前代未聞のダンジョンメーカー

黛 ちまた

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第四章 魔女の国

052-1

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 冬になった。
 水に触れるのが嫌で魔法でぬるま湯を出して使っていたら、ラズロさんがため息を吐いた。

「オレも魔法のスキル欲しい。ちょっとで良いから。むしろちょっとが良い」

 ラズロさんはナインさんと魔術を利用したものを色々作ってはいるものの、全てに魔術を取り入れることは出来ない。

「でもぬるま湯ばかり使っていると手が荒れやすくなりますよ」

 だから手に塗る油が欠かせない。

「そうだけどさ、あまりの冷たさに指先とか動かなくなるだろ」

 外で作業をして手を洗ってきたんだろう。ラズロさんは両手に息を吹きかけていた。
 風の魔法にほんのちょっとの火の魔法をのせると温かい風になる。それをラズロさんの手にかけてあげると、強張っていた顔が緩んだ。

「おぉ……生き返る」

 大袈裟に喜ぶラズロさんに思わず笑ってしまった。

「そう言えば、庭にある風呂場から食堂に戻るまでに身体が冷えるってボヤいてる奴がいたな」

「それ、ぼくも言われました」

 庭にあるぐらいだから遠く離れている訳じゃない。でも気持ちは分かる。
 風呂で温まった身体が外の寒さでひやっとしてしまうのだ。

「通路を作る訳にもいかんしな」

「そうなんですよね」

「それより足元が見えないのがなぁ」

 雨が降ってぬかるんだ場所があっても暗くて見えなくて、もう一度風呂に戻って足を洗う事になる。

「石を間を開けて並べたら少しはマシになりますかね」

「でもその石の表面が凍ったりしたら大惨事だぞ」

「お呼びですか!!」

「ぅわぁ!!」

 ティール様の突然の登場に僕とラズロさんは同時に叫んでしまった。

「驚かせるのに成功しましたー」

 嬉しそうにしているティール様の頭をラズロさんが叩く。

「子供じゃねぇんだから、そう言うのホント止めろ」

 あははと笑いながらティール様はカウンターに腰掛ける。

「さっきの話なんですけど」

「風呂場から食堂までの道の事か?」

「そうですそうです」

 ナインさんが来てからティール様の生活は人並みになったみたい。ナインさんがちゃんとご飯を食べさせたり、寝るようにしたり、お風呂に入らせたりしているみたいで……。
 ティール様が保護者の筈なんだけど、逆転してるんだよね……。

「この前私、滑ってしまいまして」

「凍る前から滑ってんのか!」

「いやぁ、お恥ずかしい」

 照れてるティール様。
 褒めてねぇよ、とラズロさんが言う。

「それでもう一度入浴する事になりまして、これは時間の無駄だと痛感しました」

「……ツッコミどころしかないな。それで?」

「踏むと光る術式を仕込んだ石を作ってみました!」

「魔力はどう供給すんだ?」

「大気中の魔力が僅かでもあれば発光します。踏まれると反応します」

「おまえは馬鹿なのか天才なのかどっちだ」

「ぃやぁ、そんなに褒められると照れますね」

「褒めてねぇよ」

 ティール様が作ってくれた術式が組み込まれた石は、早速風呂場から食堂に続く道として設置されることになった。
 魔術師の人達がやって来て、手際良く並べていく。

「これ、凍ったりしねぇの?」

 ラズロさんが踏むたびに石が光る。上に乗っている間は光ってる。

「しませんよー。滑らないように表面をスライムに似た粘性を持たせてみたんです」

 ちょっと吸い付くってことなのかな?

 石を並べ終えたティール様は満足気に頷いた。

「これで二度風呂に入ると言う無駄な時間を過ごさずに済みます!」

「オレはおまえが真正の変人だって事を再認識したよ……」

 呆れた顔をするラズロさんに、ティール様がまた照れていた。ティール様の感覚はだいぶ不思議。

「そう言えばチーズは完成したんですか?」

「明後日ぐらいから食べられますよ」

「そうなんですねー。周りが話題にしているので、私までソワソワしてきました」

「まずは明日、宵鍋に持ってく事になってるけどな」

「あ、じゃあ私もご一緒します」

「珍しいな」

「塔に閉じこもってばかりだと発想が鈍る事を知りました。外的刺激は新たな可能性を呼び覚ますだけでなく、停滞した研究に思わぬ角度から解決の糸口を発見する事もあり、実に」
「行きたいんだな?」

 ティール様の言葉を遮るようにしてラズロさんが聞くと、端的に言えばそうです、と頷いた。

「しちめんどくせぇ理屈はいらねぇよ。行きたいか行きたくないかだけで十分だ」

「行きたいですー」

 よし! と言ってラズロさんが笑顔になった。
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