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番外編
ラズロの恋 後編
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金髪に空みたいな真っ青な瞳。着ている服は僕達と変わらないのに、良いものを着ているように見える。
ラズロさんは今にも逃げたそうにしてる。
「なにか飲みますか?」
「ちょっ、アシュリー!」
「お茶をもらえますか」
「わかりました」
ラズロさんが動く前に氷室に行って、茶葉を取ってくる。戻ってもラズロさんは同じ位置で固まってた。
いつものラズロさんからは想像できない姿で、なんだかムズムズする。
「ラズロさん、器をお願いします。あとミルクと」
「ア、ハイ」
鍋に水を入れて沸かす。
カウンターに腰掛けたアナスタシアさん……王族だし、アナスタシア様、かな……は僕の手元を見ている。
「初めてこの食堂に来て、料理を口にして、美味しさに驚きました。あなたの作る料理はあれだけの大人数のために作っているとは思えないほど手間暇をかけて作られているものだから。あの煮込み、本当に美味しかった。王宮にいた頃を思い出しました」
氷室から戻って来たラズロさんの身体がびくりとする。思いがけず、王宮という言葉が出て驚いたんだろうな。
「ラズロ、わたくしはあなたを恨んでなどいませんよ」
そう言うアナスタシア様の目を見る。表情からも本当にラズロさんのことを恨んでないのがわかる。
苦労したはずなのに、まるでそんなことなかったみたいに見える。セルリアン殿下もそう。
「アンタにずっと謝りたかった。オレさえいなければアンタは王女として生きられた。奴隷になんてならなかった。アンタはオレを恨んでいい」
「でもそうしたら冬の王に食べられて、今ここにいないわ」
「だけど!」
「自分のスキルが露見することが怖かったけれど、安堵もしたのです」
俯いていたラズロさんが顔を上げる。
「魔術師のスキルを持つというだけで、他の者達は有無を言わさず奴隷に落とされていたのです。わたくしだけスキルを秘され、生活を約束されていたのですから」
「王族だぞ? 当たり前だろうよ」
「クロウリーは貴族でした。ですから貴族の家に生まれても魔術師のスキルを持てば奴隷に落とされていたのです。わたくしだけ見逃されるなど、許されるものではありません」
お湯の中に茶葉を入れて、沸きそうになる前にミルクを入れてかき混ぜる。沸く前に器に移してから、アナスタシア様に出す。
「まぁ、ミルク入り。美味しそうだわ」
優しく微笑むアナスタシア様を、ラズロさんはじっと見てる。
とりあえず、さっき言ってたことは言えたから、もう大丈夫かな。
そう思っていたら、チリン、と鈴の音がした。
『世話のかかる』
パフィだった。
二股の尻尾がぐるぐると回る。
あれは魔法というか、呪いをする時にする動き……。
「アナスタシア! オレと結婚してくれ!」
ラズロさんが慌てて自分の口を手で塞ぐ。
「パフィ、駄目だよ!」
ふふん、と鼻で笑うとパフィは消えてしまった。
「残念だわ……」
アナスタシア様がぽつりと言う。その言葉にラズロさんの顔色が悪くなる。
「魔法で言わされたのではなく、心から言ってもらいたかった」
「嘘じゃない!」
慌ててラズロさんがアナスタシア様の隣に行く。
「嘘ではない?」
「嘘じゃない! 思ってたのは本当だ! でもオレにはそんな資格ないだろ!」
「なぜ?」
「なぜって、アナスタシア……」
泣きそうな顔でアナスタシア様を見るラズロさん。
「さきほども言ったでしょう、わたくしは怒っていないの。それよりもわたくしは奴隷に落とされた身だもの、あなたの伴侶には相応しくないわね」
「そんなことない!」
……僕、こういうの知ってる。
アナスタシア様は、手練手管というのを使える人だと思う。ダグ先生が気をつけなさいって言ってた。
『尻に敷かれそうだな』
いつの間にか戻ってきたパフィが言った。
「うん。でもラズロさんが幸せになるならいいんじゃないかな」
『たぶん初恋だな、アレは』
「初恋は実らないって、この前ダグ先生が……」
「そこの二人っ、不吉なこと言うな! 二度目の恋だから実るんだよ!」
「まぁ、二度目の恋ですって」
うふふ、と笑うアナスタシア様から、魔女に似た強さを感じた。ラズロさん、頑張って。
アナスタシア様との恋が実ったラズロさんは、夜に飲みに行くことを止めた。もう、飲み屋さんに行ってアナスタシア様に関することを集める必要ないもんね。
