60 / 271
第一章 新しい生活の始まり
016-3
しおりを挟む
パニーノとスープをワゴンに乗せてラズロさんと配りに行く。断られる事もあるだろうと思うけど。
まずは魔法師団の人達の部屋に行く。
忙しそうにバタバタと走る人達。
この部屋には毎日トキア様用の食事を持って行ってるから、すっかり顔見知りで、そのまま一番奥のトキア様の部屋に通される。
トキア様の部屋に入ると、ノエルさんもいた。
「いらっしゃい、アシュリー」
疲れているのに笑顔を見せてくれるノエルさん。でも、顔から疲れが滲み出てる。
「あの、トキア様」
「どうかしたか?」
「ご迷惑でなければ、魔法師団の皆さんにも、パニーノを食べていただきたいんですけど、駄目でしょうか?」
「それは願ってもない事だが、食堂で通常の仕事もしながらだろう? 大変ではないのか?」
「食堂は忙しくないんです。食べに来る人が減ったので」
「とは言え、食堂への人員募集は取りやめになった。負担は変わらぬぞ?」
そう言ってトキア様はノエルさんを見た。ノエルさんがそっと視線を逸らす。ラズロさんの言ってた、採用に反対した人、ノエルさんなのか……。
「出来る範囲で頑張ります。それに食材がいっぱいなんです」
どう言う事だ? と言いたげな顔でラズロさんを見るトキア様。ラズロさんが僕に話してくれたのと同じ内容を話すと、トキア様は頷いた。
「我等としては大変助かるが、無理のない範囲で構わない。団員達にも、食堂からの好意によるものであると伝えておく」
「ありがとうございます」
「アシュリー、この差し入れは、他の省にもいくらか回せるか?」
「はい、出来ます」
トキア様は頷いて、ラズロさんの方を向いた。
「明日からは持って来なくて良い。こちらから取りに行かせるし、食べに行ける者は食べに行かせる。作りすぎは気にしなくて良い。とにかく出来る限り作ってくれ。
他の省には私から連絡しておく」
「分かりました」とラズロさんが頷いた。
「ありがとう、アシュリー。凄い嬉しいよ」
ノエルさんに抱きしめられた。最近全然食べられてないって言ってたもんね。
簡易な食事だけど、食べられないよりはいくらか良いと思う。
それに、本当に食材が減らなくて、それなのに冬用の食材が運び込まれてて、どうしようって思ってたのは本当なんだよね。
魔法師団の執務室を出てから、クリフさんの騎士団の詰所に向かった。
ラズロさんがいたから、すぐに中に通してもらえた。僕はまだ、騎士団の人達とはあんまり面識がない。騎士団の人達は食堂に来ないから。
団長室に通された。
緊張する。騎士団長は、とってもとっても偉い人だって聞いてたから。本当だったら、僕なんか一生会えない人だって。
大きな机に、立派な髭の鋭い眼光をした人が座っていた。あれが噂の騎士団長……?
「ラズロ? どうした? それにアシュリーも」
クリフさんが寄ってきて、僕の頭を撫でた。大きい手に撫でられると、父さんを思い出す。
「今年の冬は過酷になる事を想定して各所が対応に当たってると聞いています。まともに皆さんが食事も取る余裕がないとも。それで、出来る範囲ではありますが、簡易的な食事を提供出来ないかとお持ちしました」
「魔法師団長がいつも召し上がっていると言う奴か?」
クリフさんの問いにラズロさんが頷く。
さっきのラズロさん、いつものラズロさんっぽくなかった。大人って凄い。
「そなた、名は?」
突然団長に話しかけられてびっくりしたけど、慌ててお辞儀をする。
「アシュリーといいます」
「アシュリー、騎士団はそなたも知っての通り身体を資本とする。差し入れ、有り難く頂戴する。出来るなら多めで頼む。儂も食べたいからな」
「閣下が召し上がるのですか?」
驚いた顔でクリフさんが団長を見てる。ラズロさんも。
「何かおかしいか?」
「閣下の御身は……」
鼻で笑うと、団長は立ち上がって、あっという間に僕の前にやって来た。大きな身体! クリフさんより大きい?
「!」
脇の下に手を入れられ、抱き上げられた。
「そなた、小さいな。ちゃんと食べておるか?」
「は、はい、食べております」
「レイモンドに似ておる」
レイモンド?
