前代未聞のダンジョンメーカー

黛 ちまた

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第二章 マレビト

021-2

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「あー、くたびれたー」

 ラズロさんの声と、大きな物が床に下される音がした。
 どす、って。
 大きな袋を持って出かけたのは知ってたんだけど、あの袋の中、何が入ってるんだろう……?

「ラズロ、おかえり」

 ノエルさんがラズロさんに声をかける。

「あんだけ昼に大盛り食っておいて、今度はスープ食ってるとか、おまえの腹はどうなってんだよ?」

「アシュリーの作る料理は美味しいから、いくらでも入るよ。それに魔法使いは胃が丈夫じゃないともたないからね」

 使った魔力は食べる事で回復する。あとは睡眠。

「お? そいつが噂の魔術師殿か?」

 ノエルさんに促されて、ナインさんがラズロさんに挨拶する。
 ラズロさんはナインさんの頭をガシガシと撫でると、「声がちっせぇなぁ。うちで美味いもんいっぱい食って大きくなれよ!」

 ナインさんは泣きそうな、でも嬉しそうな顔で頷いた。

「ティールじゃ、まともに飯も食わせてもらえねぇだろうからなぁ」

 ティールさん? ナインさんは魔術師長の養子に入った、って前にノエルさんが言ってたから、その魔術師長の事かな?
 そうなんだよね、とノエルさんも答える。

「だから毎食ここに食いに来いよ。風呂もあるからな」

 風呂、と言う言葉にナインさんが身体を震わせる。それを見てノエルさんが背中を撫でた。

「大丈夫、この国のお風呂は温かくてほっと出来るものだから、安心して」

「あー、悪ぃな、ナイン」

 話の流れからして、ナインさんの記憶の中のお風呂は、とっても怖いものだったんだろうな。
 生まれた国によって、まったく別の生活で……。

「ふかふかのタオルとせっけん、用意しておきますね」

 僕がそう言うと、ノエルさんが頷いた。

「ありがとう、アシュリー」



 ノエルさんとナインさんがいなくなった後、ラズロさんは買ってきた食材を片付け終えて、僕のやっていた仕込みを手伝ってくれた。

「それにしても、あんな子供を、魔術師のスキル持ちだ、ってだけで奴隷にするっつーんだから、腐ってやがるな、あの国の奴らは」

 ブツブツと文句を言いながらタマネギをみじん切りにしていくラズロさん。心なしかみじん切りの早さがいつもより増している気がする。

「……僕、奴隷だった人を初めて見ました」

 身なりはノエルさん達に整えられてきたのだろう、髪は切られて長さも整っていたし、服もちゃんとしたものを着ていた。
 でも、白い腕は骨の形が分かるぐらいに細かった。

「ナイン太らせ計画を実行しようぜ!」

「それも良いですけど、ナインさんにとっては全部が目新しいものばっかりだと思うんです。だから、ここでの普通を知って、もう危なくないんだ、って知ってもらいたいなぁ」

「アシュリー、おまえ、実は年齢詐称してない?」

「ジジ臭いは言われた事ありますよー」

「いや、ジジ臭いじゃなくて、おまえ、ジジイだろ?
なんだその達観ぶりは」

「そうかなぁ」

 スキルを与えられて、それが全部中途半端で、みんなにがっかりした顔で見られて。でもみんな優しいから、慰めてくれた。
 ありがたい事だったけど、胸がちょっと痛かった。
 僕は何者にもなれない気がして。
 七歳で人生が決まってしまったと、不貞腐れていた僕に、魔女は言った。

『アレはただの指標だ。私は魔女だが、魔女と言うスキルはこの世に存在しない』

 てっきりあるのだと思っていた僕は驚いて、どうして魔女になったのかと尋ねてみた。

『面白そうだったから』

 あんまりな答えにぽかんとしてる僕に、魔女は言った。

『私の元で色々学ぶが良い。スキルだけで生き抜ける程世の中は甘くない。沢山の事を学べ、アシュリー』

 そう言って僕に、魔女はタマネギスープの作り方を教えてくれて。優しいなぁ、と思ったら二日酔いに効くからだと後になって知った。

「僕、まだまだ、知らない事ばっかりです」

 ラズロさんは笑って、「まだ先は長いんだから、おまえも人生を楽しめよ」と言った。
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