53 / 271
第一章 新しい生活の始まり
014-5
しおりを挟む
「アシュリー、いくらなんでも薄着過ぎるぞ」
厚手のコート……は無いのです、実は。慌てて村を出たから準備も出来なくて。
説明した所、ラズロさんは頭をガリガリとかいた。
「これだから坊ちゃんは……」
行くぞ、と言って歩き出したラズロさんの後をフルールを抱いて付いて行く。フルールを抱いてると温かい。
最初に入ったのは洋服屋さんだった。
「厨房に立つ事が多いから薄着なのかと思ってたら、最低限の冬着すら持つ余裕も与えてなかったとはな」
ったく、とラズロさんはブツブツ言いながら、服を見て行く。
突然振り向いて、僕の鼻先を指で突く。
「金の事を口にするのは禁止だ。言ったらくすぐりの刑だぞ」
えっ、くすぐり! それは嫌です!
ラズロさんは服を選んでは僕の身体に当てて、いいな、とか、思ってたのと違うな、と呟く。
付いて歩いてるだけなのに、疲れて来た。
「よし、決めたぞ」
ラズロさんは厚手のチュニックを5枚、ベストを3枚、ズボンを3本と、手袋、コート、靴底のあるブーツを選び、会計をさっさと済ませてしまった。
止めようとしたけど、間に合わなかった。
「コートはこのまま着て行こう。あと手袋も。後は城に届けてくれ」
店員さんは笑顔で頷いた。
「ほら」
渡されたコートを羽織る。膝まで丈があって、表は皮、中側は毛皮だった。もふもふとして温かい。
「手袋もしとけ」
手袋は子供の僕にもぴったりの大きさだった。こんな小さな手袋まであるなんて、王都って凄い。僕が村で使っていた手袋は大人用しかなかった。
「ありがとうございます、ラズロさん」
「気にすんな。請求は全部クリフとノエルに回す」
「えっ!」
「さっきも言ったけどな、もう冬が見えてるっつーのに、冬着も持たせずに連れて来たのはあの、出来の良いお坊ちゃん二人だ。アシュリーの荷物が少し増えたぐらい、大した事なかったろうに、それすら気遣ってやれてねぇんだから、良いんだよ」
「で、でも」
「この程度の気遣いも出来ないとな、女にモテないんだって事を教えてやってんだよ」
僕の洋服と女の人にモテる事がイマイチ結びつかない。
「さ、行くぞ」
僕とフルールは慌ててラズロさんの後を追い駆けた。
行商人のお店は、露店だった。お店を構えていないから、それもそうだよね。
村に来た行商人は、酒場の一角で商いをしていたなぁ。
「ラズロ」
店主っぽい人がラズロさんに向けて笑顔で手を上げる。
「おぅ、邪魔するぞ」
台の上に並ぶ商品は、見た事がない物ばっかりだった。
「今回は何処だ?」
「西だよ」
「西も色々あんだろ」
「ラズロが気に入りそうなのは、練香かな」
「ほー」
ネリコウ?
ラズロさんは練香と呼ばれる物を見てる。
見ると、香りのする小さな塊みたい。一つひとつを手に取って香りを確認してる。
「ラズロの連れの君、名前は? オレはイースタンって言うんだ」
突然話しかけられてびっくりしてしまった。
イースタンと名乗った行商人の人は、褐色の肌で、金髪、緑色の瞳をしていた。
「あ、初めまして。アシュリーといいます」
「アシュリーか、よろしくね。
どんな物が好き? ここ以外にも物はあるから、言ってくれれば探してくるけど」
好きな物……。
「今欲しいのは、薬研とスポンジと羽毛です」
「は? 羽毛? もしかして君、ロニタ村の出身?」
「!」
何で羽毛から村の名前が?!
驚いてる僕を見て、イースタンさんは目を細めて笑った。
「あはは、当たりだ。ロニタ村の人は羽毛を入れた布団を好んで、村から出た後、わざわざ羽毛を入手してまで作るって聞いた事があってさ」
「そうなんですね。僕も同じ事を考えてました」
「残念ながら羽毛の取り扱いはないなぁ。それに今から入手して作っても間に合わないし」
そうなんだよね。どうしよう。
村から持ってくれば良かったのかな……。
でもあんな嵩張るもの持って来れなかったし、羽毛布団が一般的じゃないなんて思わなかった……。
「今回の冬は諦めて、別の物を探したらどう?」
「そうですよね。来年に向けて準備します」
何でもかんでもノエルさんやクリフさんに頼りたくはないし。王都になら羽毛を扱ってるお店があるかも知れないし!
