47 / 56
47 太陽神殿の祭り その5
しおりを挟む
「お母様、マロネーゼ姉さんはどうされたの。メイド達が、昨日部屋へ戻っていらっしゃらないと大騒ぎしておりましたわよ。まあ、あのお姉さまに限って、男の所なんてことは絶対に在り得ないでしょうけれど、おほほほほ」
今度は、王妃様の隣に座っている美人の若い女性、たぶん二十歳前だろうか、が王妃様に絡んで来た。
多少言葉に険を含んでいるので、たぶん他の妃の子供なのだろう。
聖服を纏っているので今日の式典の参加者だ。
自分も崖っぷちに追い込まれつつあるので、マロネーゼさんの動向が凄く気になるのだろう。
「それはこの子のところで一「旅に出ました。暫く戻らないそうです!」ので、仕方なく寝ているのよ」
必死に言葉を被せた。
この婆、冗談かと思っていたのに、朝方言っていた説明を本当にしている。
「貴様うるさいぞ。黙っていろ。お母様、もう一度」
「この子のところで「旅に出ました。暫く戻らないそうです!」たので、仕方なく寝ているのよ」
僕も必死だ。
王妃様の隣に腰掛ける僕を、昨日絡んで来た王族がずっと睨んでいるし、何故か他の王子達もさっきからずっと僕を睨んでいる。
たぶん昨日のことがまだ尾を引いており、僕を不愉快に思っているのだろう。
この雰囲気の中で、王族を手籠めにしたような説明をされたら、何が飛んでくるか判らない。
「貴様・・・!、わらわを愚弄しおって。衛兵、こ奴を切り刻め。貴様、ただで済むと思うなよ」
怒っている、物凄く怒っている。
こめかみに青筋を立てて怒っている。
ルーナの森のオーガより顔が怖い。
うっかり敵を一人追加注文してしまったようだ。
直ぐに逃げ出そうと思い、腰を浮かせながら衛兵達を振り返ったが、衛兵達に動く気配は無い。
互いに顔を見合わせて判断に迷っているようだ。
「何をしているの、早くなさい!」
礼拝堂にヒステリックな金切り声が響き渡る。
他国からの招待客が驚いてこちらを見ている。
招待客の目もあるので、衛兵達も動けないで困っているのだろう。
このような場合の解決策なのだろうか、衛兵達は第一王子と宰相を懸命に見詰めて指示を待っている。
王様の方と王妃様の方は一顧だにしない様子が、この国の今の現状を物語っている。
たぶん、このようなトラブルはすべて第一王子と宰相の判断に丸投げなのだろう。
第一王子と宰相がこめかみと胃を抑えながら溜息を吐いている。
「母さん、式典の妨害をするのは止めて下さい。ユーリも母さんの挑発に乗るな」
「あら酷い、私が悪者みたいじゃないの」
「申し訳ありません!」
僕は土下座した。
周りが視界から消えるし、一番慣れた行動パターンなのでなんだか安心する。
「衛兵!私の命令に従えないの」
「うるさいぞマリアンナ、黙っていろ。皆様、お騒がせいたしまして申し訳ありませんでした。奉聖天楽の式典を再開させて頂きます。ユーリ、見苦しいから座れ」
知らない間に式典が始まっていたらしい。
顔を上げたら、祭壇の上から大勢の神官達が困惑した迷惑顔でこちらを見詰めている。
土下座には自信があったのに、見苦しいとは酷い言われようだ。
このままの方が落ち着くのだが、王子殿下の命令なので立ち上がって椅子に座る。
王妃様はなにやら嬉しそうな顔をしているが、その隣のマリアンナ王女様は、オーガを食い殺しそうな怖い顔をして僕を睨んでいる。
「それでは神官長殿、再開して下さい」
神官達が女神様の彫像に向き直り、鈴杖を打ち鳴らしながら聖文を唱え始めた。
女神様の彫像は、昨日僕が洗ったのでぴかぴかだ。
なんか女神様が嬉しそうに微笑んでいるような気がする。
聖文を唱え終わると、神官達が順番に聖符を発動させて場を清めていく。