クリフさんが俯く。
「儂の息子の名だ。そなたと同じ瞳の色、髪の色をしておった。そなたより身体は大きかったがな」
もしかして……そのレイモンド様は……。
団長はため息を吐いた。
悪い予感というのか、悲しい過去の話が続きそうで、身構えていると、予想外の事を団長が言った。
「儂の後など継がぬ、と言って、あろう事か女の姿で出奔しおって!」
…………えっ?
どうすれば良いのか分からなくてクリフさんを見る。困った顔をしてため息を吐いてる。
色々、あるんだな、って思った。
まずは魔法師団の人達の部屋に行く。
忙しそうにバタバタと走る人達。
この部屋には毎日トキア様用の食事を持って行ってるから、すっかり顔見知りで、そのまま一番奥のトキア様の部屋に通される。
トキア様の部屋に入ると、ノエルさんもいた。
「いらっしゃい、アシュリー」
疲れているのに笑顔を見せてくれるノエルさん。でも、顔から疲れが滲み出てる。
「あの、トキア様」
「どうかしたか?」
「ご迷惑でなければ、魔法師団の皆さんにも、パニーノを食べていただきたいんですけど、駄目でしょうか?」
「それは願ってもない事だが、食堂で通常の仕事もしながらだろう? 大変ではないのか?」
「食堂は忙しくないんです。食べに来る人が減ったので」
「とは言え、食堂への人員募集は取りやめになった。負担は変わらぬぞ?」
そう言ってトキア様はノエルさんを見た。ノエルさんがそっと視線を逸らす。ラズロさんの言ってた、採用に反対した人、ノエルさんなのか……。
「出来る範囲で頑張ります。それに食材がいっぱいなんです」
どう言う事だ? と言いたげな顔でラズロさんを見るトキア様。ラズロさんが僕に話してくれたのと同じ内容を話すと、トキア様は頷いた。
「我等としては大変助かるが、無理のない範囲で構わない。団員達にも、食堂からの好意によるものであると伝えておく」
「ありがとうございます」
「アシュリー、この差し入れは、他の省にもいくらか回せるか?」
「はい、出来ます」
トキア様は頷いて、ラズロさんの方を向いた。
「明日からは持って来なくて良い。こちらから取りに行かせるし、食べに行ける者は食べに行かせる。作りすぎは気にしなくて良い。とにかく出来る限り作ってくれ。
他の省には私から連絡しておく」
「分かりました」とラズロさんが頷いた。
「ありがとう、アシュリー。凄い嬉しいよ」
ノエルさんに抱きしめられた。最近全然食べられてないって言ってたもんね。
簡易な食事だけど、食べられないよりはいくらか良いと思う。
それに、本当に食材が減らなくて、それなのに冬用の食材が運び込まれてて、どうしようって思ってたのは本当なんだよね。
魔法師団の執務室を出てから、クリフさんの騎士団の詰所に向かった。
ラズロさんがいたから、すぐに中に通してもらえた。僕はまだ、騎士団の人達とはあんまり面識がない。騎士団の人達は食堂に来ないから。
団長室に通された。
緊張する。騎士団長は、とってもとっても偉い人だって聞いてたから。本当だったら、僕なんか一生会えない人だって。
大きな机に、立派な髭の鋭い眼光をした人が座っていた。あれが噂の騎士団長……?
「ラズロ? どうした? それにアシュリーも」
クリフさんが寄ってきて、僕の頭を撫でた。大きい手に撫でられると、父さんを思い出す。
「今年の冬は過酷になる事を想定して各所が対応に当たってると聞いています。まともに皆さんが食事も取る余裕がないとも。それで、出来る範囲ではありますが、簡易的な食事を提供出来ないかとお持ちしました」
「魔法師団長がいつも召し上がっていると言う奴か?」
クリフさんの問いにラズロさんが頷く。
さっきのラズロさん、いつものラズロさんっぽくなかった。大人って凄い。
「そなた、名は?」
突然団長に話しかけられてびっくりしたけど、慌ててお辞儀をする。
「アシュリーといいます」
「アシュリー、騎士団はそなたも知っての通り身体を資本とする。差し入れ、有り難く頂戴する。出来るなら多めで頼む。儂も食べたいからな」
「閣下が召し上がるのですか?」
驚いた顔でクリフさんが団長を見てる。ラズロさんも。
「何かおかしいか?」
「閣下の御身は……」
鼻で笑うと、団長は立ち上がって、あっという間に僕の前にやって来た。大きな身体! クリフさんより大きい?