僕は結局何も買わず、ラズロさんは練香をいくつも買っていた。全部自分で使うのかな?
厚手のコート……は無いのです、実は。慌てて村を出たから準備も出来なくて。
説明した所、ラズロさんは頭をガリガリとかいた。
「これだから坊ちゃんは……」
行くぞ、と言って歩き出したラズロさんの後をフルールを抱いて付いて行く。フルールを抱いてると温かい。
最初に入ったのは洋服屋さんだった。
「厨房に立つ事が多いから薄着なのかと思ってたら、最低限の冬着すら持つ余裕も与えてなかったとはな」
ったく、とラズロさんはブツブツ言いながら、服を見て行く。
突然振り向いて、僕の鼻先を指で突く。
「金の事を口にするのは禁止だ。言ったらくすぐりの刑だぞ」
えっ、くすぐり! それは嫌です!
ラズロさんは服を選んでは僕の身体に当てて、いいな、とか、思ってたのと違うな、と呟く。
付いて歩いてるだけなのに、疲れて来た。
「よし、決めたぞ」
ラズロさんは厚手のチュニックを5枚、ベストを3枚、ズボンを3本と、手袋、コート、靴底のあるブーツを選び、会計をさっさと済ませてしまった。
止めようとしたけど、間に合わなかった。
「コートはこのまま着て行こう。あと手袋も。後は城に届けてくれ」
店員さんは笑顔で頷いた。
「ほら」
渡されたコートを羽織る。膝まで丈があって、表は皮、中側は毛皮だった。もふもふとして温かい。
「手袋もしとけ」
手袋は子供の僕にもぴったりの大きさだった。こんな小さな手袋まであるなんて、王都って凄い。僕が村で使っていた手袋は大人用しかなかった。
「ありがとうございます、ラズロさん」
「気にすんな。請求は全部クリフとノエルに回す」
「えっ!」
「さっきも言ったけどな、もう冬が見えてるっつーのに、冬着も持たせずに連れて来たのはあの、出来の良いお坊ちゃん二人だ。アシュリーの荷物が少し増えたぐらい、大した事なかったろうに、それすら気遣ってやれてねぇんだから、良いんだよ」
「で、でも」
「この程度の気遣いも出来ないとな、女にモテないんだって事を教えてやってんだよ」
僕の洋服と女の人にモテる事がイマイチ結びつかない。
「さ、行くぞ」
僕とフルールは慌ててラズロさんの後を追い駆けた。
行商人のお店は、露店だった。お店を構えていないから、それもそうだよね。
村に来た行商人は、酒場の一角で商いをしていたなぁ。
「ラズロ」
店主っぽい人がラズロさんに向けて笑顔で手を上げる。
「おぅ、邪魔するぞ」
台の上に並ぶ商品は、見た事がない物ばっかりだった。
「今回は何処だ?」
「西だよ」
「西も色々あんだろ」
「ラズロが気に入りそうなのは、練香かな」
「ほー」
ネリコウ?
ラズロさんは練香と呼ばれる物を見てる。
見ると、香りのする小さな塊みたい。一つひとつを手に取って香りを確認してる。
「ラズロの連れの君、名前は? オレはイースタンって言うんだ」
突然話しかけられてびっくりしてしまった。
イースタンと名乗った行商人の人は、褐色の肌で、金髪、緑色の瞳をしていた。
「あ、初めまして。アシュリーといいます」
「アシュリーか、よろしくね。
どんな物が好き? ここ以外にも物はあるから、言ってくれれば探してくるけど」
好きな物……。
「今欲しいのは、薬研とスポンジと羽毛です」
「は? 羽毛? もしかして君、ロニタ村の出身?」
「!」
何で羽毛から村の名前が?!
