アポカリプスな時代はマイペースな俺に合っていたらしい

黒城白爵

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第一章

第二話 今の俺は盗賊かもしれない

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 ◆◇◆◇◆◇


 初モンスターエンカウント後、目的地に向かって歩いているのだが不思議なほどに人にもモンスターにも出くわさない。
 人やモンスターだけでなく車も全く走っていなかった。
 どこからか走行音は聞こえてくるので偶々だと思われる。
 いや、実際にはここにも車はある。正確には事故車が、だが。
 気配がするのでコッソリと覗き込むと、運転席で死んでいる運転手の腹をナイフで裂いている最中のゴブリンがいた。
 ついに二体目のモンスターとのエンカウントを果たした。
 帰りの安全確保のためにも今のうちに倒しておこう。
 出来る限り音を殺して近付いていく。

 初の戦闘を経験したからか、自分でも驚くほどに冷静だ。
 足音を殺し、気配も殺した上で自然体の動きで此方に背中を向けているゴブリンに近づいていった。
 ゴブリンは俺の影が自分に重なって漸く気付いたが、その時にはゴブリンの首に向かって包丁を突き出していた。
 結果、断末魔の悲鳴を上げさせることなく、スムーズな流れでゴブリンを処理することに成功した。
 決め手は右手の包丁と、痛みに暴れるゴブリンを殴打するのに使った左手の血糊付きの石だ。


「我ながら巧みだったな」


 ゴブリンのナイフを戦利品として胸ポケットに入れると、運転手の冥福を軽く祈ってから先に進む。
 目的地に向かって歩いていると自然と脳内に某有名RPGの名曲が再生される。
 流石に口ずさむほどではないが、脳内再生するほどには余裕があった。

 相手がゴブリンとはいえ、生き物を殺すなんて当然ながら初めてのことだ。
 ただの凡人である俺がモンスターと普通に戦えていることを考えると、他の人々も同じかそれ以上に戦えているだろう。


「……下手したら人も相手にしないといけないかもな」


 不安な気持ちを言葉に出して気を紛らわせていると目的地が見えた。
 食料調達先として定めた目的地は近所のスーパーだ。
 普段から日常的にお世話になっていたので、非日常になってからもお世話になるとしよう。
 街路樹の陰から顔を出して確認すると、スーパーの駐車場には事故車がいくつも確認できた。
 きっと慌てて車で逃げようとして事故ったのだろう。
 車内に人影はなく、車外には血痕はあるが死体は見当たらない。
 今の時刻が営業時間前であることから、この事故車両の持ち主達も俺と同じ思惑で此処を訪れたのだと思われる。


「つまり、まだ店内に人がいるかもしれないというこ……」


 重々しい足音が聞こえたので咄嗟に口を閉じて近寄っていた車の陰に隠れた。
 やがて店の裏手のほうから二メートルを少し超えるぐらいの巨体が姿を現した。
 ゴブリンをそのまま大きくし、鼻を豚鼻にしたような人型モンスターだ。
 便宜上オークと呼称するとしよう。

 オークは血塗れのヒトの腕らしきものを持ったまま店の前の駐車場を徘徊し始めた。
 もしかすると此処はこのオークの縄張りなのかもしれない。
 どうしたものか……まぁ、どうにかなるだろう。

 オークが店の前から離れたのと入れ替わるように、車の陰を渡っていき出入り口から店内へと侵入した。
 入ってすぐのところにあった買い物カゴを手に取り、菓子パンと惣菜パン、サンドイッチを適当に投げ入れる。
 今月の安売りであるポテチも店の出入り口近くにあったので、これも適当にカゴに投げ入れる。


「いやいや、これじゃないだろ……」


 つい目移りしてしまったが、狙いは別の物なので足早に店内を移動していく。
 意識を集中して気配を探ると、俺以外に二つほど生物の息遣いがある……気がする。
 気のせいかもしれないが、人かモンスターか分からないので念のためそっちには向かわないでおく。

 勝手知ったる店内なのですぐに目的地である食品コーナーに到着した。
 カゴを静かに置くと、背中のリュックサックを下ろして次々と缶詰類を入れていった。
 サンマに肉にス○ムにコーンと手当たり次第に入れていく。
 大型リュックサックの半分ほどが埋まったタイミングで一度背負ってみる。
 意外とまだ余裕があったので、隣の通路にあるレトルトご飯を四パック持ってきてリュックサックに詰めた。
 隙間にレトルトカレー辛口味とふりかけ類を詰めて、駄目押しに瓶類も入れてまた背負う。
 流石にズッシリとしているが歩けなくなるほどではない。


