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記憶を無くした彼
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「悠人!」
恋人の利川悠人が事故に巻き込まれたという連絡を受けた私は病院へ向かった。悠人は包帯を巻いてベッドの上に上半身を起こした状態でいた。
「あ……」
私を見た悠人は戸惑っていたけれど、そんなことお構いなしに抱きついた。
「良かった。良かった」
そう言って泣いている私に、悠人は衝撃的なことを言った。
「誰、あんた」
「えっ……」
「おい、誰って、彼女の野中友恵だろ」
私に連絡をくれた幼なじみの松山芳樹が言ってくれたけれど。
「野中友恵って誰?」
「「え?」」
もしかして記憶がない? そう思って自身の名前や今日が何月何日か分かるか聞いたら、ちゃんと答えた。
「もしかして、私のことだけ忘れてる?」
ショックを受けていたら、病室の扉が開いた。
「あ、七海ちゃん」
もう1人の幼なじみの井上七海が入ってきた。
「大丈夫か、悠人」
七海ちゃんが悠人のそばに行ったら彼はまた衝撃的な行動をとった。
「七海、来てくれたんだな。嬉しいぜ」
そう言った彼は七海ちゃんを抱き寄せてハグをした。
「え」
「おい、悠人どういうつもりだ」
七海ちゃんがそう言って腕から抜け出そうとするけれど、彼は腕の強さを緩めない。むしろ強くしている。
「七海、七海」
そう言えば、悠人は4つ上の七海のことがずっと好きだったな。彼女が大学生になって会う機会が減って、それでしばらくして私が告白したら受け入れてくれたから付き合っていたけれど。
(やっぱり、七海ちゃんのことがまだ好きなのかな。私のこと忘れちゃうくらいどうでも良かったのかな)
そう思ったら悲しくなって私は病室を後にした。その後は芳樹くんに『悠人に私のことは絶対に話さないで』と連絡をして家についたのだった。
悠人とは同い年の幼なじみ。物心ついた時から隣にいて、登下校も一緒で、放課後もよく一緒に遊んでいた。だから好きになるのは私にとって当たり前だった。でも、悠人が好きでよく彼を見ていたから、私は彼が七海ちゃんに恋していることはすぐに気がついた。七海ちゃんには、『可愛いな』とか『浴衣似合ってる』とか、会うたびに必ず褒めていたから。私には、可愛いなとか言ってくれたことないし、夏祭りの時、七海ちゃんと一緒に浴衣を着ても私には何も言わなかったから。だから、ああ、私じゃダメなんだ、と思った。
それから時が経ち、七海ちゃんと芳樹くんが大学進学のために地元を離れることになった。悠人は七海ちゃんたちの前では普通にしていたけれど、引っ越しが終わった後、部屋でこっそり泣いているのに私だけが気がついた。しばらくは落ち込んでいたみたいだけれど、1年ほどで落ち込む姿も泣いている姿も見かけることは無くなった。悠人が七海ちゃんのことを吹っ切ったのかと思い、そのタイミングで私は告白したのだった。
そしたらOKしてくれた。私のことを意識してくれたらいいな、という気持ちで告白したのでまさか交際をしてくれるとは思わなかった。だから私はすごく驚いたけれど、とても嬉しかった。それからの交際は順調だったと思う。悠人が事故に遭うまでの7年ほど、私たちは私たちなりに愛を育んできたと思う。周りのカップルに比べたら進むスピードは少し遅かったかもしれないけれど、ハグもキスも全部、私は悠人と経験した。大学生の時も社会人になってからも、忙しい時でもお互い時間を作ってデートを重ねていた。だから私はこのまま悠人と付き合い続けて結婚もできるのかもしれない、と思っていた。
だけど、あの時の悠人は、その日の日付をちゃんと言えたのに、私のことは忘れてて七海ちゃんのことを抱きしめていた。つまり7年間、彼は七海ちゃんのことを想いながら私と付き合っていたのだ。そういえば付き合っている間、1度も私に『好きだよ』と言ってくれなかったな、と思い出して、私は彼が事故に遭った後初めて泣いたのだった。