僕の家の聖符を使っている人が何人か居た。
光の広がる範囲と使い終わった後の空気の透明度が違うので、一目瞭然だ。
何だかちょっと誇らしい。
神官が場を清め終えると王族達の出番らしい。
聖服を着た王子や王女達が立ち上がり、祭壇へ向かってぞろぞろと歩いて行く。
「あう!」
マリアンナ王女様が、目の前を通り過ぎるついでに僕の足を思い切り踏んで行った。
ーーーーー
祭壇の上に全員が並び終わると、神官達と同様一斉に聖文を唱え始めた。
聖文を唱え終わると全員その場に片膝をついて跪き、宰相の紹介の声に併せて一人だけ立ち上がると、祭壇の中央に歩み出て聖魔法を披露する。
昨日の魔法の奉納と比べ、大げさな身振り手振りが入る聖文の前振りがやたらに長い。
女神様を讃える聖文なのだが、女神様の彫像にお尻を向けて招待客が座っている席の方を向いている。
女神様への信仰よりも大事なことなのだろう。
現実の目に見える利益の方が、見返りの無い信仰よりも判りやすい。
聖魔法自体は、はっきり言ってしょぼい。
発声方法が悪いのだろうか、呪文が共鳴している気配が薄い。
中には、魔法が発動していること自体がはっきりしない人もいる。
それでも呪文の朗詠はよどみが無く力強い。
長い聖文も朗詠を間違える人は無く、今日に向けて相当な努力と修練を積み重ねて来たことを伺わせる。
だが本人達が一生懸命でも、同じ面白く無い聖文と呪文を延々と聞かされれば飽きてくる。
聖魔法の披露を終えた王族達もまだ祭壇で跪いているので、暫く招待客達も我慢している。
だが、最前列に座っている人が一人船を漕ぎ始めると、雪崩を打ったように、後ろに座っている招待客も一斉に船を漕ぎ始めた。
聖魔法の披露が終盤に近付くと、もう殆ど全員が寝ている状態となっている。
昨日僕に絡んで来た王族は、王族としての地位は低いらしく、最後から三番目だった。
鼾を掻き始める招待客も出始め、聖魔法を披露する姿が、流行らない酒場で芸を披露する芸人のようで可笑しかった。
最後の一人の聖魔法の披露が終わると、祭壇の上の王族全員が立ち上がって聖句を唱和する。
王族達が立ち上がる音にはっと目覚め、我に返った招待客がパラパラと気のない拍手が送る。
こんな様子も流行らない酒場の様子に似ている。
そんな気持ちが顔に出たのだろうか、昨日僕に絡んで来た王族が祭壇の上から僕を指差して叫んだ。
「貴様、笑っただろう」
聖魔法を披露した王族達全員が殺気の籠もった目で僕を睨む。
八つ当たり的な招待客に対する鬱憤も籠もっているような気がする。
「貴様の低俗な魔法と違い、聖魔法は選ばれた者のみに女神様から許された神聖で高貴な魔法だ。聖魔法を使えない貴様が我らを笑うとは女神様を屈辱するに等しい行いだ」
「そうよ、そのとおりよ。衛兵、神殿兵、あいつを切り刻みなさい」
「あいつの首を切り落として女神様に捧げろ」
「楽に死なすな、引き回してから五寸刻みにしろ」
「殺せ、殺せ」
祭壇の上の王族達が好き勝手に叫び始め、式典は大混乱だ。
招待客達は、寝ていた手前後ろめたいところがあるのだろう、ばつが悪そうに祭壇の上を見詰めている。
頼りの第一王子と宰相も天井を見上げて思考放棄している。
祭壇の上の王族が雪崩を打ってこちらに向かって来るのは時間の問題だ。
僕は素早く逃走経路を頭に思い浮かべる。
大丈夫だ、逃げ切れそうだ。
そんな中、王妃様が突然、小さな巾着袋から銀色の鬘を取り出して僕に被せた。
多分巾着袋は収納の魔道具なのだろう。
そしてゆっくりと立ち上がって周囲を見渡すと、突然良く通る声で宣言した。
「それでは、これから第四王女のマロネーゼが聖魔法を披露いたします」