「まだイケる、まだイケる」


 自分を説得すると、通路の端に置かれているカゴを取り、左手にパンとポテチを入れたカゴを、右手に空のカゴという状態ですぐ近くの精肉コーナーへ移動した。
 普段は高くて買えなかった牛肉だけでなく、鶏肉にウィンナーなどを入れていく。
 魚介類は悩んだが、肉よりも臭いが強そうなので自重した。


「ッと、来たか」


 あの重々しい足音が床から響いてきた。
 新たに店内にエントリーしてきたこの気配がオークで間違いないだろう。
 静かに動き、避けて脱出しなくては!
 豆腐やモヤシなどを肉カゴに入れながら行動方針を決めると、抜き足差し足で移動する。
 棚の陰から陰へと移動していく。

 バリボリという音が野菜コーナーから聞こえてくる。
 意外とオークはベジタリアンなんだろうか?
 そんなことを考えつつ出入り口に向かっていたが、あることに気付き慌てて来た道を戻る。
 物陰から出入り口を覗き込むと、二体目のオークが入店してきた。


「オーマイガッ」


 囁くように小声で悪態を吐くと、店内の地図を思い浮かべる。
 もう一つ出入り口はあるが、そちらは野菜コーナーに近いのでベジタリアンオークとエンカウントしてしまう。
 となると活路は裏口しかないな。
 真っ直ぐ此方に向かってくる二体目のオークの気を逸らすべく、近くの衣類のハンガーを取って隣の通路に向かって投げる。
 思ったよりも大きく鳴った音に俺の心臓が大きく跳ねる。
 非常に心臓に悪かったが、おかげで二体目のオークの進路が変わった。

 今のうちにバックヤードへと繋がる裏口に向かっていると、途中の通路に気配を殺して震えている女子がいた。
 私服だが、たぶん高校生か大学生だろう。どうやら足が竦んでいるようだ。
 数秒見つめ合うが、スルーして裏口へと向かった。
 非常に好みなスタイル抜群の美女とかだったら助けたかも……いや、食欲には敵わないので行動は変わらなかっただろうな。

 背後から俺を呼び止める声が聞こえるが、雑音を無視して駆け足でバックヤードへと入っていった。
 入れ替わるように通った扉の向こうからオーク二体分の咆哮と女子の悲鳴が聞こえてくる。ギリギリだったな。
 この騒ぎなら多少音を立てても問題無さそうだ。


「大体こういうところには荷車なカートが……あったあった」


 心中で女子の冥福を祈りながら良さげなカートにカゴを二つ載せ、バックヤードにあったカップ麺の箱も適当に載せていく。
 ガラガラとカートを押して従業員出入り口から外に出ると、そこには肉片が散乱した血溜まりがあった。


「ああ、あの腕はここのか」


 どうやら一体目のオークの食事場だったらしい。
 視線を足元から前方へと向けると、そこには軽トラがあった。
 荷台手前にはカップ麺の箱の山が崩れていた。
 考えることは皆一緒だということが分かった。


「おっ、鍵が刺さってる。普段はマニュアルじゃないから運転できるかな……」


 カートごと荷台に載せると、崩れたカップ麺の山から潰れていない無事な数箱も載せる。
 助手席にリュックサックを置いてから運転席に乗り込みエンジンをかけた。


「おおっ、教習所以来だが意外と覚えているもんだな」


 ドライブに入れてからアクセルを踏み込んだタイミングでオークが外に出てきた。
 口元を赤く染めたオークの手には見覚えのある片足が握られている。


「あばよ、ブタ公」


 オークの雄叫びを聞きつつアクセルを吹かせる。
 巧みなドライビングテクニックで駐車場を駆け抜けると、その勢いのまま車道に出た。
 ルームミラー越しに後方を見るとオークが一体追いかけてきていた。
 思ったより速いが車ほどではない。
 段々と小さくなっていくオークから視線を外し、追跡を振り切るために少し遠回りしてから自宅への帰路に着いた。



 
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