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第四章 魔女の国
064-3
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王都の端っこに、墓地がある。
そこにお墓を建てさせてもらった。
「魔女は滅べば肉体は消滅するのだから、墓など要らぬというに」
パフィは何故か黒猫の姿で僕に抱っこされてる。
たぶん、自分で歩くのが面倒くさいんだと思う。
「お墓は、残された僕たちのためにもあるんだってダグ先生が言ってたよ。会いにこれる場所があるって、いいことだと思う」
そこに、なにもなかったとしても。
お墓はキルヒシュタフ様と、使い魔と、冬の王のもの。
春になったから、今年も沢山の花が咲いた。
広場で売られていた花を買って、キルヒシュタフ様たちのお墓に供える。
あの後、僕はパフィになにも聞かなかった。
ノエルさんも、みんな。
ティール様だけ聞こうとして、ノエルさんとラズロさんに叩かれていたけど。
「スオウの花見、楽しみだね」
「うむ。朝から晩まで飲むとは、なかなかに良い祭りだ」
今回も皆で丘の上に集まる約束をしてる。
「パフィ」
「なんだ」
「はい、これ」
魔力を使い切ってしまった魔力水晶は、砕けてしまった。その破片を使ってお守りを作った。
なんの力もないから、お守りっていうのも変なんだけど。
「砕けた魔力水晶か」
「うん」
「おまえは水晶にまで名付けていたからな」
冬の間にもう一度アマーリアーナ様がやってきて、僕にだけ教えてくれた。
トラスには、意思が生まれていたって。限界を超えるダリア様の魔力を吸い込んだのは、トラスの意思だと。僕のパフィを助けたいという思いをトラスが叶えたいと願ったんだろうって。
魔力をミズルに注いだだけでは、あんなにもミズルの花は光るはずがなく、花の蜜で毒は消せても、パフィの中の時を動かすには、足りなかった。
生きる意思を失っているだろうパフィの心を開かせるのは難しかったに違いない、そう言っていた。
あの秘術がどんなものだったのかは、想像しかできないけど。
「まぁ、持っておいてやろう」
「うん、そうして」
僕も首から下げてる。
ノエルさんも、ティール様も、クリフさんも、ラズロさんも、みんな持ってる。
「ダリア様がね、僕に聞いたんだよ。何故生きるのかって」
キルヒシュタフ様が孤独だったように、ダリア様も孤独だったと思う。
「僕の答えはね、生きることに意味はない、なんだ」
「おまえらしい」
「そうでしょ」
猫のパフィを抱き上げる。
「意味がなくても、僕たちは生きるんだよね。楽しいことも悲しいことも、嫌になることも沢山あるけど。
生きることを、正解とか失敗って目で見たくないって思って」
パフィはなにも言わないで、僕をじっと見てる。
「明日、なにが起こるか分からないでしょ? だからって今をがむしゃらに生きるっていうのは、僕にはちょっと合わなくって」
僕は僕なりに頑張ってる。人から見たら足らないものばかりかもしれない。
でも、ラズロさんが教えてくれた。
進むことだけがすべてじゃないって。
「だから、今を大切にしたいなって、思う」
「そうか」
「うん」
スオウの花びらが風に舞って飛んでくる。
春の風は暖かくて、どこか甘く感じる。
「僕たちはパフィより早くにこの世を去るでしょ。それは変えられないから、パフィが寂しくならないように思い出を沢山、皆で作ろうね。そうしてる間に新しい皆がパフィの周りに集まるから、そうしたらパフィは寂しくないでしょ?」
パフィは僕の腕から飛び降りて、元の姿に戻った。
「……キルヒシュタフと同じように、孤独を感じたことはあった。どれだけ親しくなっても、心を砕いても、人は皆、先に逝く。