「えー!」
「ユーリ、早くマロネーゼの振りをなさい」
マロネーゼさんが今日来ていないことは皆知っている。
王妃様のとんでもない宣言に、祭壇の上の王族は勿論、第一王子も含めた祭壇下の王族も固まっている。
王妃様が招待客全員の視線を集めている。
本人は堂々としているが、今更迷惑なお婆さんの冗談ですとも言えない。
こうなったらやけくそだ。
全力でマルローゼさんの振りをするしかない。
幸い、フィラ師匠に興味本位で一通りの呪文を出来るかどうか唱えさせられたので、聖魔法も覚えている。
鬘を整え、女性らしい所作を意識して椅子から立ち上がる。
上着の裾を軽く摘んでカーテシーをして、優雅に見える様に軽く頭を下げる。
不自然に見えない様に、心を女神様の彫像に捧げるような動作で両掌を胸の前に広げ、掌の上にオーラで玉を作る。
女性の声で呪文を唱える。
僕の声が礼拝堂全体に思った以上に大きく響き渡り、ちょっとびっくりする。
声が礼拝堂の中で共鳴し始め、オーラの玉と共振し始めてしまった。
なんだか物凄く怖かったが止めるわけにも行かない。
聖魔法が発動すると、礼拝堂の中空に聖魔法の世界とのゲートが開いてしまう。
広域から邪素を物凄い勢いで吸い込んでいる気配があり、たぶん、聖都の外の邪素も吸い込まれているだろう。
そこで終われば何とか規模の大きい聖魔法でしたと誤魔化せたのだが、タイミングの悪いことに、向こうの世界の住人だろうか、金色に輝く女性がゲートを抉じ開けてこちらをのぞき込んだ。
「おー!」
何を勘違いしたのか、神殿関係者が胸の前で手を合わせ、跪いて涙を流している。
招待客も戸惑いながら、取り敢えず手を合わせて祈っている。
王族は、固まって動けない。
「さっユーリ、今のうちに逃げるわよ」
「了解です」
僕も逃げるのは得意だ。
逃げるなら、皆が中空を見詰めている今が絶好の機会だ。
王妃様と二人でさっさと逃げ出した。
王妃様の護衛も侍女も、慣れた様子で追いて来ている。
「なんで鬘なんか持ってたんですか」
「招待客からマロネーゼのことを聞かれたら、あなたに化けて貰って、相手をして貰おうかと思っていたの」
「・・・・・」
「せっかく持って来たのに勿体ないでしょ。だから使う機会を伺ってたのよ。ちょうど良かったわ。でも、あの子の聖服も持って来たのに無駄になっちゃたわね。ねえ、着てみる」
「遠慮します」
「似合うと思うんだけどな」
今度は、王妃様の隣に座っている美人の若い女性、たぶん二十歳前だろうか、が王妃様に絡んで来た。
多少言葉に険を含んでいるので、たぶん他の妃の子供なのだろう。
聖服を纏っているので今日の式典の参加者だ。
自分も崖っぷちに追い込まれつつあるので、マロネーゼさんの動向が凄く気になるのだろう。
「それはこの子のところで一「旅に出ました。暫く戻らないそうです!」ので、仕方なく寝ているのよ」
必死に言葉を被せた。
この婆、冗談かと思っていたのに、朝方言っていた説明を本当にしている。
「貴様うるさいぞ。黙っていろ。お母様、もう一度」
「この子のところで「旅に出ました。暫く戻らないそうです!」たので、仕方なく寝ているのよ」
僕も必死だ。
王妃様の隣に腰掛ける僕を、昨日絡んで来た王族がずっと睨んでいるし、何故か他の王子達もさっきからずっと僕を睨んでいる。
たぶん昨日のことがまだ尾を引いており、僕を不愉快に思っているのだろう。
この雰囲気の中で、王族を手籠めにしたような説明をされたら、何が飛んでくるか判らない。
「貴様・・・!、わらわを愚弄しおって。衛兵、こ奴を切り刻め。貴様、ただで済むと思うなよ」
怒っている、物凄く怒っている。
