清貧秘書はガラスの靴をぶん投げる

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

文字の大きさ
43 / 64
第七章 私を恋に落としてどうする気なんだろう

7-6

しおりを挟む
その言葉どおり、抱っこやベビーカーでOKなアトラクションに彪夏さんは案内してくれた。
望はもちろんだが、美妃も楽しそうだ。

「そういえばあの子たち、お金持ってないんですが大丈夫なんですか……?」

途中、気になって彪夏さんに尋ねる。
アトラクションはフリーだから大丈夫だが、買い食いはできないはず。

「ああ。
あとで請求回してもらうようにしているから、大丈夫だ。
健太たちにも伝えたしな」

……ここぞとばかりにいろいろ食べたりしてなきゃいいんだけど。
まあ、うちの弟たちに限ってないか。

一時間ほど回ったところで真由さんは疲れてきたので、レストランで美妃と一緒に待っていてもらう。

「望は疲れてない?」

「ううん!
それよりもはやく、つぎにいこうよ!」

興奮してアドレナリン大放出中なのか、手を引っ張る望にまったく疲れた様子はない。
これは車に乗った途端、寝そうだなー。

それからさらに一時間くらい回り、真由さんの待っているレストランに全員集合して、遅い夕食となる。

「満足したか?」

「もう、大満足!」

元気いっぱいの真の隣で、兄ふたりはげんなりした顔をしていた。

「同じ絶叫系のアトラクションに三回も乗る?
しかも、毎回席を替えて」

「ずっとゲラゲラ笑ってるし、勘弁してくれ……」

……それは、ご愁傷様。
私も勘弁してほしいかも。

デザートまでしっかり食べさせてもらい、あとはお買い物タイムだと彪夏さんに言われた。

「金は気にしなくていい、好きなだけ選んでこい」

「ほんとに!?」

大喜びでショップに向かう弟たちを苦笑いで見送る。

「俺たちも選ぶか。
今日は迷惑かけたし、嶋谷たちに買って帰らないとな」

ぽりぽりと人差し指で彪夏さんが頬を掻く。

「そうですね」

私たちも弟たちのあとを追った。

かなり経ってショップから出てきた弟たちの手には持ちきれないほどのグッズ……などなく。

「なあ。
本当にそれだけでいいのか?」

「いいの、いいの!」

笑っている真が選んだのは早速着ているTシャツだけだったし、健太も巧も似たり寄ったりだった。
ベビーカーでもう眠っている美妃の隣には、小さなウサミちゃんのぬいぐるみが置かれている。

「ひゅうがおにぃちゃん、ありがとう!」

お礼を言う望が抱いている、ウッサーくんの大きなぬいぐるみが唯一、高そうだ。

「遠慮しなくていいんだぞ?」

彪夏さんは困惑気味だが、そうなるだろう。

「いいんだよ、これで。
いくら彪夏にぃが金持ちだからって、なんでも買うのはなんか違うだろ」

健太も巧も、真も笑って、本当に言い弟たちだと思う。

「お前たちが俺の義弟で、ほんとに誇らしいよ」

「えっ、うわっ、やめろよ!」

彪夏さんに頭を撫で回されて弟たちが嫌がっていて、私も笑っていた。

そろそろ帰ろうかというタイミングになって、――花火が、上がった。

「すげっ、花火だ!」

「綺麗ねー」

みんなで、ウッサー城の周りで上がる花火を見上げる。

「清子」

「はい?」

唐突に彪夏さんから名を呼ばれ、その顔を見上げた。

「俺は清子を……」

その先はひときわ大きな花火の音でかき消された。
弟たちの騒ぐ声が、聞こえない。
ゆっくりと近づき、唇を重ねて離れていく彼の顔をただ見つめる。
眼鏡の向こう、艶やかに濡れる瞳が私を見ていた。

「今、なんて……」

「ドキドキしたか?」

張り詰めた空気を壊すかのように、彪夏さんがにぱっと笑う。

「……ドキドキなんてしません」

怒ったように顔を背ける。
嘘だ、心臓はこれ以上ないほど速い鼓動を刻んできた。

「んー、これ以上ないほどのシチュエーションだから、これで恋に落ちると思ったんだけどな」

彼に促され、歩きだす。
気を遣って離れてくれたのか、遠くから弟たちが呼んでいた。

「落ちませんよ。
反対に彪夏さんは落ちたんですか?」

「んー、内緒」

長い人差し指を唇に当て、悪戯っぽく彼が片目をつぶってみせる。
この人は私に本気になったりしないのに、どうして私を好きにさせたいのだろう。
そんなの、私が虚しくなるだけじゃないか。
現に今、私ひとりだけこんなにときめいてしまって虚しい。