行くとしても宵鍋で、その時はアナスタシア様も一緒。
「ラズロ、馬鹿になった」
プディングを食べながら、ナインさんが呟く。
「ずっとずっと会いたかった人だそうです。その人との恋が実ったから、嬉しいんですよ、きっと」
「顔、緩みすぎ」
ブツブツ文句を言いながら、ロイの口に餌をあげる。
「ラズロさんはいつも女の人に優しいのに、どんなにキレイな人とも付き合ってなかったんですって」
宵鍋で皿洗いを手伝っていた時に、ザックさんが教えてくれた。
どんな美女に迫られても、ラズロさんは恋人にしなかったんだって。そのつもりがないのに優しくするなんて、酷い男だと言われていたみたい。
「ラズロさんが幸せになるなら、嬉しいです」
「アシュリーがそう言うなら、我慢する」
「ありがとう、ナインさん」
ラズロさんもアナスタシア様も、今は平民だから、結婚になんの問題もないみたい。
アナスタシア様の希望で式は秋に決まった。僕も招待してもらったので、楽しみ。
今は住む家を探しに、休みになると二人で出かける。大変そうだけど、嬉しそう。
たまに寂しそうな顔をするラズロさんだったけど、これでもうそんな顔もしなくなるといいな。
「ラズロさんは、このまま一人で生きていくのかなって思ってたから、安心しました」
「アシュリー、そんな年寄りみたいなことを言って……」
「ノエルさんのことも安心しました」
ノエルさんが困ったような顔をする。
オブディアン家は貴族になって、ノエルさんも貴族になった。
お見合いはなくなった。トキア様のお嬢様と婚約したから。でもお嬢様、ノエルさんと十五才ぐらい年が離れてるんだよね。
もっと小さい時にお嬢様がノエルさんに一目惚れして、ノエルさんと結婚できないなら死ぬってトキア様を脅してたらしくって。
ノエルさんが貴族になったから安心して嫁がせられる、ってトキア様が言ってた。
「ノエルさんは大丈夫ですか?」
「前にアシュリーに言われて覚悟は決めたものの、この人となら、と思える人に出会えてなかったんだけど、尊敬するトキア様のお嬢さんだし、いいかなって思ってる」
ただね、と言ってため息を吐く。
「結婚はあと六年は先だから、その時になったら捨てられてるかも。その時はよろしくね、アシュリー」
「ないと思います」
年は離れてるけど、なんだか上手くいきそうな気がするから、きっと大丈夫。
一度だけ見たトキア様のお嬢様は、本当に幸せそうにノエルさんを見てたから。
ラズロさんは今にも逃げたそうにしてる。
「なにか飲みますか?」
「ちょっ、アシュリー!」
「お茶をもらえますか」
「わかりました」
ラズロさんが動く前に氷室に行って、茶葉を取ってくる。戻ってもラズロさんは同じ位置で固まってた。
いつものラズロさんからは想像できない姿で、なんだかムズムズする。
「ラズロさん、器をお願いします。あとミルクと」
「ア、ハイ」
鍋に水を入れて沸かす。
カウンターに腰掛けたアナスタシアさん……王族だし、アナスタシア様、かな……は僕の手元を見ている。
「初めてこの食堂に来て、料理を口にして、美味しさに驚きました。あなたの作る料理はあれだけの大人数のために作っているとは思えないほど手間暇をかけて作られているものだから。あの煮込み、本当に美味しかった。王宮にいた頃を思い出しました」
氷室から戻って来たラズロさんの身体がびくりとする。思いがけず、王宮という言葉が出て驚いたんだろうな。
「ラズロ、わたくしはあなたを恨んでなどいませんよ」
そう言うアナスタシア様の目を見る。表情からも本当にラズロさんのことを恨んでないのがわかる。
苦労したはずなのに、まるでそんなことなかったみたいに見える。セルリアン殿下もそう。
「アンタにずっと謝りたかった。オレさえいなければアンタは王女として生きられた。奴隷になんてならなかった。アンタはオレを恨んでいい」
「でもそうしたら冬の王に食べられて、今ここにいないわ」
「だけど!」
「自分のスキルが露見することが怖かったけれど、安堵もしたのです」
俯いていたラズロさんが顔を上げる。
「魔術師のスキルを持つというだけで、他の者達は有無を言わさず奴隷に落とされていたのです。わたくしだけスキルを秘され、生活を約束されていたのですから」
「王族だぞ? 当たり前だろうよ」
「クロウリーは貴族でした。ですから貴族の家に生まれても魔術師のスキルを持てば奴隷に落とされていたのです。わたくしだけ見逃されるなど、許されるものではありません」
お湯の中に茶葉を入れて、沸きそうになる前にミルクを入れてかき混ぜる。沸く前に器に移してから、アナスタシア様に出す。