こめかみに青筋を立てて怒っている。
ルーナの森のオーガより顔が怖い。
うっかり敵を一人追加注文してしまったようだ。
直ぐに逃げ出そうと思い、腰を浮かせながら衛兵達を振り返ったが、衛兵達に動く気配は無い。
互いに顔を見合わせて判断に迷っているようだ。
「何をしているの、早くなさい!」
礼拝堂にヒステリックな金切り声が響き渡る。
他国からの招待客が驚いてこちらを見ている。
招待客の目もあるので、衛兵達も動けないで困っているのだろう。
このような場合の解決策なのだろうか、衛兵達は第一王子と宰相を懸命に見詰めて指示を待っている。
王様の方と王妃様の方は一顧だにしない様子が、この国の今の現状を物語っている。
たぶん、このようなトラブルはすべて第一王子と宰相の判断に丸投げなのだろう。
第一王子と宰相がこめかみと胃を抑えながら溜息を吐いている。
「母さん、式典の妨害をするのは止めて下さい。ユーリも母さんの挑発に乗るな」
「あら酷い、私が悪者みたいじゃないの」
「申し訳ありません!」
僕は土下座した。
周りが視界から消えるし、一番慣れた行動パターンなのでなんだか安心する。
「衛兵!私の命令に従えないの」
「うるさいぞマリアンナ、黙っていろ。皆様、お騒がせいたしまして申し訳ありませんでした。奉聖天楽の式典を再開させて頂きます。ユーリ、見苦しいから座れ」
知らない間に式典が始まっていたらしい。
顔を上げたら、祭壇の上から大勢の神官達が困惑した迷惑顔でこちらを見詰めている。
土下座には自信があったのに、見苦しいとは酷い言われようだ。
このままの方が落ち着くのだが、王子殿下の命令なので立ち上がって椅子に座る。
王妃様はなにやら嬉しそうな顔をしているが、その隣のマリアンナ王女様は、オーガを食い殺しそうな怖い顔をして僕を睨んでいる。
「それでは神官長殿、再開して下さい」
神官達が女神様の彫像に向き直り、鈴杖を打ち鳴らしながら聖文を唱え始めた。
女神様の彫像は、昨日僕が洗ったのでぴかぴかだ。
なんか女神様が嬉しそうに微笑んでいるような気がする。
聖文を唱え終わると、神官達が順番に聖符を発動させて場を清めていく。
僕の家の聖符を使っている人が何人か居た。
光の広がる範囲と使い終わった後の空気の透明度が違うので、一目瞭然だ。
何だかちょっと誇らしい。
神官が場を清め終えると王族達の出番らしい。
聖服を着た王子や王女達が立ち上がり、祭壇へ向かってぞろぞろと歩いて行く。
「あう!」
マリアンナ王女様が、目の前を通り過ぎるついでに僕の足を思い切り踏んで行った。
ーーーーー
祭壇の上に全員が並び終わると、神官達と同様一斉に聖文を唱え始めた。
聖文を唱え終わると全員その場に片膝をついて跪き、宰相の紹介の声に併せて一人だけ立ち上がると、祭壇の中央に歩み出て聖魔法を披露する。
昨日の魔法の奉納と比べ、大げさな身振り手振りが入る聖文の前振りがやたらに長い。
女神様を讃える聖文なのだが、女神様の彫像にお尻を向けて招待客が座っている席の方を向いている。
女神様への信仰よりも大事なことなのだろう。
現実の目に見える利益の方が、見返りの無い信仰よりも判りやすい。
聖魔法自体は、はっきり言ってしょぼい。
発声方法が悪いのだろうか、呪文が共鳴している気配が薄い。
中には、魔法が発動していること自体がはっきりしない人もいる。
それでも呪文の朗詠はよどみが無く力強い。
長い聖文も朗詠を間違える人は無く、今日に向けて相当な努力と修練を積み重ねて来たことを伺わせる。
だが本人達が一生懸命でも、同じ面白く無い聖文と呪文を延々と聞かされれば飽きてくる。
聖魔法の披露を終えた王族達もまだ祭壇で跪いているので、暫く招待客達も我慢している。