「彪夏にぃ、もう望が寝そう!」

「おお、それは大変だな!
いくぞ、清子」

「はい」

それでも彪夏さんが私に手を差し出してくれるのが嬉しくて、その手に自分の手をのせた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

自信家CEOは花嫁を略奪する

朝陽ゆりね
恋愛
「あなたとは、一夜限りの関係です」 そのはずだったのに、 そう言ったはずなのに―― 私には婚約者がいて、あなたと交際することはできない。 それにあなたは特定の女とはつきあわないのでしょ? だったら、なぜ? お願いだからもうかまわないで―― 松坂和眞は特定の相手とは交際しないと宣言し、言い寄る女と一時を愉しむ男だ。 だが、経営者としての手腕は世間に広く知られている。 璃桜はそんな和眞に憧れて入社したが、親からもらった自由な時間は3年だった。 そしてその期間が来てしまった。 半年後、親が決めた相手と結婚する。 退職する前日、和眞を誘惑する決意をし、成功するが――

君に恋していいですか?

櫻井音衣
恋愛
卯月 薫、30歳。 仕事の出来すぎる女。 大食いで大酒飲みでヘビースモーカー。 女としての自信、全くなし。 過去の社内恋愛の苦い経験から、 もう二度と恋愛はしないと決めている。 そんな薫に近付く、同期の笠松 志信。 志信に惹かれて行く気持ちを否定して 『同期以上の事は期待しないで』と 志信を突き放す薫の前に、 かつての恋人・浩樹が現れて……。 こんな社内恋愛は、アリですか?

シンデレラは王子様と離婚することになりました。

及川 桜
恋愛
シンデレラは王子様と結婚して幸せになり・・・ なりませんでした!! 【現代版 シンデレラストーリー】 貧乏OLは、ひょんなことから会社の社長と出会い結婚することになりました。 はたから見れば、王子様に見初められたシンデレラストーリー。 しかしながら、その実態は? 離婚前提の結婚生活。 果たして、シンデレラは無事に王子様と離婚できるのでしょうか。

FLORAL-敏腕社長が可愛がるのは路地裏の花屋の店主-

さとう涼
恋愛
恋愛を封印し、花屋の店主として一心不乱に仕事に打ち込んでいた咲都。そんなある日、ひとりの男性(社長)が花を買いにくる──。出会いは偶然。だけど咲都を気に入った彼はなにかにつけて咲都と接点を持とうとしてくる。 「お昼ごはんを一緒に食べてくれるだけでいいんだよ。なにも難しいことなんてないだろう?」 「でも……」 「もしつき合ってくれたら、今回の仕事を長期プランに変更してあげるよ」 「はい?」 「とりあえず一年契約でどう?」 穏やかでやさしそうな雰囲気なのに意外に策士。最初は身分差にとまどっていた咲都だが、気づいたらすっかり彼のペースに巻き込まれていた。 ☆第14回恋愛小説大賞で奨励賞を頂きました。ありがとうございました。

続・最後の男

深冬 芽以
恋愛
 彩と智也が付き合い始めて一年。  二人は忙しいながらも時間をやりくりしながら、遠距離恋愛を続けていた。    結婚を意識しつつも、札幌に変えるまでは現状維持と考える智也。  自分の存在が、智也の将来の枷になっているのではと不安になる彩。  順調に見える二人の関係に、少しずつ亀裂が入り始める。  智也は彩の『最後の男』になれるのか。  彩は智也の『最後の女』になれるのか。

美しき造船王は愛の海に彼女を誘う

花里 美佐
恋愛
★神崎 蓮 32歳 神崎造船副社長 『玲瓏皇子』の異名を持つ美しき御曹司。 ノースサイド出身のセレブリティ × ☆清水 さくら 23歳 名取フラワーズ社員 名取フラワーズの社員だが、理由があって 伯父の花屋『ブラッサムフラワー』で今は働いている。 恋愛に不器用な仕事人間のセレブ男性が 花屋の女性の夢を応援し始めた。 最初は喧嘩をしながら、ふたりはお互いを認め合って惹かれていく。

【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!

satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。 働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。 早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。 そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。 大丈夫なのかなぁ?

あまやかしても、いいですか?

藤川巴/智江千佳子
恋愛
結婚相手は会社の王子様。 「俺ね、ダメなんだ」 「あーもう、キスしたい」 「それこそだめです」  甘々(しすぎる)男子×冷静(に見えるだけ)女子の 契約結婚生活とはこれいかに。

処理中です...