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第二章 マレビト
035-3
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思いがけない展開で、第二王子と第二妃と伯父である侯爵の野望は阻止された。
メルとコッコは第一層に戻った。
ジャッロたちには伝わったかは分からないけど、お礼を言って、王都の花屋さんで両手で持てるだけお花を買って行った。喜んでくれた気がする。たぶん。
メルのミルクをもらって食堂に戻ると、テーブルに人が集まっているのが見えた。
ラズロさんとノエルさん、クリフさんもいる。あれ? 騎士団長にトキア様もいる……? ティール様も……?
「アシュリー、こっちに来てくれるか?」
トキア様に声をかけられたものの、手に持ったミルクをどうしようかと考えてしまう。せっかくメルからもらったのに。
「あー、今日はミルクの熱処理は良いんじゃないか?」とラズロさんが言う。
「熱処理とは何だ?」
初めて聞く声がした。
「熱処理と言うのは……」
ノエルさんが説明しようとする。
「良い」
誰かが立ちあがる音がして、みんながお辞儀をした。それで初めて、人集りの中心にいた声の主が見えた。
ほっそりした、お日様みたいにキラキラした金色の髪をした、整った顔の男の人が僕を見ていた。
光沢のある皺のない質の良さそうな服をゆったりとまとったその人は、にっこりと微笑んだ。
ラズロさんがお辞儀したまま、こっちを見て口をぱくぱくさせている。
お
う
い
おうい?
ラズロさんの口の動きばかり見ていたら、その人は僕の近くまでやって来て言った。
「僕はこの国の第一王子 セルリアン」
殿下。あぁ、だからトキア様や騎士団長がお辞儀してるんですね。
にゃーん、と僕の足元でネロが嬉しそうに鳴いた。
殿下が慣れた手付きでネロを抱き上げる。
「そなたの黒猫のお陰で、寂しさを紛らわせる事が出来た。本当に色々と世話になった」
答えた方が良いのは分かるんだけど、僕も本を読むようになって、覚えた事があるんです。
許可なく王族の方へ直接話しかけてはならないんだって。あ、どうしよう、お辞儀、忘れてた……!
どうして良いのか分からなくて困っていると、トキア様が助け舟を出してくれた。
「殿下、直答をお許しになられますか?」
納得した殿下は何度か頷いた。
「勿論。
直答を許す。そなたが平民である事も聞いている。言い回しについても気にしない」
ちらりとトキア様を見ると、トキア様が笑顔で頷いた。
腕にミルクの入った器を持ったままなので、溢さないようにお辞儀をして、名乗った。
「アシュリーといいます、殿下」
うん、と頷く殿下は、僕の持つミルクを見た。
「それを熱処理するのであろう? 僕の事は気にしなくて良いから、作業をすると良い」
……そんな訳にもいかないと思う。
「そなたが作ってくれた食事はいつも温かで、美味しい。作業を見てみたい」
ミルクに関して言えば、温めるだけです……。
『ちょうど良い。目の前で王子用のミルクを作ってやってはどうだ?』
天井に逆さまに伏せをしているマグロが言った。
『蜂ヤニも受け取ったのだろう?』
「うん」
天井から下りて来たマグロに、殿下は丁寧にお辞儀をした。
「オブディアンから話は聞いております。
初めてお目にかかります、古の魔女 パシュパフィッツェ様。僕はセルリアン・ドナーシュ。王の子です」
『いつも遠巻きに見ていたが、随分と良くなったな』
「パシュパフィッツェ様とアシュリー、多くの者達のお陰です」
マグロの目がわずかに細まる。
『アシュリーに説明してやるが良い。
王国とは無縁の少年を巻き込んだ事の、呆気ない事の顛末をな』
「はい」と殿下が頷いた。
そのまま話をしそうだったので、恐れ多いなとは思ったけど、とりあえず座ってもらう事にした。
良くなったとは言っても、立ったままは辛いと思って。
「どうぞ、おかけ下さい」
「ありがとう」
殿下がカウンターの席に腰掛けたので、僕は厨房に入った。
「なかなか、面白い視界だ。料理人の作業が見えるとは。実に興味深い。
遠慮せず作業をして見せて欲しい」
そう言って楽しそうに殿下が笑う。
仕方がないので、作業をする事にした。
メルとコッコは第一層に戻った。
ジャッロたちには伝わったかは分からないけど、お礼を言って、王都の花屋さんで両手で持てるだけお花を買って行った。喜んでくれた気がする。たぶん。
メルのミルクをもらって食堂に戻ると、テーブルに人が集まっているのが見えた。
ラズロさんとノエルさん、クリフさんもいる。あれ? 騎士団長にトキア様もいる……? ティール様も……?