恋人の利川悠人が事故に巻き込まれたという連絡を受けた私は病院へ向かった。悠人は包帯を巻いてベッドの上に上半身を起こした状態でいた。
「あ……」
私を見た悠人は戸惑っていたけれど、そんなことお構いなしに抱きついた。
「良かった。良かった」
そう言って泣いている私に、悠人は衝撃的なことを言った。
「誰、あんた」
「えっ……」
「おい、誰って、彼女の野中友恵だろ」
私に連絡をくれた幼なじみの松山芳樹が言ってくれたけれど。
「野中友恵って誰?」
「「え?」」
もしかして記憶がない? そう思って自身の名前や今日が何月何日か分かるか聞いたら、ちゃんと答えた。
「もしかして、私のことだけ忘れてる?」
ショックを受けていたら、病室の扉が開いた。
「あ、七海ちゃん」
もう1人の幼なじみの井上七海が入ってきた。
「大丈夫か、悠人」
七海ちゃんが悠人のそばに行ったら彼はまた衝撃的な行動をとった。
「七海、来てくれたんだな。嬉しいぜ」
そう言った彼は七海ちゃんを抱き寄せてハグをした。
「え」
「おい、悠人どういうつもりだ」
七海ちゃんがそう言って腕から抜け出そうとするけれど、彼は腕の強さを緩めない。むしろ強くしている。
「七海、七海」
そう言えば、悠人は4つ上の七海のことがずっと好きだったな。彼女が大学生になって会う機会が減って、それでしばらくして私が告白したら受け入れてくれたから付き合っていたけれど。
(やっぱり、七海ちゃんのことがまだ好きなのかな。私のこと忘れちゃうくらいどうでも良かったのかな)
そう思ったら悲しくなって私は病室を後にした。その後は芳樹くんに『悠人に私のことは絶対に話さないで』と連絡をして家についたのだった。
悠人とは同い年の幼なじみ。物心ついた時から隣にいて、登下校も一緒で、放課後もよく一緒に遊んでいた。だから好きになるのは私にとって当たり前だった。でも、悠人が好きでよく彼を見ていたから、私は彼が七海ちゃんに恋していることはすぐに気がついた。七海ちゃんには、『可愛いな』とか『浴衣似合ってる』とか、会うたびに必ず褒めていたから。私には、可愛いなとか言ってくれたことないし、夏祭りの時、七海ちゃんと一緒に浴衣を着ても私には何も言わなかったから。だから、ああ、私じゃダメなんだ、と思った。
それから時が経ち、七海ちゃんと芳樹くんが大学進学のために地元を離れることになった。悠人は七海ちゃんたちの前では普通にしていたけれど、引っ越しが終わった後、部屋でこっそり泣いているのに私だけが気がついた。しばらくは落ち込んでいたみたいだけれど、1年ほどで落ち込む姿も泣いている姿も見かけることは無くなった。悠人が七海ちゃんのことを吹っ切ったのかと思い、そのタイミングで私は告白したのだった。
そしたらOKしてくれた。私のことを意識してくれたらいいな、という気持ちで告白したのでまさか交際をしてくれるとは思わなかった。だから私はすごく驚いたけれど、とても嬉しかった。それからの交際は順調だったと思う。悠人が事故に遭うまでの7年ほど、私たちは私たちなりに愛を育んできたと思う。周りのカップルに比べたら進むスピードは少し遅かったかもしれないけれど、ハグもキスも全部、私は悠人と経験した。大学生の時も社会人になってからも、忙しい時でもお互い時間を作ってデートを重ねていた。だから私はこのまま悠人と付き合い続けて結婚もできるのかもしれない、と思っていた。
だけど、あの時の悠人は、その日の日付をちゃんと言えたのに、私のことは忘れてて七海ちゃんのことを抱きしめていた。つまり7年間、彼は七海ちゃんのことを想いながら私と付き合っていたのだ。そういえば付き合っている間、1度も私に『好きだよ』と言ってくれなかったな、と思い出して、私は彼が事故に遭った後初めて泣いたのだった。
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