驚いてる僕を見て、イースタンさんは目を細めて笑った。
「あはは、当たりだ。ロニタ村の人は羽毛を入れた布団を好んで、村から出た後、わざわざ羽毛を入手してまで作るって聞いた事があってさ」
「そうなんですね。僕も同じ事を考えてました」
「残念ながら羽毛の取り扱いはないなぁ。それに今から入手して作っても間に合わないし」
そうなんだよね。どうしよう。
村から持ってくれば良かったのかな……。
でもあんな嵩張るもの持って来れなかったし、羽毛布団が一般的じゃないなんて思わなかった……。
「今回の冬は諦めて、別の物を探したらどう?」
「そうですよね。来年に向けて準備します」
何でもかんでもノエルさんやクリフさんに頼りたくはないし。王都になら羽毛を扱ってるお店があるかも知れないし!
僕は結局何も買わず、ラズロさんは練香をいくつも買っていた。全部自分で使うのかな?
16
あなたにおすすめの小説
劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
転生したら神だった。どうすんの?
埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの?
人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。
異世界ママ、今日も元気に無双中!
チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。
ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!?
目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流!
「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」
おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘!
魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!
目つきが悪いと仲間に捨てられてから、魔眼で全てを射貫くまで。
桐山じゃろ
ファンタジー
高校二年生の横伏藤太はある日突然、あまり接点のないクラスメイトと一緒に元いた世界からファンタジーな世界へ召喚された。初めのうちは同じ災難にあった者同士仲良くしていたが、横伏だけが強くならない。召喚した連中から「勇者の再来」と言われている不東に「目つきが怖い上に弱すぎる」という理由で、森で魔物にやられた後、そのまま捨てられた。……こんなところで死んでたまるか! 奮起と同時に意味不明理解不能だったスキル[魔眼]が覚醒し無双モードへ突入。その後は別の国で召喚されていた同じ学校の女の子たちに囲まれて一緒に暮らすことに。一方、捨てた連中はなんだか勝手に酷い目に遭っているようです。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを掲載しています。
外れスキル【削除&復元】が実は最強でした~色んなものを消して相手に押し付けたり自分のものにしたりする能力を得た少年の成り上がり~
名無し
ファンタジー
突如パーティーから追放されてしまった主人公のカイン。彼のスキルは【削除&復元】といって、荷物係しかできない無能だと思われていたのだ。独りぼっちとなったカインは、ギルドで仲間を募るも意地悪な男にバカにされてしまうが、それがきっかけで頭痛や相手のスキルさえも削除できる力があると知る。カインは一流冒険者として名を馳せるという夢をかなえるべく、色んなものを削除、復元して自分ものにしていき、またたく間に最強の冒険者へと駆け上がっていくのだった……。
【完結】魔術師なのはヒミツで薬師になりました
すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
ティモシーは、魔術師の少年だった。人には知られてはいけないヒミツを隠し、薬師(くすし)の国と名高いエクランド国で薬師になる試験を受けるも、それは年に一度の王宮専属薬師になる試験だった。本当は普通の試験でよかったのだが、見事に合格を果たす。見た目が美少女のティモシーは、トラブルに合うもまだ平穏な方だった。魔術師の組織の影がちらつき、彼は次第に大きな運命に飲み込まれていく……。
神樹の里で暮らす創造魔法使い ~幻獣たちとののんびりライフ~
あきさけ
ファンタジー
貧乏な田舎村を追い出された少年〝シント〟は森の中をあてどなくさまよい一本の新木を発見する。
それは本当に小さな新木だったがかすかな光を帯びた不思議な木。
彼が不思議そうに新木を見つめているとそこから『私に魔法をかけてほしい』という声が聞こえた。
シントが唯一使えたのは〝創造魔法〟といういままでまともに使えた試しのないもの。
それでも森の中でこのまま死ぬよりはまだいいだろうと考え魔法をかける。
すると新木は一気に生長し、天をつくほどの巨木にまで変化しそこから新木に宿っていたという聖霊まで姿を現した。
〝この地はあなたが創造した聖地。あなたがこの地を去らない限りこの地を必要とするもの以外は誰も踏み入れませんよ〟
そんな言葉から始まるシントののんびりとした生活。
同じように行き場を失った少女や幻獣や精霊、妖精たちなど様々な面々が集まり織りなすスローライフの幕開けです。
※この小説はカクヨム様でも連載しています。アルファポリス様とカクヨム様以外の場所では公開しておりません。
神の加護を受けて異世界に
モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。
その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。
そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる