アポカリプスな時代はマイペースな俺に合っていたらしい

黒城白爵

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第一章

第五話 鬼の居ぬ間にとはいかないらしい

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 ◆◇◆◇◆◇


 今日の朝食は肉だけでなく、もやし以外にもトマトなどの野菜が添えられている。
 この野菜達は、昨夜の狩りの帰りにふと思い至り、下階の無人の家を回っていって冷蔵庫などから回収してきた食料品の極一部だ。
 包丁などの武器も大量に回収できたとあって、物資調達先はすぐ身近にあったことに愕然としたものだ。
 家の冷蔵庫の容量には限界があるので、残りの家から食料品を回収して回るのは後日になる。

 昨夜のことを思い出し軽く落ち込んだ気持ちを、要らない古いフライパンを手の力のみで変形させていくことで紛らわせる。
 一夜明けて身体の強化具合は更に進み、今やフライパンを手のひらサイズの鉄球へと簡単に圧縮できるほどの筋力を発揮できるほどになった。
 幸いにも、力加減が上手くいかず日常生活を送れないといったことはなく、怪力を発揮するか否かは俺の意思次第らしい。


「この身体能力ならオークとも戦えそうだ」


 日が経つごとに食料品の調達は困難になる。
 そう考えると、今日にでもオーク達を駆逐しに向かったほうがいいだろう。
 今回は、防具代わりの革ジャンと革手袋に加えて、骨を断つ用の出刃包丁を三つ、刺突用の工具箱から大型のドライバーを四つ、撲殺用の物干し竿を一つ、投擲用のゴブリンナイフを十本を装備している。
 一番の武器はこの身体だが、文明人が戦う際は何かしら武器を使うのが最適解なはずだ。

 不意打ちを防ぐべく、前回と同様に徒歩でスーパーに向かう。
 この数日で人だけでなくモンスターの気配も減った気がする。
 各地に避難場所ができているらしいし、一縷の望みに賭けて避難した者もいるだろう。
 そして、その避難民を追いかけていったモンスターも。
 あとは単純に人を狩り尽くしたモンスターが、獲物を求めて移動したとかだろうか。


「まぁ、俺は好きに行動し生きるだけだ」


 そのためにもオークを狩るのだ。
 やがてスーパーが視界に入ると、スーパーの敷地内の気配を探る。
 探知した結果、変わらず二体のオークがスーパーを陣取っていることが分かった。
 今は二体とも駐車場にいるようだが、出来れば一体ずつ戦いたいところだ。
 スーパー近くの二階建てアパートの二階から目を凝らしてオーク達の姿を確認する。


「……どうやら奴らも食事中らしいな」


 焚き火で串に刺したナニカを炙りつつ、スーパーで手に入れたらしき酒を飲んでいるのが確認できた。
 オークも人と同じような酔い方をするかは不明だが、これなら二体同時に戦っても勝てる気がする。
 となると、大事なのは一撃目だろう。
 一撃目で大ダメージを与えれば後の戦いを優位に進められるはずだ。
 そう判断し、眼下に見える乗り捨てられている中型トラックの運転席へと向かった。
 残念ながら物干し竿は運転席に持ち込めなかったため、此処に置いていかざるを得ないようだ。

 シートベルトをしてからエンジンをかけると、フルアクセルでスーパーの駐車場へと突貫する。
 騒音に驚いているオーク達に向かってノンストップで突撃した。
 直後に襲い掛かった衝撃を強化された肉体で耐えつつブレーキを掛ける。
 エアクッションを掻き分けると、すぐさま運転席から降りて右手に出刃包丁を構えた。
 オーク達が事故車両の方へと吹き飛んでいったのは見えたが、どれほどのダメージを受けたかは分からない。
 土煙が起きているせいで視界は悪いが、感じられる気配からまだ生きていることは確実だ。

 
「うおっ!? まだまだ元気じゃないか!」


 土煙の中から投げられてきた自動車部品を間一髪で避ける。
 程なくして土煙が晴れた先には、口から血を流し、腕や足が変に曲がった状態の怒りの形相を浮かべている二体のオークがいた。
 手招きするように指先だけ動かして挑発すると、オーク達が同時に突撃してきた。
 左手でポケットからゴブリンナイフを抜き取り、オーク達の顔面へと投擲する。
 反射的に顔を庇う動きを見せたタイミングでオーク達に向かって焚き火を崩した。
 巻き起こった火の粉にオーク達が怯んだ隙に気配と音を殺し、オーク達の背後へと回り込みながら左手でも出刃包丁を引き抜く。
 後ろを向いている一番手前のオークの背中に向かって飛び掛かると、両手の出刃包丁を左右から首筋へと突き刺す。
 度重なる強化による怪力を十全に発揮し、一息にオークの首を斬り裂いた。

 噴水のような血飛沫を浴びつつ、悲鳴を上げるオークの身体を盾にしながら逆時計周りに駆ける。
 もう一体のオークの気配から動きを先読みし、その背後へと回り込んだ。
 今回は角度が悪いので首筋は諦め、左手の出刃包丁の柄を咥えてから、空いた左手でドライバーを引き抜きオークの膝裏へと突き刺した。
 そのまま駆け続けると、再びフリーになった左手で出刃包丁を構えると蹲っているオークへと再度襲い掛かった。


「ふぅ。思ったよりは上手くいったな」


 屍を晒す二体のオークの前で一息吐く。
 これで物資調達が容易になるはずだ。


「さてと。物資を回収ーー」


 直後、大気が震えるかのような咆哮が身体を突き抜けた。
 耳を抑えたまま視線を向けると、目と鼻の先の車道に三メートルを超える大きさの大鬼が此方を見据えているのが見えた。


「はっ……ここからが本番ってか」


 オーク戦に集中し過ぎたせいで周辺の探知が疎かになっていたらしい。
 予定外の相手かつ勝てるかどうかの予想も付かない初エンカウントのモンスターだが、生き延びるには戦うしかないようだ。


 
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