前代未聞のダンジョンメーカー

黛 ちまた

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第四章 魔女の国

051-2

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『演劇とはなかなかの娯楽だな。悪くない』

 座ったパフィはゆらゆらとしっぽを揺らす。

「みんなが楽しんでくれると良いよね」

 どんなものか分からないから想像するしかないけど、酒場の舞台がもっと大きくて、それをみんなで見てる感じかな。

『ほんの僅かな時間でも、頭の中から不満に思うことを消せるだけでな、人の心は救われる』

「そう言うものなの?」

 悩みがなくなったほうがすっきりしそうだけど、と思いながら夕食に出すイモの皮むきを始める。

『悩みの全てを消し去る事など不可能だからな。
大事なのはひと時でも別のことで頭を一杯にする事だ』

「確かにな」

 ラズロさんが頷く。

「どうせ一つの悩みが消えたって、すぐに別の悩みが出来ちまうもんなぁ」

 答えながら使い終えた道具をてきぱきとラズロさんが片付けていってくれる。
 重いものとか、高いところにあるものはどうしてもラズロさんを頼ることになる。

 なんとも言えない気持ちでいたら、ラズロさんが僕の頭をくしゃくしゃに撫でた。

「悩むのは悪い事じゃねぇぞ? なんとかしたいって思うからこそ、悩むんだからな。どうでも良い事なんて考えもしないだろ?」

「あぁ、うん。そうですね、気にしないと思います」

 そう答えるとラズロさんは笑顔で頷いた。

「ただ、悩んでばっかりじゃ疲れちまうからな、心を休ませてやるんだよ」

 その為の一座だとラズロさんは言った。

「ところで、一座は何処でやるんですか?」

「広場だろうな」

「でも店もありますよ?」

 広場はいつも出店が並んでる。
 揚げ菓子を売る店、串焼きを売る店、花を売る店。とにかく店がたくさんある。

「逆だ。店があるから広場でやるんだ」

 言われてやっと分かった。

「店で買ったものを食べながら一座を見るってことですか?」

「そうだ」

 店の売り上げも増えるし、みんなも楽しい気持ちになるし、旅の吟遊詩人の人たちもお金を稼げるようになるし、良いことづくめだね。
 エスナさん、今も旅を続けてるのかな。
 ラズロさんが言ってた、居場所は見つかったのかな。見つかっていると良いな。

 ラズロさんも隣でイモの皮むきを始めた。

「まぁ、初めからなんでも上手くいきはしないだろうがな、失敗しながら進んでいくから意味があんだよ」

 失敗しながら進んだほうが良いってこと?
 イモの皮をむく手を止めてラズロさんを見上げる。僕が見てることに気づいたラズロさんの手も止まる。

「与えられたもんじゃ、ありがたみがすぐになくなるってこった。人は勝手なもんだからな。
料理もな、作ってもらったもんを食った時は美味いと感じても記憶にはあんまり残らないだろ? 自分が手間暇かけて作ったもんのほうが、味がどうってことより記憶に残る」

「なるほど」

 美味しいものを食べたら、美味しかったって覚えてるけど、自分で作ったもののほうがよく覚えてたりする。味がそうでもなかったのに、すごく覚えてたり。

「言ったろ? みんなで乗り越える必要があるんだってな」

 ラズロさんのその言葉で、みんなで作る必要があるって意味が、やっと分かった。

「そっか。自分も参加したら、一生懸命考えるかも」

「ご名答」
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