結婚直後にとある理由で離婚を申し出ましたが、 別れてくれないどころか次期社長の同期に執着されて愛されています

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

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第一章 同期と勢いで結婚しました

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『ごめんなさい、今日の最下位は魚座のあなた。
周りから理不尽なことを言われて落ち込みそう。
そんなあなたのラッキーパーソンは〝眼鏡をかけた人〟です』

朝起きて、日課のように見ている占いの結果に、早速落ち込んだ。
私はまさしく、本日最下位の魚座なのだ。

「あー……」

占いなんて当たらないとわかっている。
それでも、朝から今日の運勢は最悪なんて言われて、テンションが上がるわけがない。
しかもさらに。

「うっ」

出勤の準備で忙しいというのに、携帯が鳴る。
こんな時間にかけてくる相手はひとりしかいないし、画面を見たらやはりその人で憂鬱になった。

……切ったらダメかな。

しかしそんなことをすれば、あとでさらに面倒になる。
三コール鳴るあいだにそれだけ悩み、電話に出た。

「……はい」

『あんた、土曜は暇よね?
帰ってきなさい』

出た途端に相手――母のマシンガントークが始まる。

「あー、土曜……」

『帰らないっていうの!?
せっかく、あなたのためにお見合いをセッティングしてあげたのに!』

言い切らないうちに母は被せてきた。
そうだろうと思っていた話だけに、さらに気持ちが沈んでいった。

「いや、結婚……」

『あの由美ゆみちゃんだって結婚したのよ?
純華すみかだって頑張れば結婚できるって!
だからほら、お見合いしましょう?』

母なりに私を心配してくれているのはわかる。
いとこで私より年下の由美ちゃんはよくいえばぽっちゃりで、お世辞にも美人といえるタイプではなかった。
その彼女が先日、結婚したのだ。
おかげで母は、私の結婚に燃えているのだろう。

「はぁーっ」

私の面倒臭そうなため息など気づかず、母は相手の男性について話している。
高校生から母子家庭で育った私としては母の願いを叶えてやりたいところだが、結婚となるとうんと首を縦には振れなかった。

「お母さん。
土曜日は仕事なの。
ごめんね」

母を傷つけないように、遠回しで見合いを断る。
それに、土曜が仕事なのは事実だ。

『仕事仕事ってあんたはそればっかり。
そんなんだから男が寄りつかないのよ』

再び、私の口からため息が落ちていく。

「私はこの仕事が好きなの。
結婚より仕事が大事だから」

『……そういうとこ、父さんそっくりで嫌になっちゃう』

ぽつりと呟いた母は淋しそうで、申し訳なくなった。

『わかった。
土曜のお見合いは断っとく。
でも母さんは純華の結婚を諦めてないからね。
都合のいい日を連絡して』

「はいはい」

とりあえずはなんとかなったものの、この先を思うと気が重くなる。
もう二十八も後半となれば、母は崖っぷちだと思っているのかもしれない。
どうも今日は、珍しく占いが当たったようだ。

母との通話を終え、手早く出勤準備をする。
化粧はクッションファンデを塗って眉を引き、口紅を塗っただけ。
本当はそれすら面倒だが、イベント関連の部署に勤めているので、最低限のメイクは必要だ。
美容院に行くのが億劫で伸ばしっぱなしの黒髪は、邪魔にならないようにひっつめお団子に。
服は機動性重視の黒のパンツスーツを着て、私の出勤スタイルは完成だ。

「やっぱり無理だよ」

鏡の前で自分の姿をチェックして、苦笑いが漏れる。
母は私だって頑張れば結婚できると言っていたが、地味なうえにつり目で唇も薄く、怖そうな私となんて、誰だって結婚したくないだろう。

通勤電車に揺られて出勤する。

「おはよ」

「お、おは、よう」

最寄り駅を出たところで肩を叩かれ、びくっとした。
すぐになんでもないように、同期の矢崎やざきくんが並んで歩く。
私なんてすらりと背の高い彼の、胸までしかない。
当然、それだけ歩幅も違うのだが、彼はいつも私にあわせてくれた。
爽やかに切りそろえられた黒髪を七三分け、涼やかな目もとを黒縁スクエアの眼鏡が引き立てる。
薄いけれど唇は形が整っており、間違いなくイケメンだ。
実際、周囲の女性たちの目を独占していた。
さらに二十代のうちに同期で一番早く課長になり、出世頭なので会社では同期や年下だけではなく、年上の女性たちも狙っているという話だ。
そんな彼と並んで通勤なんて優越感――などまるでなく、私にとって彼はただの友人枠だった。

「相変わらず疲れてんな」

「あー……。
まあ、ね」

曖昧な笑顔を彼に向ける。
連日のオーバーワークと今朝は母からの電話で気力を削られ、いつもよりも疲れた顔をしている自覚があった。

「今日はいつもにもまして、クマが酷いぞ」

「うそっ!?」

矢崎くんに顔をのぞき込まれ、足が止まった。
昨晩は温タオルで温めてマッサージし、朝だってコンシーラーで念入りに隠してきたつもりなのに。

「係長になったからって、頑張りすぎ」

「あっ」

私の手を掴み、彼は会社のラウンジにあるコーヒーショップへと向かっていく。

「コーヒー奢ってやるから、少し肩の力抜け」

「……ありがと」

気づいたときには注文カウンターの前にいた。
ありがたく、カフェラテを注文する。
矢崎くんはこのとっつきにくい私と気さくに接してくれる、貴重な存在だ。

「今、ショッピングモールのオープニングイベントの仕事してるんだっけ」

「そう」

互いに頼んだものを受け取り、エレベーターへ向かって歩き出す。

「ま、無理はするなよ」

矢崎くんが慰めるようのぽんぽんと軽く肩を叩いたところで、エレベーターが到着した。
無理はするなと言われても、係長になって初めて任された仕事だ。
なんとしてでも成功させたい。
なんてこのときは燃えていたんだけれど――。
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