」
「あ、危ない……!」
椅子から落ちるなどかまわずに、抱きついてきた朋香を尚一郎が慌てて受け止めた。
泣きじゃくる朋香を胸に抱いたまま、尚一郎は尚恭を睨みつける。
「なにを云ったんですか、朋香に。
返答如何によっては、たとえCOOでも許さない……!」
「……おまえは万理奈さんの件でまだ懲りてないのか」
「それは……」
……また万理奈だ。
その名前が出た途端、尚一郎は黙り朋香を抱きしめる手にぎりっと力が入った。
「朋香は万理奈と同じにはしません。
もちろん、あなたと同じ轍も踏まない。
今度こそ絶対に、私は朋香を守ってみせる」
「……おまえにできるものか」
嘲笑するような声に、さらに尚一郎の手に力が入る。
なにも云えない朋香は固唾をのんで見守っていた。
「昔の、なにもできない子供の私と一緒にしないでいただきたいですね。
私はあなたとは違う。
朋香を絶対に、幸せにしてみせる。
……お話は終わりのようですね。
帰ろう、朋香」
朋香を抱き上げ、尚一郎が立ち上がった。
普段なら恥ずかしくて降ろせと暴れるところだが、今日は精神をゴリゴリ削られ、そんな気力はない。
甘えるように首に腕を回して抱きつき、その肩に顔をうずめた。
「待ちなさい」
尚恭にかまわず一歩踏み出した尚一郎だったが、呼び止められて振り返る。
「結婚したことはカーテにも報告しなさい。
きっと喜ぶ」
「よけいなお世話です」
ふいっ、尚一郎が視線を逸らす。
僅かに目元が赤い気がするのは見間違いだろうか。
あなたは耐えられますか?」
「それは……」
耐えられる、などと軽々しく云えなかった。
静かに見つめる尚恭の、レンズの奥の瞳は朋香を試している。
「私、は」
声が震える。
ばくばくと早い心臓の鼓動。
なんと答えていいのかわからなかった。
耐えられる、そんな嘘はつけない。
けれど耐えられないとは云いたくない。
ぐるぐると思い悩んでいると、不意にふっと、尚恭が表情を緩めた。
「尚一郎はよいお嬢さんを妻に迎えたようですね」
「え?」
自分は聞かれたことに答えられなかったのに、嬉しそうに笑う尚恭に困惑した。
「私の話を聞いて、簡単に耐えられるとは答えられなかったのでしょう?
けれど耐えられないと逃げ出すのも嫌だった」
「……はい」
「朋香さんはよいお嬢さんです。
当主に潰させるには惜しい」
目を細めてうっすらと笑う尚恭に、背中を冷たいものが走る。
こんなところまで尚一郎は父親にそっくりだ。
「別れなさい、朋香さん。
尚一郎と」
静かに見つめられているだけなのに、じっとりと手のひらに汗をかいていた。
ゆっくりと目を閉じ、気持ちを落ち着けるように一度深呼吸する。
再び目を開けると、静かに朋香は口を開いた。
「私は絶対に、尚一郎さんと別れません」
ついこのあいだ約束したのだ、ずっと尚一郎と一緒にいると。
あの気持ちに嘘偽りはない。
「どうして?
贅沢がしたいのなら、慰謝料という形で十分に保証しますよ」
「お金なんていりません。
尚一郎さんが貧乏だってかまわない。
私は尚一郎さんを愛しているから」
「けれど、これでこの先の自分の運命はわかったでしょう?」
「それはっ」
ずるいと思う。
この先、自分の辿る道が絶望でしかないことがわかっていて、それを望むのはただのドMだ。
けれど、それでも。
「私は尚一郎さんをひとりにしないと約束したから。
ずっと一緒にいるって……」
テーブルクロスの上にぽたぽたと水滴が落ちてくる。
こんなことで泣いているなんてみっともないとは思うが、涙は止まらない。
「……朋香を泣かせないでいただけますか」
鋭利なナイフのようにふれると切れてしまいそうな声に視線を向けると、いつからいたのか、冷ややかな視線を尚一郎が尚恭に送っていた。
「どうやって入ってきた?
私は許可を出してないが?」
尚恭の問いにかまうことなく、尚一郎はつかつかと部屋の中に入ってくる。
「土下座しました。中に入れてくださいとCEOに。
どんなことでもすると誓ったので、あとでなにか云ってくるでしょうね」
「……面倒なことを」
はぁーっ、尚恭の口からため息が落ちた。
きっと、達之助から出される命は尚恭にとって、ひいてはオシベグループにとって都合の悪いものなのだろう。
「ごめんね、朋香。
遅くなって。
こんなに泣かされるなんて、COOになにを云われたんだい?」
傍に膝をついた尚一郎が涙を拭うと、ますます涙が出てくる。
「尚一郎さん……!」
「あ、危ない……!」
椅子から落ちるなどかまわずに、抱きついてきた朋香を尚一郎が慌てて受け止めた。
泣きじゃくる朋香を胸に抱いたまま、尚一郎は尚恭を睨みつける。
「なにを云ったんですか、朋香に。
返答如何によっては、たとえCOOでも許さない……!」
「……おまえは万理奈さんの件でまだ懲りてないのか」
「それは……」
……また万理奈だ。
その名前が出た途端、尚一郎は黙り朋香を抱きしめる手にぎりっと力が入った。
「朋香は万理奈と同じにはしません。
もちろん、あなたと同じ轍も踏まない。
今度こそ絶対に、私は朋香を守ってみせる」
「……おまえにできるものか」
嘲笑するような声に、さらに尚一郎の手に力が入る。
なにも云えない朋香は固唾をのんで見守っていた。
「昔の、なにもできない子供の私と一緒にしないでいただきたいですね。
私はあなたとは違う。
朋香を絶対に、幸せにしてみせる。
……お話は終わりのようですね。
帰ろう、朋香」
朋香を抱き上げ、尚一郎が立ち上がった。
普段なら恥ずかしくて降ろせと暴れるところだが、今日は精神をゴリゴリ削られ、そんな気力はない。
甘えるように首に腕を回して抱きつき、その肩に顔をうずめた。
「待ちなさい」
尚恭にかまわず一歩踏み出した尚一郎だったが、呼び止められて振り返る。
「結婚したことはカーテにも報告しなさい。
きっと喜ぶ」
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ふいっ、尚一郎が視線を逸らす。
僅かに目元が赤い気がするのは見間違いだろうか。
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