「!」
脇の下に手を入れられ、抱き上げられた。
「そなた、小さいな。ちゃんと食べておるか?」
「は、はい、食べております」
「レイモンドに似ておる」
レイモンド?
クリフさんが俯く。
「儂の息子の名だ。そなたと同じ瞳の色、髪の色をしておった。そなたより身体は大きかったがな」
もしかして……そのレイモンド様は……。
団長はため息を吐いた。
悪い予感というのか、悲しい過去の話が続きそうで、身構えていると、予想外の事を団長が言った。
「儂の後など継がぬ、と言って、あろう事か女の姿で出奔しおって!」
…………えっ?
どうすれば良いのか分からなくてクリフさんを見る。困った顔をしてため息を吐いてる。
色々、あるんだな、って思った。
16
あなたにおすすめの小説
劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
転生したら神だった。どうすんの?
埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの?
人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。
異世界ママ、今日も元気に無双中!
チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。
ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!?
目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流!
「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」
おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘!
魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!
目つきが悪いと仲間に捨てられてから、魔眼で全てを射貫くまで。
桐山じゃろ
ファンタジー
高校二年生の横伏藤太はある日突然、あまり接点のないクラスメイトと一緒に元いた世界からファンタジーな世界へ召喚された。初めのうちは同じ災難にあった者同士仲良くしていたが、横伏だけが強くならない。召喚した連中から「勇者の再来」と言われている不東に「目つきが怖い上に弱すぎる」という理由で、森で魔物にやられた後、そのまま捨てられた。……こんなところで死んでたまるか! 奮起と同時に意味不明理解不能だったスキル[魔眼]が覚醒し無双モードへ突入。その後は別の国で召喚されていた同じ学校の女の子たちに囲まれて一緒に暮らすことに。一方、捨てた連中はなんだか勝手に酷い目に遭っているようです。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを掲載しています。
外れスキル【削除&復元】が実は最強でした~色んなものを消して相手に押し付けたり自分のものにしたりする能力を得た少年の成り上がり~
名無し
ファンタジー
突如パーティーから追放されてしまった主人公のカイン。彼のスキルは【削除&復元】といって、荷物係しかできない無能だと思われていたのだ。独りぼっちとなったカインは、ギルドで仲間を募るも意地悪な男にバカにされてしまうが、それがきっかけで頭痛や相手のスキルさえも削除できる力があると知る。カインは一流冒険者として名を馳せるという夢をかなえるべく、色んなものを削除、復元して自分ものにしていき、またたく間に最強の冒険者へと駆け上がっていくのだった……。
【完結】魔術師なのはヒミツで薬師になりました
すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
ティモシーは、魔術師の少年だった。人には知られてはいけないヒミツを隠し、薬師(くすし)の国と名高いエクランド国で薬師になる試験を受けるも、それは年に一度の王宮専属薬師になる試験だった。本当は普通の試験でよかったのだが、見事に合格を果たす。見た目が美少女のティモシーは、トラブルに合うもまだ平穏な方だった。魔術師の組織の影がちらつき、彼は次第に大きな運命に飲み込まれていく……。
神樹の里で暮らす創造魔法使い ~幻獣たちとののんびりライフ~
あきさけ
ファンタジー
貧乏な田舎村を追い出された少年〝シント〟は森の中をあてどなくさまよい一本の新木を発見する。
それは本当に小さな新木だったがかすかな光を帯びた不思議な木。
彼が不思議そうに新木を見つめているとそこから『私に魔法をかけてほしい』という声が聞こえた。
シントが唯一使えたのは〝創造魔法〟といういままでまともに使えた試しのないもの。
それでも森の中でこのまま死ぬよりはまだいいだろうと考え魔法をかける。
すると新木は一気に生長し、天をつくほどの巨木にまで変化しそこから新木に宿っていたという聖霊まで姿を現した。
〝この地はあなたが創造した聖地。あなたがこの地を去らない限りこの地を必要とするもの以外は誰も踏み入れませんよ〟
そんな言葉から始まるシントののんびりとした生活。
同じように行き場を失った少女や幻獣や精霊、妖精たちなど様々な面々が集まり織りなすスローライフの幕開けです。
※この小説はカクヨム様でも連載しています。アルファポリス様とカクヨム様以外の場所では公開しておりません。
神の加護を受けて異世界に
モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。
その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。
そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる