前代未聞のダンジョンメーカー

黛 ちまた

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第二章 マレビト

022-5

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 カキのオイル煮(アヒージョって言うらしい)の後はキャベツとイワシの塩漬けを混ぜ合わせたもの、ソーセージと粒マスタード、キャベツやパンの上にとろみをつけたミルクのソースをかけて焼いたもの、ピクルスがテーブルに並ぶ。
 全部美味しそうで、どれから食べようか悩む。

「お邪魔するわね」

 ラズロさんはあらかじめザックさんを通してエスナさんに声をかけていたらしい。前の時もそうだったみたい。
 エスナさんがキレイだからラズロさんは声をかけたのだと思っていたら、ノエルさんが本当の所を教えてくれた。
 旅の吟遊詩人などは、次の旅の準備に向けてお金を貯めておかなくてはならない。かと言って宿屋に泊まるお金を出し惜しみすると、危ない事もあるから、ある程度の宿屋に泊まる必要が出てくるらしく。
 そうなると削るのは食費しかないんだって。だからラズロさんはこうしてテーブルに誘ってたっぷり食べさせてあげるんだって……! 良い人だった、ラズロさん! 良い人なのは知ってたけど、女の人関係はちょっと疑っていました。
 僕、誤解してた!
 ただ、そう言った女の人がラズロさんに本気になってしまって、大変な事になるのも一度や二度では済まなかったみたいで、ノエルさんはそれが心配で、止めるようにラズロさんに言ってるらしいんだけど、一向に止めないんだって。
 面倒見、本当に良いなぁ、ラズロさん。

「新顔ね?」

 エスナさんがナインさんを見て言った。

「は、はじめ、まして。ナインです」

「エスナよ。旅の吟遊詩人をしているの」

 にっこり微笑むエスナさんに、ナインさんは顔を真っ赤にした。

「純情無垢なナインを誑かすなよー」

「失礼ね。第一印象は大事なのよ?」

 エスナさんのエールが届いて、乾杯をする。
 ナインさんは乾杯が気に入ったみたいだ。

「んで? いつ王都ココを立つんだ?」

「明々後日に立つわ。雨季に入る前に移動しなくてはいけないもの」

 急だと思ったけど、雨季と聞いたら確かに。
 結構遠くまで行く予定なのかな。

 行商人のイースタンさんも、旅の吟遊詩人のエスナさんも、この王都を出たらもう二度と会えないかも知れない。
 だから、旅立ちの前には盛大に送る会をやるんだって。
 ラズロさんはエールの入ったカップを手に立ち上がった。

「吟遊詩人 エスナは明々後日にこの王都を旅立つ! 旅の無事を祈って、乾杯!!」

 店の端まで届くような大きな声でそう言って、ラズロさんはカップを掲げた。
 みんなが一斉にカップを頭より上に掲げて、乾杯! と口にする。
 エスナさんが立ち上がって軽くお辞儀をした。
 これをしておくと、今日、店に来た人たちが、エスナさんへと、お金を置いていってくれたりするんだって。
 餞、ってノエルさんが言ってた。

「エスナ……さん、王都ココから出て行く?」

 珍しくナインさんが話しだした。

「えぇ、そうよ」

「どう、して? 王都ココの人、良い人多い」

 エスナさんは頷いた。

「この国が嫌いだから旅をするんじゃないのよ?」

「どうして?」

 更に尋ねるナインさん。
 ラズロさんとノエルさんが少し驚いた顔でナインさんを見る。

「自分だけの居場所を探してる──って言ったら良いんでしょうけど……子供の頃から旅をしていて、旅をしていない自分が想像出来ないのよね。
でもこのまま旅を続けられるとも思ってないわ、そろそろ落ち着ける場所を見つけたいって思ってる」

「だったら……」

 ナインさんは、エスナさんをなんとか引き止めようとしてるけど、それはエスナさんの為と言うよりは、ナインさんの為のような気がした。
 ノエルさんが立ち上がって、ナインさんの横で屈むと、手を握り締めた。

「ナインもいつか旅に出たくなったら、出ても良いよ」

 僕には背を向けているから、今、ナインさんがどんな顔をしてるのかは分からない。

「ここにずっといて良いし、たとえ旅に出たとしても、帰って来て良いんだよ。ここは、ナインの故郷の一つに、もうなってるんだからね」

 泣き出したのか、ナインさんの肩が震えてる。ノエルさんの手がナインさんの頭を撫でる。

「エスナも」

 突然ラズロさんから自分に話を振られて、エスナさんはびっくりした顔をしてる。

「いつでも帰って来いよ」

「うん、ありがとう」

 エスナさんが見せてくれた笑顔は、今までで一番キレイだった。
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