前代未聞のダンジョンメーカー

黛 ちまた

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第二章 マレビト

022-4

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 宵鍋の重い扉を潜ると、店の中はもう先に来た客でいっぱいだった。
 僕たちに気付いたザックさんが、軽く手をあげて歓迎してくれた。
 店の舞台で、エスナさんが歌ってる。テンポの良い曲で、手拍子をするお客さんもいる。

 席に案内されて、ナインさん、僕、フルールで並んで座った。正面にラズロさんとノエルさんが座る。

「お飲み物からご注文を承りまぁす」

 いつものお姉さんが注文を取りに来てくれた。

「オレ達にはエールを。コイツらには季節のジュースを頼む」

「はぁい」

 ナインさんは店内のあちこちを見回している。
 まだ店、と名の付く場所には行った事がなかったらしい。最初が宵鍋って良いのかな悪いのかな。飲み屋さんだし。
 あ、でも、僕も宵鍋以外の飲み屋さんには行った事ないな。大人になったら行くのかな。

「人の声、凄い。怒ってる……?」

 ナインさんが呟くように聞いてきた。ノエルさんが首を横に振った。
 店内のあちこちで声が上がってる。盛り上がってるその様子が、ナインさんには怒ってるように見えたみたい。

「アレは怒ってるんじゃないよ。見てごらん。手に持っていたり、テーブルに置いてある飲み物、エールと言うんだけれどね、アレを飲むと人は酔うんだよ」

「よう?」

「酔った場合の反応は人それぞれだね。ナインも大人になればいつか飲む事もあるよ。彼等は気分が大きくなったり、良くなったりしてるからね、自然と声が大きくなってるんであって、怒ってはいないよ。
だから安心して」

 ノエルさんの説明にナインさんが頷く。
 それでもひときわ大きい声がすると、びくっとするナインさんの膝の上にフルールをのせる。
 今日は混んでるから料理もなかなか来なさそうだったし。
 驚いてるナインさんに、撫でるんですよ、と教える。
 フルールを撫でると、耳をぴょこ、と揺らした。
 恐る恐る手を伸ばしたナインさんが、フルールのおでこを撫でると、耳がぴょこぴょこと揺らした。
 ナインさんが何か言いたそうな、嬉しそうな顔で僕を見る。

「撫でるとフルールも気持ち良いみたいだから、撫でてあげて下さいね」

 こくこく、と素早く頷いたナインさんは、フルールを撫で続けた。
 その様子を見ていたら料理が運ばれてきた。フルール専用のも後から。

「フルールも、食べる?」

「フルールのは特別ですね」

「ほらほら、あったかくて美味いうちに食わねぇと損するぞー」

 そう言ってラズロさんが料理を皿に盛ってくれて、僕とナインさんの前に置いてくれた。
 フルールを僕の隣に戻し、フルール専用ご飯を前に置く。あれからずっと、ザックさんはフルール用には見た目を整えたものを用意してくれる。とても有難い。
 後で洗いもの手伝ってこようっと。

「ありがとうございます、ラズロさん」

「ありがとう、ございます、ラズロ様」

 ナインさんが僕を真似て言った言葉に、ラズロさんは苦笑いを浮かべ、「アシュリーと同じように呼べよ」と言ってナインさんの頭を撫でた。

 今日の料理は、貝がグツグツ煮えた液体の中に浮かんでる。前にお裾分けしたイワシの塩漬けとトウガラシも入ってる。あと、キノコ。

「貝、ですか?」

「まだ旬の走りだろうけどな、牡蠣だ」

「カキ?」

「牡蠣という貝」

「牡蠣とイワシの塩漬けとキノコをオイルで煮た料理だ。この国はオイルは豊富だからな、何でもこうしてオイルで煮ちまうんだが、イワシの塩漬けを入れるなんてな。楽しみだ。さ、食うぞ」

 ラズロさんがフォークで牡蠣を頬張る。

「んー、これはいつにも増して美味いな!」

 ノエルさんも頷いて「イワシの塩みが絶妙だね。さすがザック」と褒める。

 カキを口に入れる。つるりとした舌触りだった。濃い味が口の中に広がる。イワシの癖のある味と塩が、カキの味の濃さをほどほどに調整してくれている気がする。
 トウガラシとニンニクの辛味でも味がひきしまる。

「美味しいです……!」

「どんどん食え」

 次のカキを口に入れようとしたら、パキパキパキ、と言う音がフルールからした。見ると貝の殻を食べてる。カキの殻かな? 随分とゴツゴツしてるんだなぁ……。

「美味しそう……」

 ナインさんが呟いて、みんな頷いた。

「でも、実際食べると美味しくないんですよ。フルールの音魔法です」

 目をぱちぱちさせるナインさんが可愛かった。ナインさんは、ラズロさんが言うように、ちょっと小動物っぽい。
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