前代未聞のダンジョンメーカー

黛 ちまた

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第二章 マレビト

022-3

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 ナインさんが去って行った後、フルールに野菜の切れ端をあげてみた。
 シャクシャクシャクシャクシャク……。

「何度聞いても惚れ惚れするぐらい良い音させてんなぁ」

 ラズロさんが言った。
 同感です。

「ナインさんがイチゴを食べてる姿と、フルールの食べてる姿、似てませんか?」

「……言わんとする事は分かる。ナインのあの怯えた感じは若干小動物的な所があるな」

 うんうん、と頷くラズロさん。

「最近少し喋ってくれるようになったんです」

「年も近いし、毎日机並べて勉強してんだし、飯も作ってやってるしなぁ。懐くわな」

「懐くってまた、ラズロさん。
ナインさん、一生懸命食べてくれますよね」

 ため息を吐くと、ラズロさんはミルク入りでいいな? と聞いてきたので、頷いた。
 珈琲を入れてくれるらしい。

「ノエルとクリフから聞いた話だとな、かなり劣悪な環境で生きてきたらしい。食事もまともなものは与えられねぇし、着るものだってそうだ。
奴隷ってのは、人として扱ってもらえねぇ。家畜の方がマシだろうと思うのもある……」

 家畜……。

「オレ達のいるこの国では奴隷は廃止されてる。奴隷を他国から買い求めた場合は没収される。
他国では犯罪を犯して奴隷になる、なんてのもあるらしいがな。ここでは、罪に対しては罰を与えるが、奴隷はねぇんだよ」

 二人とも少しの間黙り込む。
 ミルクのたっぷり入った珈琲を渡された。

「色々思う事はあるが……ナインがこの国に来て良かったと思ってもらえるようにしねぇとな」

「はい」

「あ、そうだ。エスナがそろそろここを立つって言ってたんだよ。ノエルとナインを誘って宵鍋行こうぜ」

 エスナさんは吟遊詩人だから、新しい場所に行くんだよね。

「飲み終えたら、ノエルさんに伝えてきますね」

「おぅ」

 春は旅立ちの季節って言うけど。
 どれだけの人が旅に出るんだろう。
 色んな理由で旅に出る人がいるんだろうけど、あちこちの国を旅するって、どんな気分なのかな。
 見た事もないものを見て、色んな人に会って……。

「旅なんてのはな、根無し草がやるもんだ」

「根無し草?」

 あぁ、と答えてラズロさんは珈琲を飲んだ。

「生まれた場所が自分の場所じゃないと感じて、旅に出る」

 自分の場所じゃない……。

「何処ででも根を張れる器用な奴もいるけどな、大抵旅をする奴は不器用な奴が多いもんだ。
……あ、手先って意味じゃねぇぞ? 性格的なもんな」

 ラズロさんの言わんとする事は分かる。

「居場所は土地の場合もあるけどな、探しても見つからねぇ場合はな、探しもんが違ってんだよ」

「探しものが、違う?」

「そいつにとっての唯一無二の人間を探してたりするんだよ、無自覚にな」

 唯一無二の相手……。
 結婚相手の事?

 頭を優しくぽんぽんされた。

「アシュリーも、いつか分かるだろうよ」

 なんだか、難しい事を言われた気がする。
 でもなんとなく、分かる。

 ナインさんにとっての居場所が、この国になるといいなぁ。
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