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第二章 結婚ってなんですか?
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「その。
ちょっと待ってください」
「ん?」
店員を呼び止めてコーヒーを注文していた彼は、怪訝そうに私を見た。
「コーヒー、いらなかった?」
「あ、いえ。
私もコーヒー、お願いします」
「うん。
コーヒー、二つで」
「かしこまりました」
店員が下がり、心を落ち着けるように一度、小さく深呼吸して再び口を開く。
「正直、命の危険がある仕事とか聞いたら、結婚どころか恋愛だって戸惑います。
だってある日突然、いなくなるかもしれないんですよ?」
「まあ、そうだよな」
納得だと彼は頷いた。
「けど、そんな仕事をしている猪狩お兄ちゃんを支えたいとも思います」
つい、昔の癖でお兄ちゃんと出たがかまわない。
だってこれは猪狩さんではなく、私の大好きな猪狩お兄ちゃんに向けたものだ。
私が小さい頃、彼は本当に私を実の妹のように可愛がってくれた。
お祭りで迷子になったときも汗だくになって私を探してくれたし、不審者に声をかけられて硬直している私に気づいて助けてくれた。
母が大事にしている花瓶を割ったときも一緒に謝ってくれた。
こんなにしてくれた猪狩お兄ちゃんは、長く離れていてもやはり私の大事な人だ。
そこに恋愛感情はなくても、彼の力になりたいという気持ちはある。
「ひなちゃん……?」
少し驚いたような、それでいて信じられないというような表情を猪狩さんは浮かべた。
「でも、小さいときならまだしも、今、いきなり恋愛感情を抱くのは難しいっていうか。
だってもう十八年も会ってないんですよ?
私だってあの頃とは変わってますし、猪狩お兄ちゃんだって変わってるでしょう?
それに大人になったから印象だって変わるかもしれません」
「それはそうだ」
彼は私の言いたいことを理解してくれているようで大変助かる。
「だからしばらく、結婚とか抜きにして、昔みたいに妹とお兄ちゃんとして付き合いませんか?
それで今の猪狩お兄ちゃんを知って結婚してもいいかもって気持ちになるかもしれませんし、お兄ちゃんも……やっぱり私とは結婚できないってなるかもしれませんし」
自分で一度、結婚は無理だと言っていながら、彼が断るのはなんか嫌で最後はもごもごと口の中で言ってしまった。
「ひなちゃんが俺と結婚してくれる可能性があるなら、それでいい」
承知したと猪狩さんが大きく首を縦に振る。
「まあ、俺がひなちゃんとの結婚、やめるとかないけどな」
右頬を歪めて彼がにやりと不敵に笑い一瞬、早まった気がした。
支払いでちょっとだけ揉めた。
「えっ、奢ってもらうとか悪いです!」
「いいから、いいから」
お財布を出そうとする私を遮り、彼はお会計をしてしまった。
「恋人なら割り勘もありだけどさ。
俺はお兄ちゃんなの。
妹の分も払うのは当たり前だろ?」
「うっ」
パチンと彼が私に向かって片目をつぶってみせる。
それは一理あるだけになにも言い返せなかった。
「今日は会ってくれてありがとう、楽しかった。
気をつけて帰れよ」
駅まで猪狩さんが送ってくれる。
「こちらこそ、ごちそうさまでした」
「帰り着いたらメッセージ入れて。
スタンプだけでもいいからさ。
無事に帰り着いたか心配」
言葉どおり彼は、心配そうに眼鏡の下で眉を寄せた。
「わかりました」
「なんかあったらすぐに連絡して。
あ、なにもなくても電話してきていいからな。
愚痴でもなんでも聞くし。
でも、仕事中とかで出られなかったらごめん」
「はい。
ありがとうございます」
申し訳なさそうに彼が頭を下げる。
過保護な彼に少し、笑っていた。
「じゃあ、また連絡する」
周囲をきょろきょろと見渡し、猪狩さんが一歩、私へと距離を詰めてくる。
「おやすみ、ひな」
次の瞬間、彼の唇が私の額に触れていた。
「えっ、あっ」
「ほら、早く行かないと乗り遅れるぞ」
戸惑っている私を無視して彼が急かしてくる。
「じゃあ、おやすみなさい!」
それだけ言い残し、慌てて改札をくぐる。
ホームに到着したところでちょうど電車が入ってきた。
乗り込んでドア脇のスペースを確保し、携帯を取りだした。
【キスってなに考えてるんですか?】
速攻で猪狩さんにメッセージを送るが、既読にはならない。
彼も今、家に向かっている途中なんだろう。
「……はぁーっ」
ため息をついて携帯をバッグにしまった。
電車の窓ガラスに映る私は少し、嬉しそうな顔をしている。
猪狩さんは嫌いじゃない、むしろ好きだ。
けれどそれは憧れのお兄ちゃんとして子供の頃からアップデートできていない気持ちで、本気の恋愛となるとわからない。
これからの付き合いでそれは変わっていくんだろうか。
「結婚、か」
猪狩さんとならあり寄りのありだが、お仕事がネックなんだよね……。
そんなのも乗り越えられるほど私は、猪狩さんを好きになるんだろうか。
まあ、すべてはこれからだ。
焦って決める必要はない。
それでもさらに格好よくなった猪狩さんからまた可愛がってもらえるのだと思うと、嬉しくなった。
……ちなみに。
帰ったら【妹だからおでこで済ませたんだけど?】と猪狩さんから返信が来ていた。
なんか喰えない男に育っている気がして、これからが少し不安になった。
ちょっと待ってください」
「ん?」
店員を呼び止めてコーヒーを注文していた彼は、怪訝そうに私を見た。
「コーヒー、いらなかった?」
「あ、いえ。
私もコーヒー、お願いします」
「うん。
コーヒー、二つで」
「かしこまりました」
店員が下がり、心を落ち着けるように一度、小さく深呼吸して再び口を開く。
「正直、命の危険がある仕事とか聞いたら、結婚どころか恋愛だって戸惑います。
だってある日突然、いなくなるかもしれないんですよ?」
「まあ、そうだよな」
納得だと彼は頷いた。
「けど、そんな仕事をしている猪狩お兄ちゃんを支えたいとも思います」
つい、昔の癖でお兄ちゃんと出たがかまわない。
だってこれは猪狩さんではなく、私の大好きな猪狩お兄ちゃんに向けたものだ。
私が小さい頃、彼は本当に私を実の妹のように可愛がってくれた。
お祭りで迷子になったときも汗だくになって私を探してくれたし、不審者に声をかけられて硬直している私に気づいて助けてくれた。
母が大事にしている花瓶を割ったときも一緒に謝ってくれた。
こんなにしてくれた猪狩お兄ちゃんは、長く離れていてもやはり私の大事な人だ。
そこに恋愛感情はなくても、彼の力になりたいという気持ちはある。
「ひなちゃん……?」
少し驚いたような、それでいて信じられないというような表情を猪狩さんは浮かべた。
「でも、小さいときならまだしも、今、いきなり恋愛感情を抱くのは難しいっていうか。
だってもう十八年も会ってないんですよ?