人よりも多くのものを持っているはずの魔女が、置いていかれる気持ちを味わうのだ。実に、滑稽だろう」
背中しか見えないから、パフィがどんな顔をしてるのか分からない。
「人は弱く、愚かだが、強い。限りあるからこそなのか、命を瞬かせる。それは、我ら魔女にはないものだ」
魔女が羨ましいって言う人は多いと思う。でもその魔女は人を羨ましいって思ってる。
「この前読んだ本にね、人は死ぬと魂が光になるって書いてあったんだよ。身体がなくなっても、僕たちはパフィのそばにいるってことだと思う」
パフィはまた黒猫の姿に戻って、僕に向かって飛んできた。
「寝る」
「うん」
目を閉じてるから、多分なんだけど、パフィは泣くのを我慢してる気がした。
パフィには、僕たちだけじゃなく、ダリア様もアマーリアーナ様も、ヴィヴィアンナ様もいる。
寂しさがパフィを苦しめないといいな。
どんなに強い力を持っていても、どんなに優れたものを持っていても、一人で生きていくのはつらいから。
広場に着いた時、手を振ってる人が見えた。
ラズロさんとノエルさん、ナインさんとティール様、クリフさんだった。
増えた魔術師たちのために、色々用意しなくちゃいけないって言ってたから、皆で手分けして買い出しに来たのかな。
「ほら、パフィ、皆が手を振ってるよ」
「言われんでも見えている」
「おかえり、パフィ」
「……なんだ、改まって」
「ちゃんと言って無かったら」
伝わったかな。
おかえりって、ここが帰ってくる場所だから言われる言葉だって。
村も、王都も、パフィの帰る場所だよ。
きっと村の人たちはパフィに言うと思う。
おかえりなさい、魔女様って。
だからね、パフィ、泣かないで。
「出店で買い物していこうか」
「そうだな」
「帰ってから食べる? 食べながら帰る?」
「……どちらでも構わん」
ノエルさんたちに合流すると、皆が笑顔で言った。
「二人ともおかえり」
「早かったな」
腕の中のパフィは、ちょっとだけ僕の服に顔を擦り付けてから言った。
「ただいま」
そこにお墓を建てさせてもらった。
「魔女は滅べば肉体は消滅するのだから、墓など要らぬというに」
パフィは何故か黒猫の姿で僕に抱っこされてる。
たぶん、自分で歩くのが面倒くさいんだと思う。
「お墓は、残された僕たちのためにもあるんだってダグ先生が言ってたよ。会いにこれる場所があるって、いいことだと思う」
そこに、なにもなかったとしても。
お墓はキルヒシュタフ様と、使い魔と、冬の王のもの。
春になったから、今年も沢山の花が咲いた。
広場で売られていた花を買って、キルヒシュタフ様たちのお墓に供える。
あの後、僕はパフィになにも聞かなかった。
ノエルさんも、みんな。
ティール様だけ聞こうとして、ノエルさんとラズロさんに叩かれていたけど。
「スオウの花見、楽しみだね」
「うむ。朝から晩まで飲むとは、なかなかに良い祭りだ」
今回も皆で丘の上に集まる約束をしてる。
「パフィ」
「なんだ」
「はい、これ」
魔力を使い切ってしまった魔力水晶は、砕けてしまった。その破片を使ってお守りを作った。
なんの力もないから、お守りっていうのも変なんだけど。
「砕けた魔力水晶か」
「うん」
「おまえは水晶にまで名付けていたからな」
冬の間にもう一度アマーリアーナ様がやってきて、僕にだけ教えてくれた。
トラスには、意思が生まれていたって。限界を超えるダリア様の魔力を吸い込んだのは、トラスの意思だと。僕のパフィを助けたいという思いをトラスが叶えたいと願ったんだろうって。
魔力をミズルに注いだだけでは、あんなにもミズルの花は光るはずがなく、花の蜜で毒は消せても、パフィの中の時を動かすには、足りなかった。
生きる意思を失っているだろうパフィの心を開かせるのは難しかったに違いない、そう言っていた。
