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第一章
第四十九話 美食家、悪食家 中編
しおりを挟む「何故あの番組を企画したんだ?」
そもそもの会話の目的は救出のための時間稼ぎなので、せっかくの機会だから率直に尋ねることにした。
「何故、か……キミはモンスターの肉は食べてくれたかな?」
「ああ。意外な美味さに驚いたよ」
「そうだろう? 食用可能なモンスター肉の需要は今の世の中では凄まじく高い。しかも質と味まで良いともなれば貴賤問わず皆が求めるだろう。ボクが番組で周知せずとも、いずれ食料不足に陥った人々は必要に駆られてモンスターの肉などに手を出していたはずだ。そうすることで人々の超人化も進んだことだろうね」
「そうかもしれないな」
「でも、それじゃあ遅すぎる。ボクが食べたい超人の肉が全く増えてくれないし、質も今よりも落ちていることだろう。だから、育てることにしたのさ……どういうことか分かるかい?」
「……畜産か」
俺の端的な答えを聞いたグルメが笑みを浮かべる。
背筋がゾクっとするような、猟奇的かつ妖しさを感じる嫌な笑みだった。
きっと被捕食者の気分ってこんな感じなんだろうな。
「正解だよ。好みの肉が無いなら自分で育てるのが早い。だが、一人一人手間暇掛けて育てるのは非効率すぎる。だから、まだ使えていたテレビを有効活用することにしたのさ。やはり、文明の利器というのは素晴らしいね。どれだけ終末的な未曾有の危機に陥っても、人は救いを求めてテレビやSNSなどの文明的な情報獲得手段に縋りつかずにはいられない。面と向かって説得するよりもアッサリと、人々はモンスターに立ち向かっていき自らを変質させていったよ」
確かに、直接会って一人ずつ説明して説得するよりも、多くの人々へと情報を発信することができるので効率が良い。
実際、俺達も深く考えずにモンスター肉が食用可能かを試していた。
俺達のように超人化が進んでいない者達や非超人の一般人達の場合は、食料不足という危機感から食いつくように観ていただろうしな。
「それと、これはボクだけだが、同程度の強さの超人の場合、モンスター肉を食べている超人の方が味が良いし、〈捕食〉による強化効率が高いんだ。おそらくはモンスター肉に含まれる新物質が原因だろうね」
新物質……俺とソフィアが〈魔力〉と呼んでいる要素のことかな?
モンスター肉を食べると能力使用回数が増えるのも、モンスター肉に含まれる魔力を取り込んだことで体内の魔力量が増えたことが原因だと考えている。
モンスター討伐によって超人化が進むことでも能力の使用回数が増えているので、討伐でも魔力を取り込んでいるのかもしれない。
そう考えると、グルメの話と合わせて色々と辻褄が合うな。
「……モンスター肉も強い個体ほど美味い気がしたな」
「そうだね。モンスターの肉についてはボクも同意見だ。そうして人々にモンスターの命という上質なエサを自ら摂取させるのが、ボクが番組を企画した理由だよ」
「善意はなかったと?」
「まぁ……少しはあったけど、食欲と強くなりたいという欲求には及ばないよ。だから、キミとキミの仲間も逃すわけにはいかないんだよ」
これまでの穏やかな雰囲気を完全に消し去り、合間合間に見せていた捕食者の顔を剥き出しにしてきた。
これまで発していた気配も抑えられたものだったらしく、解放された気配はボスモンスターである黒ミノタウルスを軽く上回っていた。
「やはりそうか。それなら、俺もこの言葉を返そう。ここを通りたければ俺を倒してからいけ」
言葉を吐き捨てると同時に〈錬金鎧〉を発動して全身を金属鎧化させるとともに、此方も抑えていた気配を解放する。
最初から〈黒化〉も使用すると、全身と持参したグレイヴを漆黒に染め上げて強化した。
「……ハハッ。イイね。これまで食べた中でもダントツで美味そうじゃないかッ!!」
グルメの口が耳のあたりまで一気に裂けると、両方の掌にも裂け目が生まれた。
両手の掌の裂け目にはギザギザの鋭い歯らしきモノが生え揃っているため、おそらくアレらも口なのだろう。
更に腰の辺りからは爬虫類のような質感の尻尾が、衣服で隠れていない素肌の部分には鱗のようなモノまでが生えてきた。
背中からは衣服を突き破って謎の棘まで生えてきているし、辛うじて人だと分かるのは頭部ぐらいだろう。
「最早人間には見えないな」
「キミの方こそ生物には見えないよ」
お互いに本気の戦闘態勢が人間を辞めた外見だというのは、正直嫌な共通点だな。
まぁ、俺は武器を使うし変異しても鎧姿なので、まだまだ人間寄りなはずだ。
最後に〈闘牛本能〉を発動させて身体能力を超強化すると、グルメへと斬り掛かっていった。
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