私だってあの頃とは変わってますし、猪狩お兄ちゃんだって変わってるでしょう?
それに大人になったから印象だって変わるかもしれません」
「それはそうだ」
彼は私の言いたいことを理解してくれているようで大変助かる。
「だからしばらく、結婚とか抜きにして、昔みたいに妹とお兄ちゃんとして付き合いませんか?
それで今の猪狩お兄ちゃんを知って結婚してもいいかもって気持ちになるかもしれませんし、お兄ちゃんも……やっぱり私とは結婚できないってなるかもしれませんし」
自分で一度、結婚は無理だと言っていながら、彼が断るのはなんか嫌で最後はもごもごと口の中で言ってしまった。
「ひなちゃんが俺と結婚してくれる可能性があるなら、それでいい」
承知したと猪狩さんが大きく首を縦に振る。
「まあ、俺がひなちゃんとの結婚、やめるとかないけどな」
右頬を歪めて彼がにやりと不敵に笑い一瞬、早まった気がした。
支払いでちょっとだけ揉めた。
「えっ、奢ってもらうとか悪いです!」
「いいから、いいから」
お財布を出そうとする私を遮り、彼はお会計をしてしまった。
「恋人なら割り勘もありだけどさ。
俺はお兄ちゃんなの。
妹の分も払うのは当たり前だろ?」
「うっ」
パチンと彼が私に向かって片目をつぶってみせる。
それは一理あるだけになにも言い返せなかった。
「今日は会ってくれてありがとう、楽しかった。
気をつけて帰れよ」
駅まで猪狩さんが送ってくれる。
「こちらこそ、ごちそうさまでした」
「帰り着いたらメッセージ入れて。
スタンプだけでもいいからさ。
無事に帰り着いたか心配」
言葉どおり彼は、心配そうに眼鏡の下で眉を寄せた。
「わかりました」
「なんかあったらすぐに連絡して。
あ、なにもなくても電話してきていいからな。
愚痴でもなんでも聞くし。
でも、仕事中とかで出られなかったらごめん」
「はい。
ありがとうございます」
申し訳なさそうに彼が頭を下げる。
過保護な彼に少し、笑っていた。
「じゃあ、また連絡する」
周囲をきょろきょろと見渡し、猪狩さんが一歩、私へと距離を詰めてくる。
「おやすみ、ひな」
次の瞬間、彼の唇が私の額に触れていた。
「えっ、あっ」
「ほら、早く行かないと乗り遅れるぞ」
戸惑っている私を無視して彼が急かしてくる。
「じゃあ、おやすみなさい!」
それだけ言い残し、慌てて改札をくぐる。
ホームに到着したところでちょうど電車が入ってきた。
乗り込んでドア脇のスペースを確保し、携帯を取りだした。
【キスってなに考えてるんですか?】
速攻で猪狩さんにメッセージを送るが、既読にはならない。
彼も今、家に向かっている途中なんだろう。
「……はぁーっ」
ため息をついて携帯をバッグにしまった。
電車の窓ガラスに映る私は少し、嬉しそうな顔をしている。
猪狩さんは嫌いじゃない、むしろ好きだ。
けれどそれは憧れのお兄ちゃんとして子供の頃からアップデートできていない気持ちで、本気の恋愛となるとわからない。
これからの付き合いでそれは変わっていくんだろうか。
「結婚、か」
猪狩さんとならあり寄りのありだが、お仕事がネックなんだよね……。
そんなのも乗り越えられるほど私は、猪狩さんを好きになるんだろうか。
まあ、すべてはこれからだ。
焦って決める必要はない。
それでもさらに格好よくなった猪狩さんからまた可愛がってもらえるのだと思うと、嬉しくなった。
……ちなみに。
帰ったら【妹だからおでこで済ませたんだけど?】と猪狩さんから返信が来ていた。
なんか喰えない男に育っている気がして、これからが少し不安になった。
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