前代未聞のダンジョンメーカー

黛 ちまた

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第二章 マレビト

030-2

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 そんなことはないと思うけど。

 ティール様からもらった魔術の術式が施された符をダンジョンの土中に埋める。

『あと四隅にも貼るぞ』

 受け取っていた五枚の術符を隅に貼る。貼ると術符が淡く光った。魔力が術符から出て来て、ダンジョンに吸収されていくのを感じる。

『あとは牛と鶏をここに放っておけ』

「うん」

 一度ダンジョンから出て、メルとコッコをダンジョン内に連れて入る。メルは嬉しそうに草を食べ始めた。コッコも忙しなく土を穿り返し始めた。……虫、出るのかな。
 少しの間、コッコの動きを観察する。
 ……なにか食べてるみたい。あと嬉しそう。
 ジャッロの子供たちも、早速メルたちを確認しに来たけど、何もせずに巣に帰っていった。

 いつものようにメルの身体を拭いて、コッコに軽くつつかれながらダンジョンを後にする。

『魔術師から次の術符を受け取ったら、次の階層を作るぞ』

 パフィやナインさん、ノエルさんたちはダンジョンの階層を増やそうとしてる。

「増やして、何を作るの?」

『せっかくだからな、次は夏だ。秋、冬の階層をそれぞれ作っておけば季節の美味が食べ放題だろう』

「パフィ?」

 アマーリアーナ様からのお願いはどうなったの?

『魔法使いと前世持ちの話によれば、ダンジョン生成時に一括で作らずとも、追加出来そうだからな、五層目は山にして、六層目は海にしておこう。そこでしか取れん食材が作り放題だぞ』

 え? 山? 海? 山は作れそうだけど、見たことも入ったこともあるから。でも海は作れる気がしないよ?
 それに、美食を楽しむ為に作ったんじゃないのに、大丈夫なの?

「パフィ?」

『王子とアマーリアーナの事が片付いた後の事を考えろ。奴らの事ばかり考えていたらつまらんだろう。逃げられぬ事はあるが、その先の楽しめる事も同時に考えておけ。
ひとつの事に考えを囚われるなと言っているだろうが』

「それはそうだけど……」

 パフィはいつもそうで。僕としては目の前の大変なことを早く終わらせたいって思ってしまう。

『集中して直ぐに片付くものもあれば、時間のかかるものもある、と言うだけの事だ。それともおまえは、人の生き死にだけにどっぷり浸かりたいのか?』

 首を横に振る。

『目の前の事に対峙するのは大事な事だが、生きる事を楽しめ。己を大切にしろ。己の大切に思うものを大切にしろ。それが日々を楽しくする』

「どうしてパフィって混沌の魔女って呼ばれるんだろうね? 結構まともな事を言うのに」

 しっぽでびしびしと叩かれた。しっぽなのに結構痛い。

『止めぬからだ』

 止めない?

『あるがままを受け入れているだけだがな、ヴィヴィアンナやアマーリアーナからすれば、流され過ぎらしいぞ』

 なるほど。秩序のアマーリアーナ様からすれば、パフィの考えは受け入れられないのかも?

『魔女とて、流れの一部に過ぎぬのだがな』

 絶対的な力を持つと言われている古の魔女の言葉とは思えない、聞く人によってはそう言うかも知れないな、って思う。でも、パフィらしい。
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