「アシュリー、こっちに来てくれるか?」
トキア様に声をかけられたものの、手に持ったミルクをどうしようかと考えてしまう。せっかくメルからもらったのに。
「あー、今日はミルクの熱処理は良いんじゃないか?」とラズロさんが言う。
「熱処理とは何だ?」
初めて聞く声がした。
「熱処理と言うのは……」
ノエルさんが説明しようとする。
「良い」
誰かが立ちあがる音がして、みんながお辞儀をした。それで初めて、人集りの中心にいた声の主が見えた。
ほっそりした、お日様みたいにキラキラした金色の髪をした、整った顔の男の人が僕を見ていた。
光沢のある皺のない質の良さそうな服をゆったりとまとったその人は、にっこりと微笑んだ。
ラズロさんがお辞儀したまま、こっちを見て口をぱくぱくさせている。
お
う
い
おうい?
ラズロさんの口の動きばかり見ていたら、その人は僕の近くまでやって来て言った。
「僕はこの国の第一王子 セルリアン」
殿下。あぁ、だからトキア様や騎士団長がお辞儀してるんですね。
にゃーん、と僕の足元でネロが嬉しそうに鳴いた。
殿下が慣れた手付きでネロを抱き上げる。
「そなたの黒猫のお陰で、寂しさを紛らわせる事が出来た。本当に色々と世話になった」
答えた方が良いのは分かるんだけど、僕も本を読むようになって、覚えた事があるんです。
許可なく王族の方へ直接話しかけてはならないんだって。あ、どうしよう、お辞儀、忘れてた……!
どうして良いのか分からなくて困っていると、トキア様が助け舟を出してくれた。
「殿下、直答をお許しになられますか?」
納得した殿下は何度か頷いた。
「勿論。
直答を許す。そなたが平民である事も聞いている。言い回しについても気にしない」
ちらりとトキア様を見ると、トキア様が笑顔で頷いた。
腕にミルクの入った器を持ったままなので、溢さないようにお辞儀をして、名乗った。
「アシュリーといいます、殿下」
うん、と頷く殿下は、僕の持つミルクを見た。
「それを熱処理するのであろう? 僕の事は気にしなくて良いから、作業をすると良い」
……そんな訳にもいかないと思う。
「そなたが作ってくれた食事はいつも温かで、美味しい。作業を見てみたい」
ミルクに関して言えば、温めるだけです……。
『ちょうど良い。目の前で王子用のミルクを作ってやってはどうだ?』
天井に逆さまに伏せをしているマグロが言った。
『蜂ヤニも受け取ったのだろう?』
「うん」
天井から下りて来たマグロに、殿下は丁寧にお辞儀をした。
「オブディアンから話は聞いております。
初めてお目にかかります、古の魔女 パシュパフィッツェ様。僕はセルリアン・ドナーシュ。王の子です」
『いつも遠巻きに見ていたが、随分と良くなったな』
「パシュパフィッツェ様とアシュリー、多くの者達のお陰です」
マグロの目がわずかに細まる。
『アシュリーに説明してやるが良い。
王国とは無縁の少年を巻き込んだ事の、呆気ない事の顛末をな』
「はい」と殿下が頷いた。
そのまま話をしそうだったので、恐れ多いなとは思ったけど、とりあえず座ってもらう事にした。
良くなったとは言っても、立ったままは辛いと思って。
「どうぞ、おかけ下さい」
「ありがとう」
殿下がカウンターの席に腰掛けたので、僕は厨房に入った。
「なかなか、面白い視界だ。料理人の作業が見えるとは。実に興味深い。
遠慮せず作業をして見せて欲しい」
そう言って楽しそうに殿下が笑う。
仕方がないので、作業をする事にした。
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