「まぁ、ミルク入り。美味しそうだわ」
優しく微笑むアナスタシア様を、ラズロさんはじっと見てる。
とりあえず、さっき言ってたことは言えたから、もう大丈夫かな。
そう思っていたら、チリン、と鈴の音がした。
『世話のかかる』
パフィだった。
二股の尻尾がぐるぐると回る。
あれは魔法というか、呪いをする時にする動き……。
「アナスタシア! オレと結婚してくれ!」
ラズロさんが慌てて自分の口を手で塞ぐ。
「パフィ、駄目だよ!」
ふふん、と鼻で笑うとパフィは消えてしまった。
「残念だわ……」
アナスタシア様がぽつりと言う。その言葉にラズロさんの顔色が悪くなる。
「魔法で言わされたのではなく、心から言ってもらいたかった」
「嘘じゃない!」
慌ててラズロさんがアナスタシア様の隣に行く。
「嘘ではない?」
「嘘じゃない! 思ってたのは本当だ! でもオレにはそんな資格ないだろ!」
「なぜ?」
「なぜって、アナスタシア……」
泣きそうな顔でアナスタシア様を見るラズロさん。
「さきほども言ったでしょう、わたくしは怒っていないの。それよりもわたくしは奴隷に落とされた身だもの、あなたの伴侶には相応しくないわね」
「そんなことない!」
……僕、こういうの知ってる。
アナスタシア様は、手練手管というのを使える人だと思う。ダグ先生が気をつけなさいって言ってた。
『尻に敷かれそうだな』
いつの間にか戻ってきたパフィが言った。
「うん。でもラズロさんが幸せになるならいいんじゃないかな」
『たぶん初恋だな、アレは』
「初恋は実らないって、この前ダグ先生が……」
「そこの二人っ、不吉なこと言うな! 二度目の恋だから実るんだよ!」
「まぁ、二度目の恋ですって」
うふふ、と笑うアナスタシア様から、魔女に似た強さを感じた。ラズロさん、頑張って。
アナスタシア様との恋が実ったラズロさんは、夜に飲みに行くことを止めた。もう、飲み屋さんに行ってアナスタシア様に関することを集める必要ないもんね。
行くとしても宵鍋で、その時はアナスタシア様も一緒。
「ラズロ、馬鹿になった」
プディングを食べながら、ナインさんが呟く。
「ずっとずっと会いたかった人だそうです。その人との恋が実ったから、嬉しいんですよ、きっと」
「顔、緩みすぎ」
ブツブツ文句を言いながら、ロイの口に餌をあげる。
「ラズロさんはいつも女の人に優しいのに、どんなにキレイな人とも付き合ってなかったんですって」
宵鍋で皿洗いを手伝っていた時に、ザックさんが教えてくれた。
どんな美女に迫られても、ラズロさんは恋人にしなかったんだって。そのつもりがないのに優しくするなんて、酷い男だと言われていたみたい。
「ラズロさんが幸せになるなら、嬉しいです」
「アシュリーがそう言うなら、我慢する」
「ありがとう、ナインさん」
ラズロさんもアナスタシア様も、今は平民だから、結婚になんの問題もないみたい。
アナスタシア様の希望で式は秋に決まった。僕も招待してもらったので、楽しみ。
今は住む家を探しに、休みになると二人で出かける。大変そうだけど、嬉しそう。
たまに寂しそうな顔をするラズロさんだったけど、これでもうそんな顔もしなくなるといいな。
「ラズロさんは、このまま一人で生きていくのかなって思ってたから、安心しました」
「アシュリー、そんな年寄りみたいなことを言って……」
「ノエルさんのことも安心しました」
ノエルさんが困ったような顔をする。
オブディアン家は貴族になって、ノエルさんも貴族になった。
お見合いはなくなった。トキア様のお嬢様と婚約したから。でもお嬢様、ノエルさんと十五才ぐらい年が離れてるんだよね。
もっと小さい時にお嬢様がノエルさんに一目惚れして、ノエルさんと結婚できないなら死ぬってトキア様を脅してたらしくって。
ノエルさんが貴族になったから安心して嫁がせられる、ってトキア様が言ってた。
「ノエルさんは大丈夫ですか?」
「前にアシュリーに言われて覚悟は決めたものの、この人となら、と思える人に出会えてなかったんだけど、尊敬するトキア様のお嬢さんだし、いいかなって思ってる」
ただね、と言ってため息を吐く。
「結婚はあと六年は先だから、その時になったら捨てられてるかも。その時はよろしくね、アシュリー」
「ないと思います」
年は離れてるけど、なんだか上手くいきそうな気がするから、きっと大丈夫。
一度だけ見たトキア様のお嬢様は、本当に幸せそうにノエルさんを見てたから。
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