前代未聞のダンジョンメーカー

黛 ちまた

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第一章 新しい生活の始まり

016-1

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 ようやく乾いたカラシナの種を、熱湯でキレイにした瓶に入れる。
 サイモンさんからもらったカラシナは結構な量だったから、種の数もかなりある。出来上がったらザックさんとサイモンさんにも渡そう。
 皆にも粒マスタードの美味しさを知ってもらいたいし。
 五つの瓶に塩を入れて、種を入れる。ネギをみじん切りにしたものと、蜂蜜も加えてから、ザックさんからもらった白ワインビネガーをひたひたになるように注ぐ。

「どうせ吸うんだから、もっと入れちゃ駄目なのか?」

「そうすると上手くいかないって教わったんです」

「楽できねぇなぁ」

 ブツブツ言いながら、全部の瓶の種に、ひたひたになるように白ワインビネガーを注ぐラズロさん。

「これは氷室に入れんのか?」

「いえ、このままです」

 種からぷくぷくと上がる気泡を見て、おぉ、と嬉しそうにするラズロさんに、僕も嬉しくなる。

「ラズロさんが手伝ってくれたから、きっと美味しく出来ますね」

 ラズロさんが目をぱちぱちさせた後、「ノエルの気持ちが分かった気がする」と言った。
 ノエルさんの気持ち? え? 何だろう?

「気にすんな、うん、気にしないでくれ」

「分かりました」

 明日になったら、乾燥した種がたっぷり白ワインビネガーを吸うから、またひたひたになるように継ぎ足す。
 3~4日そのままにしておく。最近寒いから、4~5日置いてもいいかもしれない。
 種がパンパンに膨らむまで待って、潰したら山のように積み上げて放って置く。種の殻が柔らかくなるまで数日置くと、ツーンとした刺さる臭いが落ち着いてくる。
 そうしたら味見が出来るようになる。ラズロさん、待てるかな……?



 端肉をまた煮込む。
 何処から知ったのか、端肉が更に運び込まれて来たので、僕は毎日のように端肉を煮込んでる。
 煮込んでる間は部屋が暖かくなるし、食べたら美味しいからと、皆には好評で、休憩に来る人も増えた。
 僕が字の練習をしていたりすると、文官の人がわざわざ教えてくれたり、子供向けの本を持ってきてくれる。

「最近忙しそうだな」

 休憩にやって来たノエルさんの前に、ラズロさんがコーヒーを置く。
 ノエルさんの顔に疲労が見える。

「今年は冬が早い分、病が流行るかも知れない」

 ノエルさんはため息を吐く。

「病は風に運ばれて来るからなぁ」

 ラズロさんも困ったように頭をかく。
 本当に風が運んで来る訳ではないんだけど、人や動物によって運ばれたりするのは分かってる。でも、昔からそう言われる。

「ノエルさん、ごはん、食べれてますか?」

 ここの所ランチの時間にノエルさんは食堂に来ていない。トキア様も忙しそうなので、文字の勉強もしていない。

「食べる時間が取れなくって」

 胸ポケットから懐中時計を取り出すと、行かなきゃ、と呟くように言って立ち上がる。
 じゃあね、と言って食堂を出て行くノエルさん。

「ラズロさん、ノエルさん達はどんなことをしてるんですか?」

「冬が早いって事は、それだけ食物が足りなくなるって事だ。そうなれば魔物は人を襲う。空気が乾燥する所為で山火事も起きやすくなる。そうなったら魔法師団が魔法で火事を収束させる。魔物が群れを作り始めたり、強い魔物が現れたと聞けば騎士団も、魔法師団も出動する」

 はぁ、とラズロさんもため息を吐く。

「その為に、各地の状況を詳細に確認しておく。被害を最小限にする為にな」

 今は来るべき時の為に準備をしているのかな。
 村でも冬は魔物が攻めてくる事があって、魔女がいつも撃退してくれていた。
 僕にもっと魔力があれば、お手伝い出来るんだろうけど、出来ないし……。

「ラズロさん、トキア様に作ってるパニーノを、もっと沢山作ったら、皆食べてくれると思いますか? あれだけだと身体が温まらないから、スープも作りたいです」

「おぅ、作ってやれ作ってやれ、泣いて喜ぶぞ。早速今から作ろうぜ」

「はいっ」
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