あの秘術がどんなものだったのかは、想像しかできないけど。
「まぁ、持っておいてやろう」
「うん、そうして」
僕も首から下げてる。
ノエルさんも、ティール様も、クリフさんも、ラズロさんも、みんな持ってる。
「ダリア様がね、僕に聞いたんだよ。何故生きるのかって」
キルヒシュタフ様が孤独だったように、ダリア様も孤独だったと思う。
「僕の答えはね、生きることに意味はない、なんだ」
「おまえらしい」
「そうでしょ」
猫のパフィを抱き上げる。
「意味がなくても、僕たちは生きるんだよね。楽しいことも悲しいことも、嫌になることも沢山あるけど。
生きることを、正解とか失敗って目で見たくないって思って」
パフィはなにも言わないで、僕をじっと見てる。
「明日、なにが起こるか分からないでしょ? だからって今をがむしゃらに生きるっていうのは、僕にはちょっと合わなくって」
僕は僕なりに頑張ってる。人から見たら足らないものばかりかもしれない。
でも、ラズロさんが教えてくれた。
進むことだけがすべてじゃないって。
「だから、今を大切にしたいなって、思う」
「そうか」
「うん」
スオウの花びらが風に舞って飛んでくる。
春の風は暖かくて、どこか甘く感じる。
「僕たちはパフィより早くにこの世を去るでしょ。それは変えられないから、パフィが寂しくならないように思い出を沢山、皆で作ろうね。そうしてる間に新しい皆がパフィの周りに集まるから、そうしたらパフィは寂しくないでしょ?」
パフィは僕の腕から飛び降りて、元の姿に戻った。
「……キルヒシュタフと同じように、孤独を感じたことはあった。どれだけ親しくなっても、心を砕いても、人は皆、先に逝く。
人よりも多くのものを持っているはずの魔女が、置いていかれる気持ちを味わうのだ。実に、滑稽だろう」
背中しか見えないから、パフィがどんな顔をしてるのか分からない。
「人は弱く、愚かだが、強い。限りあるからこそなのか、命を瞬かせる。それは、我ら魔女にはないものだ」
魔女が羨ましいって言う人は多いと思う。でもその魔女は人を羨ましいって思ってる。
「この前読んだ本にね、人は死ぬと魂が光になるって書いてあったんだよ。身体がなくなっても、僕たちはパフィのそばにいるってことだと思う」
パフィはまた黒猫の姿に戻って、僕に向かって飛んできた。
「寝る」
「うん」
目を閉じてるから、多分なんだけど、パフィは泣くのを我慢してる気がした。
パフィには、僕たちだけじゃなく、ダリア様もアマーリアーナ様も、ヴィヴィアンナ様もいる。
寂しさがパフィを苦しめないといいな。
どんなに強い力を持っていても、どんなに優れたものを持っていても、一人で生きていくのはつらいから。
広場に着いた時、手を振ってる人が見えた。
ラズロさんとノエルさん、ナインさんとティール様、クリフさんだった。
増えた魔術師たちのために、色々用意しなくちゃいけないって言ってたから、皆で手分けして買い出しに来たのかな。
「ほら、パフィ、皆が手を振ってるよ」
「言われんでも見えている」
「おかえり、パフィ」
「……なんだ、改まって」
「ちゃんと言って無かったら」
伝わったかな。
おかえりって、ここが帰ってくる場所だから言われる言葉だって。
村も、王都も、パフィの帰る場所だよ。
きっと村の人たちはパフィに言うと思う。
おかえりなさい、魔女様って。
だからね、パフィ、泣かないで。
「出店で買い物していこうか」
「そうだな」
「帰ってから食べる? 食べながら帰る?」
「……どちらでも構わん」
ノエルさんたちに合流すると、皆が笑顔で言った。
「二人ともおかえり」
「早かったな」
腕の中のパフィは、ちょっとだけ僕の服に顔を擦り付けてから言った。
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