だが、最前列に座っている人が一人船を漕ぎ始めると、雪崩を打ったように、後ろに座っている招待客も一斉に船を漕ぎ始めた。
聖魔法の披露が終盤に近付くと、もう殆ど全員が寝ている状態となっている。
昨日僕に絡んで来た王族は、王族としての地位は低いらしく、最後から三番目だった。
鼾を掻き始める招待客も出始め、聖魔法を披露する姿が、流行らない酒場で芸を披露する芸人のようで可笑しかった。
最後の一人の聖魔法の披露が終わると、祭壇の上の王族全員が立ち上がって聖句を唱和する。
王族達が立ち上がる音にはっと目覚め、我に返った招待客がパラパラと気のない拍手が送る。
こんな様子も流行らない酒場の様子に似ている。
そんな気持ちが顔に出たのだろうか、昨日僕に絡んで来た王族が祭壇の上から僕を指差して叫んだ。
「貴様、笑っただろう」
聖魔法を披露した王族達全員が殺気の籠もった目で僕を睨む。
八つ当たり的な招待客に対する鬱憤も籠もっているような気がする。
「貴様の低俗な魔法と違い、聖魔法は選ばれた者のみに女神様から許された神聖で高貴な魔法だ。聖魔法を使えない貴様が我らを笑うとは女神様を屈辱するに等しい行いだ」
「そうよ、そのとおりよ。衛兵、神殿兵、あいつを切り刻みなさい」
「あいつの首を切り落として女神様に捧げろ」
「楽に死なすな、引き回してから五寸刻みにしろ」
「殺せ、殺せ」
祭壇の上の王族達が好き勝手に叫び始め、式典は大混乱だ。
招待客達は、寝ていた手前後ろめたいところがあるのだろう、ばつが悪そうに祭壇の上を見詰めている。
頼りの第一王子と宰相も天井を見上げて思考放棄している。
祭壇の上の王族が雪崩を打ってこちらに向かって来るのは時間の問題だ。
僕は素早く逃走経路を頭に思い浮かべる。
大丈夫だ、逃げ切れそうだ。
そんな中、王妃様が突然、小さな巾着袋から銀色の鬘を取り出して僕に被せた。
多分巾着袋は収納の魔道具なのだろう。
そしてゆっくりと立ち上がって周囲を見渡すと、突然良く通る声で宣言した。
「それでは、これから第四王女のマロネーゼが聖魔法を披露いたします」
「えー!」
「ユーリ、早くマロネーゼの振りをなさい」
マロネーゼさんが今日来ていないことは皆知っている。
王妃様のとんでもない宣言に、祭壇の上の王族は勿論、第一王子も含めた祭壇下の王族も固まっている。
王妃様が招待客全員の視線を集めている。
本人は堂々としているが、今更迷惑なお婆さんの冗談ですとも言えない。
こうなったらやけくそだ。
全力でマルローゼさんの振りをするしかない。
幸い、フィラ師匠に興味本位で一通りの呪文を出来るかどうか唱えさせられたので、聖魔法も覚えている。
鬘を整え、女性らしい所作を意識して椅子から立ち上がる。
上着の裾を軽く摘んでカーテシーをして、優雅に見える様に軽く頭を下げる。
不自然に見えない様に、心を女神様の彫像に捧げるような動作で両掌を胸の前に広げ、掌の上にオーラで玉を作る。
女性の声で呪文を唱える。
僕の声が礼拝堂全体に思った以上に大きく響き渡り、ちょっとびっくりする。
声が礼拝堂の中で共鳴し始め、オーラの玉と共振し始めてしまった。
なんだか物凄く怖かったが止めるわけにも行かない。
聖魔法が発動すると、礼拝堂の中空に聖魔法の世界とのゲートが開いてしまう。
広域から邪素を物凄い勢いで吸い込んでいる気配があり、たぶん、聖都の外の邪素も吸い込まれているだろう。
そこで終われば何とか規模の大きい聖魔法でしたと誤魔化せたのだが、タイミングの悪いことに、向こうの世界の住人だろうか、金色に輝く女性がゲートを抉じ開けてこちらをのぞき込んだ。
「おー!」
何を勘違いしたのか、神殿関係者が胸の前で手を合わせ、跪いて涙を流している。
招待客も戸惑いながら、取り敢えず手を合わせて祈っている。
王族は、固まって動けない。
「さっユーリ、今のうちに逃げるわよ」
「了解です」
僕も逃げるのは得意だ。
逃げるなら、皆が中空を見詰めている今が絶好の機会だ。
王妃様と二人でさっさと逃げ出した。
王妃様の護衛も侍女も、慣れた様子で追いて来ている。
「なんで鬘なんか持ってたんですか」
「招待客からマロネーゼのことを聞かれたら、あなたに化けて貰って、相手をして貰おうかと思っていたの」
「・・・・・」
「せっかく持って来たのに勿体ないでしょ。だから使う機会を伺ってたのよ。ちょうど良かったわ。でも、あの子の聖服も持って来たのに無駄になっちゃたわね。ねえ、着てみる」
「遠慮します」
「似合うと思うんだけどな」
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
俺の伯爵家大掃除
satomi
ファンタジー
伯爵夫人が亡くなり、後妻が連れ子を連れて伯爵家に来た。俺、コーは連れ子も可愛い弟として受け入れていた。しかし、伯爵が亡くなると後妻が大きい顔をするようになった。さらに俺も虐げられるようになったし、可愛がっていた連れ子すら大きな顔をするようになった。
弟は本当に俺と血がつながっているのだろうか?など、学園で同学年にいらっしゃる殿下に相談してみると…
というお話です。
俺が死んでから始まる物語
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。
余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。
そこからこの話は始まる。
セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います
とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。
食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。
もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。
ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。
ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
完結 シシルナ島物語 少年薬師ノルド/ 荷運び人ノルド 蠱惑の魔剣
織部
ファンタジー
ノルドは、古き風の島、正式名称シシルナ・アエリア・エルダで育った。母セラと二人きりで暮らし。
背は低く猫背で、隻眼で、両手は動くものの、左腕は上がらず、左足もほとんど動かない、生まれつき障害を抱えていた。
母セラもまた、頭に毒薬を浴びたような痣がある。彼女はスカーフで頭を覆い、人目を避けてひっそりと暮らしていた。
セラ親子がシシルナ島に渡ってきたのは、ノルドがわずか2歳の時だった。
彼の中で最も古い記憶。船のデッキで、母セラに抱かれながら、この新たな島がゆっくりと近づいてくるのを見つめた瞬間だ。
セラの腕の中で、ぽつりと一言、彼がつぶやく。
「セラ、ウミ」
「ええ、そうよ。海」
ノルドの成長譚と冒険譚の物語が開幕します!
カクヨム様 小説家になろう様でも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる